恵比寿の消防団員になった話。
消防団員になった理由。
起こってほしくないけど、近い将来起きるとされている「首都直下型地震」
ほぼ確実に被災する当事者である私は、住民として何ができるのだろうか?
自分のこれまでの経験、知見を活かすことで、もしかしたら地域に役に立てれるかもしれない。そんな思いがあって3年前に渋谷区恵比寿の消防団に入りました。
一般的な災害は公的機関で対応できますが、大規模災害においては、様々な問題が同時多発的に発生し、その解決には大規模災害の訓練をしていない自治体職員だけで足りないことは、これまでの大規模災害を通じて、被災者含め関係者誰もが痛感しているはずです。
具体的に書くと、発災から状況が安定するまでの1週間”二次災害以外の被害防止”に従事できる被災者がいない。
では、その足りない分を誰が担うのか?
私はココ東京都心部においては、地域コニュニティの防災を担う消防団にその機会があるのではと考えました。
今の消防団の在り方に課題があり、その存在がサステナブルではなく瀕死状態であることは承知しています。
外野として意見するのではなく、機会があると自分が信じた消防団に入団し、中から策を提言し改善することで何とか「首都直下型地震」に間に合わせたいと考え、入団しました。
↓ 首都直下型地震について東京都が想定を出してくれています。
提言のサマリー
予備知識
-消防団とは
常勤の消防職員が勤務する消防署とは異なり、火災や大規模災害発生時に自宅や職場から現場へ駆けつけ、その地域での経験を活かした消火活動・救助活動を行う、非常勤特別職の地方公務員。
他に本業を持ちながら活動するボランティアとしての性格も併せ有しています。(消防庁HP抜粋)
-消防職員と消防団員の違い
消防職員は、市町村の職員と同じ常勤の地方公務員で、消防署に交替で勤務する職員や、消防本部に勤務する職員をいいます。
一方、消防団員は普段は生業を持ちながらも「自らの地域は自らが守る」という精神に基づき、災害発生時や訓練時には自宅もしくは職場等から出動して活動します。身分は非常勤特別職の地方公務員となり、地方公務員法の適用を受けないので各市町村が条例で身分を定めています。(総務省HP抜粋)
↓ 東京都の中でも23区は特別区として指定されています。
-消防団の現状(あくまで私の主観です)
私は、恵比寿広尾地区を担当する渋谷第3分団に所属しています。
ざっくりと活動内容は、
・月に1度 夜にミーティング 1時間ぐらい(会社の会議と重なるため私はいつも不参加)
・月に1度 の機材点検(担当になっている4名のみ。私は担当の1人) 1時間ぐらい
・年に3回のビックイベント「出初式」「操法大会」「団点検」(それぞれ丸一日)
・その他、各種専門分野の研修(希望者)
・その他、各種地元イベント(希望者)
参加できるものに参加すればいいので、役回り次第ですが「自らの地域は自らが守る意識」がある人にとっては大きな負担にならない。というのが感想です。
私はこれまで自衛官10年、起業家10年、サラリーマン経営者10年を経験していますが、普段知り合うことがない地元の方々と仲間になるのはなかなか面白いものです。
イベント後に飲みに誘っていただくこともあり、タイミングが合えば極力参加しています(強制は全くないです)。
-消防団存続の危機
そして現在この消防団は存続の危機にあります(そりゃそうなるでしょうねなのですが…)。
団員の充足率も足りていないし、頭数があっても実は幽霊部員も多く、言いづらいですが頼もしい感じではありません(もちろん頼りになる団員もいらっしゃいます)。
大規模災害で役立つ消防団になるために
ここから私の提案です。
私は、消防団は本質的に地域で活躍する組織になると信じています。でも今は違う。どうすれば本質的に役立つ組織になれるのか?
