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サンセバ映画祭2022日記Day2

<9月17日>
17日、土曜日。6時半起床、晴れ。昨日も風が強かったけど結局晴れて、本日も素晴らしい好天。気温は20度前後というところで、快適以外の言葉が見つからない。
 
週末はホテルの朝食が8時からなので(平日は7時から)残念ながらスキップせざるを得ず、8時半の上映に向かう…、が、あんなに便利だったバスが全然来ない。平日は数分に1台来たのに、土日だと15分に1台になってしまう。さすがスペイン、オンオフの差が激しいのか…。ギリギリで目的地に着き、バス降りてダッシュ。脚が重い。ランニング再開しなくては。
 
向かったのはメイン会場の「クルサール」の大きな方のスクリーン。600〜700は入るだろうか。立派な会場。なんとか上映開始1分前に滑り込む。ふうー。それにしても、ダッシュしても汗ひとつかかない、カラリとした気候が最高だ。
 
見たのは「オフィシャル・セレクション(=コンペ)」部門で、スペインのハイメ・ロサレス監督新作『Wild Flowers』。

"Wild Flowers"

2人の子供を抱える若いシングルマザーの奮闘記。超クズ男から始まり、3人の男と関係する3部構成で、女性の自立を妨げる男たちのダメさが強調される普遍的な物語。「普遍的」と書かねばならないところにゲンナリもしてしまうけれど、いまだに有効な物語であるわけで、最後の希望に少し救われる。ヒロイン役のアンナ・カスティーリョが好演で、カンヌの常連でもあるロサレス監督による安定した水準作、というところかな。
 
カフェに寄ってクロワッサンとコーヒーで一息ついて、同じ会場に戻り、11時半からコンペ部門の『The Substitute』(扉写真)。アルゼンチンのディエゴ・レルマン監督の久しぶりの新作だ。
 
ディエゴ・レルマンとは縁があって、彼の長編デビュー作『ある日、突然』(2002)を僕はザジ・フィルムズさんと共同配給した。その時に来日もしてもらい、渋谷で食事をしてから、何がしたい?って尋ねたら「ボーリングに行きたい」というので驚きながらも一緒にボーリングをしたのが、かわいい思い出。ああ、もうあれから20年が経つのか…。
それから、2010年には『隠れた瞳』を東京国際映画祭のコンペに招待もしている。その後の作品はあまり追えていなくて、今回ディエゴの新作を久しぶりに見られるのがサンセバ最大の楽しみのひとつだ。
 
頑迷さ故にキャリアが行き詰まった作家の男性が、中学校の代理教師を務めることになり、治安の良くない地域で生徒の指導に奮闘する物語。学校ものの基本を押さえつつ、地域の組織抗争や家族の問題も抱えた主人公の心理状態を一滴もこぼさないように密接して描く丁寧な演出がディエゴならではだ。現代アルゼンチンの知識層の苦悩や苦闘が伝わる作品であり、ディエゴはアルゼンチンの堅実な中堅監督としての地位を固めつつあるのではないかな。会いたいけど、連絡先を失ってしまったので、ひたすら無念…。
 
14時に会場を移動して、principleという小振のスクリーンを複数持つミニシアターへ。こういう会場がちゃんと圏内にあるのがいいなあ。さすが70回目を迎えるだけあって、サンセバはインフラが充実している。羨ましい限り。こんなに劇場がちゃんとあって、目の前がひたすら美しい海で、美味しい食事とワインが超手軽に楽しめるのだから、もう言うことない。映画祭の理想の形。

見たのは『Thunder』という「新人監督部門」のスイスの作品。おそらく19世紀、長女の死去によって修道院に入っていた次女がスイスの山間の実家に呼び戻され、そこで信仰と肉欲の境を超えていく様を描く物語。少し展開が性急な気がして僕はのれなかったのだけど、信仰のもとに抑圧され続けた女性の性の解放を扱い、今日的に重要な主題であるはず。ただ、3人の山の青年と同時に戯れるプロセスが今ひとつ理解できず、消化不良に終わってしまった。序盤がとても良かったのに、少し残念。

