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【百年ニュース】1921(大正10)12月2日(金) 画家の谷内六郎が東京恵比寿で誕生。駒澤尋常高等小学校卒業,見習工で働きながら独学で絵を学ぶ。1956(昭和31)『週刊新潮』創刊号以降終生に渡り表紙絵を担当。総点数1336本。表参道交差点の山陽堂書店の壁画としても親しまれる。1981(昭和51)没,享年59。

幼少~青年時代

画家の谷内六郎たにうち ろくろうが東京の恵比寿で誕生しました。父の谷内久松たにうち ひさまつは富山県西礪波郡にしとなみぐん北蟹谷村きたかんだむら(現在の小矢部市)の出身で獣医学校の寄宿舎管理人でした。男ばかりの9人兄弟で、六郎の名前が示す通り六男として生まれました。

駒沢尋常高等小学校(現在の世田谷区立駒沢小学校)で学びますが、病気にかかりやすい体質で、6~7歳のころからは持病の喘息のため病床で過ごすことも多かったようです。小学校時代から図画の成績はトップクラスでした。小学校卒業後は電機工場の見習工として働きながら、独学で絵画の勉強を続けました。看板描きのアルバイトのほか、マンガなどを新聞や雑誌によく投稿し、戦時中は海軍工廠にもいました。

長兄の谷内一郎が社会主義リアリズムの進歩的な画家であったことに影響を受け、六郎も戦後はマンガ仲間の鈴木善太郎、片寄貢らと銀座の街頭で政治風刺漫画を描きました。また左翼系雑誌『民報』に四コマ漫画「真実一郎君」を連載し精力的に活動しましたが、ノイローゼにかかって一時入退院を繰り返しました。

『週刊新潮』表紙絵

1954(昭和29)年に漫画評論家の伊藤逸平と出会います。伊藤は1946(昭和21)年にイヴニングスター社の専務として漫画風刺雑誌「VAN」を創刊し、編集長として活躍していました。伊藤は谷内六郎の描いた絵を見て即座にその才能を見抜き、その絵を文芸春秋に持ち込みます。

1955(昭和30)年の『漫画読本』に谷内六郎の作品「行ってしまった子」10点が、カラー8ページの破格の扱いで掲載されました。翌年の谷内は「おとなの絵本」で第一回文芸春秋漫画賞を受賞しました。選考委員であった吉川英治が絶賛したと言います。なかでも「ビール会社の坂道」は自分が生まれた恵比寿のビール工場付近の坂の上の二人の子供が印象的な作品です。この受賞により谷内の知名度は一気に広がりました。

朝日新聞 1955(昭和30)年6月21日

そして1956(昭和31)年創刊の『週刊新潮』の表紙画を谷内が担当することになったのです。同年2月19日の創刊号では、谷内が幼少の頃から頻繁に病気療養のため訪れた千葉県御宿町おんじゅくまちの風景を描きました。

週刊新潮 1956(昭和31)年2月19日号

谷内は創刊号から25年間、死去するまで表紙を描き続けました。谷内の毎号子どもを配した抒情的な童画は『週刊新潮』の顔であり続けました。あわただしい日常生活を思わず忘れさせるような郷愁を感じさせる魅力的な絵画は大きな人気を集めました。描いた『週刊新潮』の表紙の総点数1336本になります。

谷内の『週刊新潮』の表紙絵のひとつが、現在では東京の表参道交差点のシンボルになっています。交差点の交番わきにある老舗の本屋さん、山陽堂書店のモザイク壁画として親しまれています。《傘の穴は一番星》という素晴らしい絵です。私も時々表参道は自転車で通るのですが、郷愁あふれるこの巨大な絵を目にするたびにいつも癒されています。

表参道交差点の山陽堂書店

1975(昭和50)年に谷内六郎は神奈川県横須賀市鴨居にアトリエを構えました。そして宮城まり子が運営する「ねむの木学園」(静岡県小笠郡浜岡町)で子供たちの絵の指導をするようになりました。しかし1981(昭和56)年1月23日に急性心不全のため世田谷区砧の自宅で死去しました。享年は59歳でした。

横須賀美術館の騒動

1998(平成10)年1月23日、谷内六郎の遺族により『週刊新潮』表紙原画や挿絵など約5,000点が横須賀市に寄贈され、横須賀美術館に展示されることとなりました。寄贈にあたり美術館アドバイザーとして谷内六郎の長女に月額22万8,700円の委嘱報酬が支払われる契約が結ばれました。これは1年ごとに延長されて最長で25年とされており、満期まで続けば計約7千万円が支払われることになっていました。

しかし2009(平成21)年にこのアドバイザリー契約が違法な支出だとして、横須賀市民2名により吉田雄人横須賀市長が訴えられる事態となり、2010(平成22)年度予算から計上されず打ち切られることとなりました。すると今度は遺族側から寄贈作品を返却するよう求める訴えが起され、横須賀市は返還を拒否して争いました。結局「返還の義務はない」とした一審判決に続き、2014(平成26)年3月20日の控訴審判決でも遺族側の訴えが退けられています。


駒沢小学校の谷内六郎展


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