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「世界クッキー」 川上未映子 著 文春文庫
最初に読んだ川上未映子さんの本は「ヘヴン」でした。内容もわからず、たまたま題名が気になって読んだのですが、素晴らしかった。それ以降川上さんの本は、あれやこれや読んでいます。小説もそれ以外も。
例えば、「みみずくは黄昏に飛び立つ」は川上さんが村上春樹さんにインタビューするというものでしたが、その時おそらく川上さんが村上春樹さんの本を徹底的に読み返したのだろうということがひしひしと伝わってきました。それなのに村上さんが「そんなこと書いたかなぁ?」みたいなことを言ってしまったりするわけです。あの本を読んだとき、なんと真面目で健気な方なのだろうと思いました。 (ちなみに、「みみずくは黄昏に飛び立つ」については、7年前に、こんな感想を書きました。https://ameblo.jp/heartc/entry-12381848369.html)
そして、この「世界クッキー」です。
また新たな川上さん発見です。ここには、「二〇〇七年の後半から二〇〇九年の真んなかあたりまでの約二年間、色々なところに発表した文章あれこれがつまっています。(p.151)」とのことで、川上さんが31歳〜33歳にかけて書いたエッセイをまとめたものです。
川上さんの本を読み始めてから、ネットのニュースかなんかで写真を拝見したことがあり、また最近も北方謙三さんを追ったドキュメンタリー番組でお見かけしたとき、かっこいい人だなぁと思いました。
そうか!と合点がいったのですが、川上さんが、ロッカーだったということを知りました。あの雰囲気、ロッカーと言われればなるほどと思います。どんな歌を歌うのでしょう(川上さんはボーカルらしい)。ネットで調べてみようと思いました。
バンドを作り、アルバムを作り、よし売るぞ!と名古屋に乗り込んだ時のエピソードがこれです。
「バーンつってドラムが鳴ってわたし、思い切り派手な衣装で舞台に飛び出したらば、お客さん、五人。そのうちスタッフ三人。バンドの人数の方が多い。最前列左右にはなべちゃんと田中さん。おじさん二人が後半、無理してノってる。わたしに残された選択肢は、絶唱のみ。(p.125)」・・・「わたしは、名古屋に恩義ありあり、まじで。」より
なるほど!青春だぁ!そして、その時の演奏がそのバンドのベストパフォーマンスだったのだそうです。
真面目で健気で、しかし熱いロッカーだった・・・だけではないんですね。
「燃える顔、そして失われたお尻」では・・・あのかっこいい川上さんが!というエピソードが紹介されています。
もちろん、それ以外にも、うんうん、そうだよなというくだりをあちこちに見つけました。例えば・・・。
「すなわち「個性的に生活する」ことを実現している人を見れば「変わってる」「おかしい」などの陰口を言い、安心できる枠に収まっていないことを許さない監視の目が社会には満ち満ちている。どういうことなの。みんな、個性を追求してるんではなかったの。(p.31)」・・・『個性』より
また、情景がビジュアルに想像できるなぁ、という文章もありました。
「わたしは、心配事が去ったあと、お昼間の光がベランダのガラス戸や洗濯バサミの輪郭を、まるで海面を揺らすみたいにして照りつけて、きらきらしてるのを見ながら布団のなかで顔だけ出して、ぼーっと安静にしているのが、たまらなく好きだということを発見しました。(p.131)」・・・「安静が好き」より
「おっ!」と立ち止まるような表現も・・・。
「匂うような。気持ちに温度が与えられるような。これに無理やり名づけようとしたらばそれはきっと「春」になるのだと思うけれど、これらをひとりきりで感じるだけでいいのなら、きっと春という言葉もなかっただろうな。(p.73)」・・・「春の呼吸」より
色々な場所に時間に旅をさせてもらったような本でした。
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