"Thunder"

続いて同じ会場で16時から、「ラテン映画部門」でブラジルの『Charcoal』という作品へ。ラテン映画部門にも賞があるので、ラテン映画コンペ部門と呼んでも良さそう。
 
こちらは、田舎の貧しい家庭が、死を装って敵から逃れようとしているドラッグ王を匿ってやることで起きる騒動を描くドラマ。うっすらコメディ色もあり、とはいえあくまでルックはインディアート系で、その塩梅がとてもいい。

"Charcoal"

なかなか面白く出来た物語だったなあと満足しながら劇場を出ると、韓国のチョンジュ映画祭のプログラマーと会ったので立ち話をしてみると、彼女はブエノスアイレスに8年間住んだ経験があり、もうラテン映画のドラッグがらみのクリシェにうんざり、とぼやいていた。「商業映画で派手にやるならともかく、インディアートで扱う意味が分からん」とのことで、まあ、それもそうかもなあ、と納得もする。僕は楽しめたのでよかったけど。
 
メイン会場から10分ほど歩いて別会場に向かうと、格式のある巨大な高級ホテルの前にたくさんの人だかりがしている。映画祭の最も重要なゲストが宿泊するホテルなのかな。群衆は誰かの出待ちをしているらしい。誰だろう。映画祭っぽくて素敵な光景だ。一緒に待ちたいけど、そうもいかないので引き続き目的地へ。
 
向かったのは、Truebaというミニシアターでスクリーンは2つ。ここにもこんなに手頃な劇場があるのだな。100人くらいのスクリーン2で、19時から『Color of Heaven』というスペイン映画を見る。これは「Made in Spain」というスペイン映画を集めた部門。
 
スイスの湖畔の高級ホテルに人気女優がチェックインする。たまたまそのホテルに有名哲学者が講演のために逗留している。2人はかつての知り合いであり、旧交を暖め合うが、やがてその関係はより深いものであったことが明らかになっていく…。クラシカルな抒情をたっぷりと盛り込んだ、大人の愛の名残の物語。

"Color of Heaven"

スタンダード画面を活かしたクラシカルなムードはとても美しくはあるのだけれど、欧州スノッブ臭が満ち満ちており、んー、これを素直に喜んではいられないなという感じ。見る人によっては上質の大人の映画と受け取るかもしれないけれど、僕はいささか警戒する。しかし、監督が34歳の若手と知り、確信犯でこのスタイルか、と分かると興味が沸かないでもない。こういう作品に出会えるのが映画祭の醍醐味で、「Maid in Spain」部門も全部押さえたくなってしまう。しかし、そうもいかないのが映画祭のジレンマ。それも楽しい。。
 
次の映画まで30分空くので、バル街に駆け込み、目に止まったバルに入って激ウマのカナッペとビールを頂く。7ユーロなので、今なら千円くらいか。短時間でこの満足度は、ちょっと他の映画祭では想像できない!土曜日ということもあるのか、バル街の混雑ぶりも相当なもの。

本日6本目は、21時半から「アウト・オブ・コンペティション」扱いで、昨日の映画祭オープニングであるスペインのアルベルト・ロドリゲス監督新作『Prison 77』。フランコ政権崩壊から数年後、民主主義の盛り上がりをよそに旧態依然たる暴力がはびこる刑務所内で、囚人の人権のために戦った人々の苦闘の物語。実話ベース。なるほど、スペインの映画祭のオープニングを飾るにふさわしい、骨太の実録ドラマだ。

"Prison 77"

上映終わり23時半。隣の席に旧知のフランス人プログラマーがいたので、互いに近況報告などしつつ、もう終バスも出てしまっているので、彼とタクシーをシェア。こういう偶然の再会も、嬉しい。
 
ホテル着いて0時15分。朦朧としながらブログを書いて、そろそろ2時。おー、いつもの映画祭のペースだ!寝ます!








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