提言1 : 消防団員の役割を一律にしない。
地域、支援内容によって団員の役割とそのスキルレベルを決め、それぞれで活躍する人材を確保して育てる。
地域によって多発する災害は違います。だから地域や想定災害によって役割は変えなければなりません。役割が同じだとしても練度は変えるべきです。
ここでは地域をざっくり「都心」と「地方」で分けて、それぞれで必要な役割を消防庁の消防団の定義にあるように(ア)通常火災と(イ)大規模災害 に分けて整理します。
(ア)通常火災
通常では単発で起こる火災対応が消防団の役割となっていますが、地方と都心部では消防署が管轄するエリアの広さが全く違います。
地方の方が管轄エリアが広くなるのは当たり前で、消防署から離れた場所で火災が起きた場合、当該エリアの消防団がかけつける方がよっぽど早く、最寄りの消防署から専業消防士が到着するまで消防団が初期消火を実施し、到着したらバトンタッチする連携が取れれば被害を最小に食い止めることができます。
これが江戸時代から続く昔ながらの消防団の本質的な役割です。
だから地方の消防団は初期消火のスペシャリストを一定数揃える必要がある。(図B領域)
↓ ハヤブサ消防団とエビス消防団では想定災害が違う。
ところが、ここ恵比寿のような都心部だと消防団がかけつけるより、近隣に数多ある消防署からプロ消防士の方々が駆けつける方がよっぽど早い。
正直、通常の火災で消防団がチームとして消火活動で活躍することはほぼないかと思います。あるとしてもその役割は交通整理ぐらい。
なので、都心部では通常火災の対応ができるスキルの高い人員は少なくていい(もしくは練度は低くてもいい)(図A領域)
(イ)大規模災害
大規模災害も地域によって想定が変わります。
例えば、二次災害の土砂崩れ、河川の氾濫などが想定できる台風、大雨が多発する地域と、南海トラフなどの大地震が想定されている地域では求められる対応、必要なスキルが変わってきます。(だからこの両方がかぶっている地域の消防団は誇り高きエリート集団かと)
大規模災害を分類すると、首都直下型地震が該当する「大地震」と「台風、大雨など大地震以外の災害」があり、都心における大地震における必要な役割としては、二次災害=同時多発で起こる火災対応の役割と「帰宅困難者対応」や「犯罪の未然防止」など二次災害以外の被害の対応や防止があります。
「同時多発で起こる火災対応」
大地震の二次災害とされる「同時多発で起こる火災」の対応は都心も地方も関係なく必要な役割で、このようなスキルが必要になります。(図C &D領域)
・ポンプ操法の機関員として消火活動ができる スキル:大
・消火栓にホースを繋いで消火活動ができる スキル:中
・消火活動の支援ができる スキル:小
その他
・救護活動ができる スキル:大
つまり、一定のスキルが必要。
「二次災害以外の被害対応と防止の役割」
長々と書いてきましたが、私が最も言いたいことがココになります。
首都直下型地震のような都心で起きる大地震では、帰宅困難者対応を含めた地方とは違った役割が必要となります。
これらの対応を誰がするのかが現状、丸ごと抜け落ちています。(図C領域の一部)
長期戦となる大規模震災、特に発災から3日、1週間の間に現場でめちゃくちゃ活躍する存在。ここを消防団員が担えないだろうか。
今の日本、発災から数日後には大規模災害に慣れた方々がヘルプにやってきます。もっとも緊迫する最初の1週間の被害を最小限にくいとどめる。
なぜ都心でこの人員を確保する必要があるのか?
それはコミュニティが希薄化しているからです。地方のようにコミュニティがワークしていて、下記で紹介する「地元民」が多い相互扶助の精神が残っている地域は、自然とお互い助け合います。
ところが都心は、良くも悪くも個人主義。悪い部分を取って表現すれば「自分さえ助かればいい。」
では、このミッションで必要なスキルとはどんなものになるでしょうか?
・帰宅困難者の支援
・・一時避難所の確保(↓に準ずる)やエスコート
・避難所の設立、運営やその支援 →スキルより知識とコミュ力
・・子供、女性、マイノリティに配慮した運営
・・適切な食料分配
・地域の防犯パトロール →スキル必要なし(役を割り当てるだけ)
・・高齢者、障がい者、単身世帯の見守り
・・自宅避難者のフォロー
・区、行政機関(消防警察自衛隊)、NPOとの連携 →スキルより知識とコミュ力
つまり、スキルがなくても役立てる。
このミッションを作る大きなメリットがもう1つあります。
それは消防団員の採用がとてもしやすくなるということです。
今の消防団は地域の役割も人の役割もなく、みな一緒。だから形骸化する。形骸化するからリアリティがない。リアリティがないから訓練にも力が入らない。士気が低いから団員も増えない。
しかしこの「二次災害以外の被害防止」のミッションは重要ですがスキルが必要なく簡単、つまり仕事のハードルが低く採用がしやすい。
消防団員の全員が完璧なポンプ操法ができる必要はないし、救護ができる必要はないはずです。やりたい役割、やれる役割に手を挙げてもらえば、もっと簡単に団員の確保ができるはずです。
そして団員になってもらってから、希望する人や対応ができそうな人により高度なスキルが必要とされる業務をお願いすれば、自ずとプロフェッショナル人員が確保できます(上記で示した「「同時多発で起こる火災対応」で活躍する人員の確保につながる)。
ではこの都心における大地震=首都直下型地震に備えた人員はどうやって獲得すればいいでしょうか?
