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赤いアルプス・南信州高森町

ハイジも見た燃える山

誰もが思い浮かべるアルプスのイメージは、ブルーグレーの山肌に白い頂きと雪渓だと思う。これはヨーロッパのアルプスでも、日本の北アルプスや南アルプスでも同じだと思う。しかし、この白い頂きや雪渓が赤く燃え上がることがある。

名作アニメ"アルプスの少女ハイジ"に印象深いシーンがある。アルプスに来たてのハイジがペーターとヤギたちに連れられて山を登る。下山前の夕暮れどきに山肌が紅潮しはじめ、やがて真っ赤に染まる。この様子を見てハイジは「山が燃えている」と叫び、アルプスの自然の神秘に驚き魅了されていく。

なぜ赤く染まる

当時高校生だった僕は、山が赤く染まるメカニズムは夕焼けと同様のものだろうと感じ少しばかり考えてみたことがある。つまり、以下のような夕日が赤く見えるプロセスの延長にあると思ったのだ。

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まず、太陽からの光が自分に届くまでの経路を考える。上図の地球の外側の円は大気圏を表している。見て分かる通り日中の高度の高い太陽からの光は、大気圏を通過する距離が短い。逆に日没前の低い太陽の光は大気中を長く通過してくる。

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次に光の波長と大気の関係を見る。大気内の通過距離が短い日中の光は、波長の長い赤色も波長の短い青い光も同じように通過してくる。

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しかし、大気中を長く進んでくる日没前では状況は変わる。波長の長い赤い光は拡散することなく通過してくる。しかし、青い光は酸素や窒素の分子、空気中のチリにぶつかり乱反射して拡散してしまうのだ。このため、日没時の太陽は赤く見えるのだ。

西に見える夕焼けは赤いが、西の山は赤くなれない

夕焼けはこの長旅をしてきた赤い光が、西の空に浮かぶ雲や空気中のチリを照らすために起こるものと考えられている。そのため、僕は当初西方向にある山の雪が赤くなるのだと勘違いをしていた。しかし、空に浮かぶ雲であれば太陽の光を遮るものはないのだが、地上の山であれば他の山が邪魔もするし、対象となる山そのものが影となり、大きな面積が赤くなることは考えられないのだ。

東の空も赤くなる

正解はとても簡単だ。長旅を続けてきた赤い光は、僕のいる場所を通過して、東にある山を赤く照らすのだ。ただし、どこでも東側にある山が赤くなると言うわけではない。いくつか条件がある。

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一番大切なのは、十分に低くなった太陽の光が山に当たる必要があること。山が立っている場所の多くには周辺にも山があるため、それらの山の陰になってしまうのだ。つまり、周辺の山に対して十分に高い場所にないとこうならない。

もうひとつは空気の美しさだ。空気の中をすり抜ける赤い光ではあるが、空気中のチリや汚れた成分が多ければ、東の山に当たって戻ってくるまでに弱まってしまう。一般的に東の空で夕焼けを見ることがないのはこのためだ。ただし、途中を遮る山や建物がなく、空気の澄んでいる北海道十勝などでは、頻繁に東の空がピンクに染まる。

南信州から見える赤いアルプスにも条件があるはず

南信州は赤い南アルプスを見られる貴重な位置にある。では、いつでも見られるのだろうか?夏の経験がないので確かではないが、おそらくは冬至前後の1ヶ月ぐらいは最高のタイミングだと思われる。

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上の写真は赤いアルプスをiPhoneのパノラマモードで撮影したものだ。(2019年11月30日)画面の左右で210度ほどの画角がある。中央左の真東方向に南アルプスが赤く見えている。右に光っているのは夕日で西南西方向。おそらく南アルプスと夕日の間は150度ほどの角度差がある。

夕日から右方向、撮影者の背面には中央アルプスがそびえ立っている。つまり、この季節より前になると日没方向はもっと右方向(西)に移動してしまい、中央アルプスの影に落ちていくようになる。そうなると赤い夕日は隠されてしまうだろう。少なくとも、見られる時間は少なくなってしまう。このあたりがどんなものかは、ぜひ地元の人の話を聴きたい。

南信州の美しさがわかる赤いアルプス

パノラマ写真を見ると赤いアルプスの背景には、東の空の夕焼けが見えている。先に北海道十勝の例をあげたが、この南信州・高森町付近も十分に空気が美しいことがわかる。

南の島のサンセットもよいだろう。だが、山の町から見る冬の東の夕焼けはまた格別だ。赤いりんごの収穫の季節に赤いアルプスを見にまた訪れたいと思う。

(撮影地情報)


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