見出し画像

「日本史サイエンス」 播田安弘 著 ブルーバックス新書

元寇は、神風が二度吹いたから日本は救われたと学校で習いましたが・・・。著者は、本当にそんなことが起こったのだろうかと疑問を持ち、工学の知識を活用して詳細検討します。その結果は、それまでの常識を覆すものでした。蒙古軍の突然の撤退は、そもそもの計画に無理があったということであり、日本の武士の戦い方もこれまで考えられていたような一騎打ちではなく、集団による攻撃だったのではないかと、著者は考えています。

 

次の章で検討されたのが、秀吉の中国大返しはなぜ成功したのかについてで、ここでも、工学的に検討しています。秀吉の大返しについては、僕もかねがね疑問に持っていました。11日も移動して、明智軍とまともに戦えるとは思えなかったからです。著者は、僕のその疑問にも見事に答えてくれました。

 

著者が重視したのが兵站です。戦争には、膨大な量の物資の移送が必要です。鉄砲・刀などの武器、甲冑、食料、馬、馬の食料などなどを戦地に届けなければなりません。また、兵士の毎日の寝床も確保しなければなりません。それを、滞りなく実行するためには、あらかじめ準備がなければなりません。つまり、そこからは、秀吉が毛利攻めの際にすでに本能寺の可能性を知っていたということが考えられます。

 

最後の章は、戦艦大和がなぜ、ほとんど活躍することもなく、沖縄での特攻に使われ、なす術もなく撃沈されてしまったのかを、著者の専門である造船工学の知識を使い工学的に検討します。

 

海軍の基本方針は、射程距離が当時世界一長かった大和を後方に置き、まずは航空機による攻撃を繰り返し、敵の戦力を少しづつ削り、最後に艦隊決戦を挑み一気に敵を殲滅するという、いわゆる「アウトレンジ戦法」です。

 

日本軍は、ミッドウェー海戦における敗北で、当初の計画であった「アウトレンジ戦法」がほぼ不可能になったにも関わらず、その方針を変えなかったのです。

 

一度決めたことを変えられないというのは、今の時代も変わらないですね。

 

著者は、また、過去の勝利の神話化が、のちの時代に悪影響を与えたのだろうと言います。元寇の時の神風、日露戦争での日本海海戦などにおける歴史的勝利などにより、日本は負けないという傲慢さが生まれ、著者によれば、「一生懸命さ」が失われたとのことです。日本は、技術力はあったわけですが、それを目的に向かって集中的に活用するという点に欠けていたと言えるでしょう。そして、肝心の技術力も、これからどうなるか?忖度文化に染まっていない若い人たちの力に期待しましょう・・・って思います。


いいなと思ったら応援しよう!