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「何が響くかわからない」・・・偶然の電話

解離性同一性障害(DID)とは、かつて多重人格と呼ばれた精神疾患で、たくさんの人格がひとりの人の中に存在し、それぞれの人格同士に記憶のやり取りがありません。だれでもたくさんの顔は持っていますが、それはあくまでその人の中のサブパーソナリティであって、記憶はひとつに統合されています。

でも、DIDの人は違います。人格Aの時激辛ラーメンを食べようとしたら人格Bに替わってしまい、しばらく人格Bで暮らしていて、ある日アイスクリームを食べようとした瞬間、人格Aに戻ったとします。そうすると人格Aの体験としては、人格Bとして暮らしていた期間の記憶がありませんから、激辛ラーメンを食べようとした瞬間口の中に広がるのが、熱くて辛いのではなく、冷たくて甘い味になったのだそうです。これ、実際にDIDの方から聞いた話です。

DIDの方に対するカウンセリングで、僕が勝手に名付けている「ひとりグループセラピー」を行うことがあります。クライアントさんをイメージ誘導し、イメージの中に出てきた交代人格(ないしは、交代人格らしき人)と対話をしていく方法です。交代人格同士は、普段は記憶のやり取りがありません。しかし、イメージの中では、交代人格同士が話し合うことができる場合があります。そこでの会話がきっかけで、人格が統合に向かうことがあります。

クライアントCさん(女性)は、30人ほどの交代人格を持つ方でした。Cさんの中のひとつの人格に自殺願望が出てきたらしく、たびたび危険な行為をするようになりました。そこで、安全確保の体制を交代人格同士で作ってもらう目的で、「ひとりグループセラピー」を行いました。そのときの「グループセッション」の中で、自殺願望が高まっている人格は、今までほとんど表に出てきていない交代人格(人格Dとします)であることがわかってきました。しかし、人格D(あるいは、人格Dらしき人)は、そのグループセッションに出てきてくれないのです。

他の交代人格たちがいくら呼びかけても、人格Dは出てきてくれません。その時のグループセッションに参加していた人格EやFは、「Dは、人見知りだし、めったに出てこない」と言います。んー、こまったと思っていた時、僕の携帯の着信音が鳴ってしまったのです。

カウンセリングの時は、携帯の電源を切るようにしていたのですが、その時は、うっかり忘れていたのです。「まずい!」と思って、電源を切ったところ、人格E(この人格は、男性です)が、「きっと、Dからの電話だよ」と言いました。僕は、人格Eに(身体的には、クライアントCさんに)、電源を切った携帯を渡しました。人格Eは、自殺願望の高まっていたと思われる人格Dと話をしました。人格Eによれば、人格Dは、僕と直接話すことは拒否しているとのことでした。そのため、僕は人格Eに通訳になってもらって、人格Dとセッションをしたのです。

この変則的なグループセッションの結果、人格Dの自殺願望は沈静化し、結果的にクライアントCさんの危機は、回避されました。

あの時、いつものように僕が携帯の電源を切っていたら、そして、携帯の電源が入っていたとしても、たまたまあの時間に電話がかかってこなかったら、Cさんの安全を確保することは、もっと困難を伴うことになったに違いありません。

ちなみに、Cさんは4年をかけて、一つの人格に統合しました。その大きなきっかけになったのが、このセッションでした。






*ChatGPTにガラケーのイメージを描いてもらいました。


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