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カード師を読んでみて

僕がカード師を読むきっかけになったのは、中村文則さんの公式サイトを見たからだ。僕が中村文則文則さんを知ったのはちょうど去年、今と同じコロナ禍で先が見えない時だった。僕は、たまたま書店で映画用の帯が付いた「銃」の文庫本を見つけた。今まで所謂純文学というものを見たことがなかったが、なんとなく興味を持って買ってしまったのだ。そこから読者になり、他にも「掏摸」、「悪と仮面のルール」などを読んだ。そんな時に公式サイトで「カード師」発売のお知らせである。主人公は、占いを信じない占い師。正直どういうことだという気持ちと同時にどのように描かれるのか、また占い、手品、ギリシャ神話って何か関係するのかなと興味をそそられて買おうと思った。実際買って読んでみると想像以上に楽しめた。また、これは今先が見えず苦しんでいる人や、もう少し頑張ってみようかなと思う人にも薦められる一冊なのではないかと思う。僕が特にこの本を読んでみて良かったと思う点を3つあげてみる。

1つ目は、主人公、英子、資産家の佐藤などといった登場人物の過去や関係性がわかってくるところ。ブデルと主人公の出会いとなかなか衝撃的だった。あとは、英子の正体がわかった時は驚いたし、さすが中村文則だと心の中で叫んでしまった。

2つ目は、クラブRでの全財産をかけたポーカーを行う場面。読んでいて手に汗握る展開で、読者もその現場にいるかのように感じられて、とても良かった。このポーカーでのやり取りもまさに社会における弱肉強食を表してるように感じたし。

3つ目は、小説内での現実世界とのリンクが違和感なく読めること。佐藤の遺書で描かれている佐藤の過去がとてもリアルに感じ、現実世界に住む人の遺書を垣間見てる感じがしてしまった。

この本でのキーマンとも言える佐藤に関して、僕は最初何故そこまで占いにこだわるのかが、わからなかった。だが、最後まで読んでいくことで何故かがわかったし、佐藤という人間は本当はとても弱い人間なんじゃないかと思った。そして事故や天災によって、大切な人を失っても、その人達の分ももがきながら生きてきたんじゃないかと思うと少しばかり親近感すら湧いた。

この本を読んでみて、印象に残ったのが英子が言った、「重要なのは悲劇そのものではなく、その悲劇を受けてもなお、人生を放り出さない人間の姿だと」(p399)

それとブデルが言った、「つまり君達は、やはり絶望なんてできないんだよ。だってそうだろ?明日何が起こるのかも、わからないんだから。」(p451)

今現在先も見えずどうすればいいのかわからない人達は沢山いると思う。僕もその一人だ。正直マスクをつけず町を歩く日常がいつ戻ってくるかなんてわからない。いや、もしかしたらこれから国民のワクチン接種が終わったとしても、基本的にマスク着用というようなことが日常化するのかもしれない。でも、僕たちは生きていかないといけないのだ。たとえ普通が普通ではなくなったとしても。僕は信じてる、皆があの時は大変だったよねと語れる日が来ることを。だから、僕らは絶望なんかしてる暇はないんだ。中村文則さんはこの本を通じて、もしかしてそういったことを伝えたかったのかなと僕は思った。

だから、今大変な思いをしている人達に読んでほしい。飲食業界で働く人達、医療従事者の方々あげているときりがなくなってしまうが、こういう時だからこそ本文の最後と同じく“ひとまずの休息”が必要だと思う。ホッと一息心を落ち着かせて本を読んでほしいです。その一冊がこの本であったなら僕は嬉しいです。


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