提言2 : 「ヨソ者ヨソ者」を活用する。
「都心にいる人のほとんどは地方の人」と言われるように、地方と違って都心はその地で生まれ育った人がとても少ないです。都心に住んでいる人を分解すると、この3つに分解できると思います。
①地元民=その地で生まれ育って住んでいる人
②ヨソ者地元民=戸建やマンションを買って移り住んで地元民になった人
③ヨソ者ヨソ者=仕事や学校の都合などで、たまたま居ついた人(いつ引っ越すかわからない)←私もココ
都心で一番多いのは③だと思います(ファクトではないです)。
もともと消防団は①でなりたっていましたし、地方の多くはココが充実しています(だからお父さんもおじいちゃんも消防団という家庭が存在する)。コミュニティもそのように形勢されていた。どちらかというとヨソ者を疎ましく思ってきたし、ヨソ者も地元コミュニティには関わりたくなく、双方がそれぞれを疎ましく思ってきた。
消防団員の確保のために、家族であれば強引に入団させれたけれど(地方の消防団で問題になってそう)、②と③はそうもいかない。仲間に入ってもらう提案方法もわからない。それが現状じゃないかと思います。
現在、都内の消防団でちゃんと活動に参加する団員の充足率100%を維持できている団があるとすれば、②と③をうまく活用しているはずです。
”ヨソ者ヨソ者”は、地域コミュに積極的に関わってきてはくれません。だから簡単なミッションを提案し引き受けてもらう。
つまり、ヨソ者ヨソ者に「二次災害以外の被害防止ミッション」の担い手になってもらう。
あなたがヨソ者ヨソ者だとして、自宅マンションの下で消防団員に声をかけられたとします。
どっちの話しなら検討してもいいと思いますか?
A:「消防団に入りませんか? この地域に住む者として地域防災の役に立てて就活にも有利です。定期ミーティングと年に数回のイベントに参加してもらいます。活躍するために技術を磨く練習もあります。」
B:「大規模震災が起きた時に自分の安全確保ができた後でいいので、この消防団Tシャツを着てあの家のおばあちゃんの安否確認をして報告してもらえませんか?」
”「自らの地域は自らが守る」という精神に基づき” と総務省さんは消防団員を定義していますが、自分のことで精一杯なのが現実な今、これを前提にしていることも間違いではないのかと思います。
提案3 : 消防団の名前を変更する。
都内に住む多くの人は、消防署で日夜勤務をしている職業消防士と、私のようなボランティア消防団員の違いがわかりません。
認知がないわけですから「消防団員募集」とどんなにCMをうっても、多くの人には、専業職の消防士を募集している としか見えない。
関係者の方は「いやいや、ちゃんとチラシやポスターで説明している!」と言うと思いますが、その認識だからいくらお金を投下して募集をかけても一向に応募数も増えず、採用ができていないのではないでしょうか?
ではどうすれば、消防団員が集まるのか?
消防団が魅力的なボランティアになったとして、そもそも消防団員と専業消防士の区別がつかないわけですから、この問題を解かないといけない。消防団の役割を正しく認知してもらう必要があります。
提案する打ち手は2つ。
①消防団の説明を徹底的に行い認知させる。
②「地域防災団」のように名称を変更し、新しいボランティア組織として認知させる。
どちらが、理解が深まりやすく、コストが安いでしょうか?
これまでも①は散々実施しているかと思います。その結果が今の状態です。徹底的にやっても効果がでない打ち手は今すぐ止めて、新しい打ち手に取り組むべきかと思います。
組織改革は容易ではなく、パワーとリソースが必要です。
でも誰かがどこかでやらないと、いけないことだとするならば、トップが覚悟を決めて取り組まなければならないと思います。
トップはコロコロ変わるので問題の先送りができます。そのツケはだれが払うのか?被災して初めて気づく私たち住民です。
補足
他にも取り組みたい課題
「なぜあなたは消防団員にならないのか?」
・知らないし =認知関心問題
・自分がやる必要はない =ひとごと問題
・魅力がない =報酬(お金に限らず)問題
・時間がない =時間問題
・できる仕事がない =役割問題
私について。
思考の整理図
全国の消防団が活躍できそうな役割として以下のように分解してみてこの記事を書きました。
通常火災時の役割
-地方 B
-都心 A
大規模災害時の役割
ー地方 D
ー大地震
-(二次災害)同時多発で起こる火災
-(二次災害)津波
ー台風大雨
-(二次災害)河川の氾濫
-(二次災害)土砂災害
-その他の災害
ー都心 C
ー大地震
-(二次災害)同時多発で起こる火災
-(二次災害以外) 帰宅困難者対応
-(二次災害以外) 犯罪の未然防止
-その他の災害
memo
・地方における大地震の「二次災害以外」は町内会などコミュニティの力もあるのでここではぬきました。
・都心における大災害の大地震以外はひとまずぬきました。
・自然災害以外の大災害、二次災害、想定外もぬいています(確率論で事象を選ぶのは嫌いですが…)
消防団員が必要だとするならば、その人員確保にはまずそもそも「時代背景や地域に即した消防団の役割」を再定義する必要があります。
また「誰もが地域に貢献するもの」ではなく「誰も地域に貢献しない」を前提として「どうすれば入団してもらえるか?」と売れてない居酒屋店主のつもりで問題を解きに行かないといけないと思います。