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「ヘヴン」 川上未映子著 講談社文庫

ここに書かれているのは、壮絶ないじめの物語です。

残念ながら、人はどこまでも残酷になれるのでしょう。それが、中学生であっても。


いじめという地獄の中、たった一人でも気持ちを理解してくれる人がいることは、大きな心の支えになります。主人公にとっては、コジマというやはり集団的ないじめを受けていた女子生徒が、唯一の味方でした。コジマの「うれぱみん」という言葉で、主人公はどれだけ救われたかと思います。「うれぱみん」は、コジマの造語で、うれしい時に出てくる架空の脳内物質のことです。


しかし、味方がいてもダメなこともあるかもしれません。

小中生がいじめで自殺したというニュース、少女歌劇団でのいじめ自殺のニュースなど、いじめによる悲劇は続いています。


なんとも、やるせない。


いじめを受けて、屈辱的な思いをさせられて、それが止まらないのなら、振り向かずに一目散に逃げることです。どんな手を使ってでも、その場から去ることです。いじめる側も同じ人間なのだから話せば分かってくれるなんてことは、ほぼありません。分かってくれるとしても、膨大な時間と労力が必要です。


いじめている側にもそうせざる負えない生育歴があったりして、だから彼らも被害者なのだなどと言う識者がいますが、そんなことは、後から考えればいい。連続的ないじめを受けたら、そんなにもたないのです。数ヶ月もしない内に心がポキっと折れてしまうことも少なくないのです。だから、全速力で逃げることなんです。彼らが手を出せない安全なところまで逃げて、そこでとりあえず、休めばいい。


「そんなことに付きあってやる必要はないから。いい方法を考えよう。なんでもあるから。考えればなんだってあるんだから」これは、主人公の継母の言葉です。逃げて生き残ること・・・それが、多くの場合、いじめの世界から抜け出す最も有効な手段になります。


「うれぱみん」という言葉が、せつなく心に残る小説でした。




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