「避けられた戦争」 油井大三郎 著 ちくま新書
第一次世界大戦後の世界は、軍事力背景に他国を侵略し領土を拡大する「旧外交」から、力によらず民族の自決権を承認し、市場を拡大する「新外交」へ移行した時期でした。1920年代の日本は、国際連盟の常任理事国に選ばれ、中国の領土保全や門戸開放・機会均等等を約束し(1922年)、「国権の発動としての戦争放棄」を規定した不戦条約にも調印しました(1928年)。この頃外相として活躍した幣原喜重郎は、「新外交」を理解し推進して行った中心人物でした。
それが1930年代になると、一転して満州事変を引き起こし、不戦条約に最初に違反した国となり、1941年には太平洋戦争へと突入してしまうのです。
そこには、様々な原因があります。
日本は、統帥権の関係から文民統制ができず、政府と軍部の方向性が矛盾すると言うことがおきます。前述のように1920年代は幣原喜重郎外相らを中心に「新外交」の方針が取られていたのですが、軍部は「旧外交」のままで、満洲の利権に固執していきました。
さらに残念なのは、原敬、濱口雄幸、高橋是清、犬養毅と言った首相及び首相経験者や蔵相経験者の井上準之助や三井の団琢磨らが、日本人自身のテロによって殺害されたことです。彼らがいれば、「新外交」を推進し、中国などとの良好な関係を維持する方向に進んだかもしれないのです。残った「新外交」賛同者は、自分が殺されるかもしれないと言う恐怖で萎縮してしまったのです。
こうしたテロと言う暴挙を許してしまった要因の一つに欧米で起きた黄禍論があるかもしれません。
世論は、濱口が狙撃され療養中(のちに死去)に総理大臣臨時代理となった幣原の外交姿勢を軟弱と非難し、1930年代の他国への軍事侵攻を支持し、反米感情を強め第二次世界大戦への道を進むようになってしまったのでしょう。
1920年代と1930年代では、同じ国なのだろうかと思われるぐらい空気が違います。この本は、その大きな転換期に焦点を当て、なぜ日本が戦争に突入していったのかを考察し一つの考え方を示した本です。僕には、とても納得できる興味深い本でした。