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KPIを活用するためのプロンプト:通販サイトのケーススタディ【プロンプト付】
はじめに:KPI(Key Performance Indicator)とは?
KPI(Key Performance Indicator)とは、組織やプロジェクトが目標(ゴール)に向かってどれだけ前進しているかを測るための「重要な指標」のことです。
例:売上、顧客獲得数、再購入率、セッション数、離脱率など、業種・業態によってさまざま。
目標管理を効率的に行うためには、KGI(Key Goal Indicator=最終ゴールを示す指標)やKPI(そのゴールを達成するための中間指標)を設定し、定期的に計測→修正を繰り返す(PDCAサイクル)ことで進捗を把握します。
KPIとプロンプトエンジニアリングの関係
最近の生成系AI(Large Language Models)を活用するにあたっては、「適切なプロンプト」を作成することが重要なカギになります。KPIのようなビジネス指標を管理・分析するシチュエーションでも、LLMに「どのように問いかければ適切な答えを得られるか」を工夫する必要があります。
本レポートでは、KPI活用に焦点を当てたプロンプトの例を紹介し、どのようにLLMを使ってKPIの設計・分析・改善策の提案などを行うかを解説します。特に、プロンプトエンジニアリング中級者向けとして、役割指示・コンテキスト設定・分割質問などのテクニックを盛り込みます。
ケーススタディ:KPIを活用した例
ここでは、仮想のEC(通販)サイトを例にとり、「月間売上」や「リピート購入率」などのKPIをどのようにLLMに活用させるかをご紹介します。
企業規模:中小規模のECサイト運営会社
最終目標(KGI):年間売上を3,000万円 → 5,000万円にする
KPIの候補:
新規顧客の月間購入数
リピート購入率(既存顧客が再度購入する割合)
平均購入額(1回の購入あたりの平均単価)
アクセス数(サイト訪問者数)
カート放棄率(カートに入れた後、購入完了に至らなかった割合)
KPI設定における主なポイント
明確な数値化
「今月の新規顧客獲得目標は100人」など、具体的な数値を定義する。
達成期限の設定
「◯月末までに新規顧客を300人増やす」など、期限を明記してモニタリングを行う。
可視化と振り返り(PDCA)
定期的にKPIを測定し、改善策を講じる → 次の期間に再度測定する。
プロンプト作成のポイント
プロンプトエンジニアリングでは、「どのような役割で答えてほしいか」「現在の状況や前提条件が何か」「欲しい回答フォーマットはどんなものか」を丁寧に記述することが重要です。中級者向けのテクニックとしては、以下を意識するとよいでしょう。
役割指示(Role Prompting)
「あなたはデータ分析の専門家としてアドバイスを行ってください」など、回答の視点や専門性を指定する。
コンテキストの具体化(Context Setting)
「ECサイトの年間売上を3,000万円から5,000万円に伸ばしたい。そのためにKPIとして…」のように、背景情報と目的を詳しく書く。
出力フォーマットの指定
「箇条書き形式で提案してください」「表形式で出力してください」など、成果物の形を指示する。
複数回の問い合わせ(Chained Prompt)
長い質問を一度にするより、段階的にプロンプトを与えるほうが正確な回答を得やすい場合が多い。
以下では、実際のKPI活用を想定した「プロンプト例」をいくつかご紹介します。
プロンプト実例
1. KPIの選定と優先順位をアドバイスしてもらう
目的: 新たにKPIを設定・見直しするときに、LLMにアドバイスを求める。
ねらい: 現在のビジネス状況を踏まえたKPI候補と、その優先順位を提案してもらう。
[System / Role Prompt]
あなたはECサイトのビジネスアナリスト兼データサイエンティストです。
中小規模のECサイトが売上拡大を狙う際に、最適なKPIの設定と優先順位について助言をする専門家として回答してください。
[User / Task Prompt]
現在、年間売上3000万円規模のECサイトを運営しています。
今後1年間で売上を5000万円に伸ばすことを目標にしています。
以下の情報を踏まえ、私たちが設定すべきKPIの候補と、その優先順位を教えてください。
- 新規顧客の獲得数は月あたり約50人
- リピート購入率は30%
- 平均購入金額は1回あたり3000円
- カート放棄率は70%近くある
- サイトアクセス数は月あたり1万人ほど
出力フォーマットは、
1. 推奨KPI一覧(理由付き)
2. 優先度が高い理由の解説
3. 他に検討すべきKPIや関連指標
の3つのパートに分けて、箇条書き形式でまとめてください。
ポイント解説:
System / Role Promptで「ビジネスアナリスト兼データサイエンティスト」としての立場を明確にする。
User / Task Promptでは、ビジネス背景や既存数値を具体的に示し、期待する出力フォーマットを明示。
2. KPIから分析したボトルネックを特定し、改善策を提案してもらう
目的: 設定したKPIをチェックし、数値が思うように伸びない原因を探る。
