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「黄色い家」 川上未映子 著 中央公論新社
登場する人たちは、全て、いわゆる「負け組」と呼ばれる人たちです。主人公の花は、東村山の文化住宅にスナックに勤める母親と暮らしていました。高校時代、アルバイトでためた72万6000円を盗まれ、何もやる気を失っていた時に偶然、母の友人の黄美子と出逢い、東京に出てきて、「れもん」というスナックを始めます。風水に凝っていた黄美子から黄色は金運ときいて、この店名になりました。もちろん、花は未成年(17歳)です。
やがて、「れもん」には、蘭と桃子が加わります。蘭は埼玉県の幸手から往復3時間かけて東京の専門学校に通っていましたが退学し、キャバレーに勤めていました。桃子は、いいところの娘でしたが、外に女がいる父と自己愛的な母と美人だけど桃子をバカにする妹と暮らしていた高校生ですが、「れもん」に入り浸るようになり、やがて働くようになります。
彼女たちは、一生懸命働き、お金も溜まっていきました。その頃の彼女たちにとって「れもん」は、唯一の居場所で、天国のような場所でした。彼女たちは、一般の人たちのように幸せだったと思います。渋谷に行ったり、マックや吉野家で食事をしたり、カラオケに行ったり、普通の青春だったのでしょう。
でも、幸せな時間は長くは続かず、「れもん」は、突然終わってしまいます。そこから、彼女たちの人生が狂い始めます。世の中的には、未成年でスナックに勤めることですでに人生は狂っていると言うことになるのでしょうが、「れもん」が存在していた頃、生まれて初めて「普通の幸せ」の中にいることができた彼女たちにとって、あの頃は絶頂期だったのかもしれません。
彼女とは逆の勝ち組の代表みたいな、あるいは勝ち組を演じ続けている桃子の母親は、桃子によれば、
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見栄をはるためだけに生きてるような人なの。素敵な家ですね、素晴らしいご家族ですね、お金持ちですね、さすがですね、羨ましいですって言われるのが生き甲斐みたいな人なの。p.246
ママのカウンセラーは本も何冊も出していて講演会なんかもしてる有名な人で、すごいんだからって気がついたら自慢してんの。p.250
そのすごい先生が『あなたはこれまでよく頑張ってきた、あなたはなにも間違っていない、今あなたが苦しいのは、母親として娘にしっかり愛情を注いできた証拠なんだ』って言ってくれて、それが超超超超気持ちよくて、それだけがママの真実で。p.250
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なのです。
それよりも、
「誰だってみんな金が必要で、だからこそ汗水たらして働いているのだと。でもわたしは半笑いで言ってやりたかった。わたしも汗水をたらしていますよと。誰の汗水がいい汗水で、誰の汗水が悪い汗水なのかを決めることのできるあなたは、いったいどこでその汗水をかいているんですか? たぶんとても素敵な場所なんだろうね、よかったら今度行きかたを教えてくださいよ、と。(p.461)」という花の心の叫びの方が、はるかに胸に刺さります。
振り返ってみると、僕の人生も危ないものでした。もし、もう少し僕に何かあったら・・・。もう少し成績が悪くて大学を卒業できないなんてことになっていたら・・・。せっかく入った会社を辞めて決行した留学に失敗していたら(実際、危ないところでした)・・・。帰国してカウンセラーとして働き始めた時、今一緒に会社(ハートコンシェルジュ)を運営している人たちに出会わなければ・・・。僕は、一歩向こうの花や黄美子たちの住む世界に行ってしまっていたかもしれません。
幸い、僕には、自分の人生の選択肢が与えられていました。でも、花にも黄美子にも、そうした選択の余地はありませんでした。彼らは、そう生きざるを得なかったのです。
そして、彼女たちのような人たちは、今日本にたくさんいるのでしょう。
主人公の花たちの住む世界と、そうでない普通の?世界。普通の世界では、そうでないものを見ようとしていないだけかもしれません。
人には、居場所が必要なのです。
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