ねらい: データ分析視点での仮説や改善アイデアをもらう。
[System / Role Prompt]
あなたはデジタルマーケティングとデータ分析に精通している専門家です。
ECサイトのKPI数値を見て、最適な分析手法・改善施策を提案する役割を担っています。
[User / Task Prompt]
以下のKPI実績が出ました。
- 新規顧客数: 先月は目標80人に対し、実績は60人
- リピート購入率: 25%(先月からやや減少)
- カート放棄率: 65%(目標50%以下)
- 月間売上: 前月比+5%
ここから考えられるボトルネックと、そのボトルネックに対する具体的な改善策を3〜5個提案してください。
提案は以下の形式でお願いします。
1. ボトルネックの仮説(箇条書き)
2. 仮説を検証するために推奨されるデータ分析手法(例: Google Analyticsの利用方法、A/Bテスト案 など)
3. 改善策の提案(箇条書き)
ポイント解説:
「ボトルネックの仮説」「仮説検証の手段」「改善策」の3ステップに分けることで、LLMに対し論理的・段階的な回答を促す。
具体的なKPI数値を提示し、何が目標値と乖離しているかを示すことで、的確な分析を引き出す。
3. 改善施策の優先度と実行プランを提案してもらう
目的: 分析結果をもとに複数の施策候補が出たら、それぞれの効果と実行コストを比較し、優先度を決めたい。
ねらい: 実施プランの大枠やタスク分解をLLMにサポートしてもらう。
[System / Role Prompt]
あなたはECサイトの運営コンサルタントとして、複数の改善施策の優先度を判断し、実行プランを組み立てる専門家です。
[User / Task Prompt]
先ほどの分析結果と施策案を踏まえて、以下の3つの観点から優先度を評価し、実行プランを提案してください。
1. インパクトの大きさ(売上増や顧客満足度への影響度)
2. 実行コスト(人的リソース、ツール導入、広告費など)
3. 実行スピード(どのくらい迅速に実行できるか)
出力の形式:
- 「施策名」「評価指標(インパクト、コスト、スピード)」「優先度」「大まかな実行ステップ」
を表形式でまとめてください。
ポイント解説:
施策の評価指標やフォーマットを明確化することで、回答をテーブル形式で整然と出力してもらいやすくする。
中級者向けテクニックとして、「指示を多段階(KPI→分析→施策→優先度付け)」に分割して聞くことで、途中段階の情報を踏まえた上位レベルの回答を得やすくする。
応用:KPIの定期レポートを自動生成するためのプロンプト
より踏み込んだ応用として、LLMを使って「KPIレポート」を自動生成する例を紹介します。
毎月のデータ(売上、アクセス、カート放棄率など)を集計し、テキスト形式でLLMに入力。
KPIの比較(今月 vs. 先月 vs. 目標値)を表形式または箇条書きで示す。
LLMBotに「今月の結果を解釈し、次の施策の提案をレポート形式でまとめる」よう指示。
[System / Role Prompt]
あなたはECサイトのデータアナリスト兼レポート作成の専門家です。
与えられたデータをもとに、毎月のKPIレポートと改善提案をわかりやすくまとめる役割を担っています。
[User / Task Prompt]
以下が最新月のKPIデータです。(数値はすべて先月比)
- 売上:+8%
- 新規顧客数:+10%
- リピート購入率:-2%
- カート放棄率:-5%
- 訪問者数:+20%
これを踏まえて、定期レポートを作成してください。形式は以下の通りです:
1. KPIサマリー(今月の数値、先月比)
2. 特筆すべき伸びたポイントと要因
3. 落ち込んだポイントと要因
4. 次月に向けた改善提案(3つ以上)
ポイント解説:
定型レポートであっても、その月ごとに変動するデータをLLMに入力するだけで、自動的に文章生成してもらえる。
レポートの「形式」や「書きぶり」もプロンプトで指定可能なので、テンプレート業務の省力化に活用できる。
まとめと今後の展望
KPIの活用では、最終目標(KGI)を意識しつつ、達成の道筋を具体化できる指標を設定することが要です。
プロンプトエンジニアリングを組み合わせることで、KPIの選定・分析・改善提案・レポート作成をスムーズに行えるようになります。
中級者向けでは、1つの大きな問いを一度で済ませるのではなく、複数段階に分けてLLMに与える(Chained Prompt)ことで、より正確で一貫性のある出力を狙うのがポイントです。
将来的には、BIツールやGoogle Analyticsなどの分析プラットフォームとLLMを連携し、リアルタイムでKPIの変動を検知→即改善提案が得られるシステムの普及が期待されています。
最後に
KPIを扱う場面は多種多様ですが、「どのようなデータを、どのレベルまで可視化したいのか」をしっかり定義しないと、LLMに質問しても漠然とした回答しか得られません。
具体的な業務目標と現状数値、さらに期待する回答や出力形式をしっかり盛り込んだプロンプトを設計することが、プロンプトエンジニアリングの肝です。
本レポートの例を参考に、ぜひ自社や自分のプロジェクトでのKPI活用を円滑化するためのプロンプト作成に挑戦してみてください。
そもそもKPIがしっくりこない…という方はこちら。