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サンセバ映画祭2022日記Day0

東京国際映画祭に勤務していた約20年間、憧れ続けた映画祭がスペインのサン・セバスチャン映画祭でした。スペインや南米諸国の作品の牙城として有名で、もちろん国際映画祭として幅広く世界の作品も上映しています。そして、「世界で一番食事の美味しい映画祭」との異名を持つことでも知られています。
 
トーキョーは毎年10月下旬の開催なので、9月中旬に開催のサンセバに参加するのは絶対に不可能でした。もしトーキョーの仕事を離れる日が来たら、いままで行けなかった映画祭を巡るのが夢だったのですが、幸か不幸かその日が21年3末に訪れ、東京国際映画祭を去った僕は急に秋の日程が空いたのでした。しかし2021年はまだ海外渡航に制限があり(10月にトルコには行ったものの)、センセバは見送らざるを得ず、ならば今年こそは!ということで実行することにしました。
 
8月上旬のロカルノや8月下旬のベネチア、そしてそれに続くトロントも長らく行きたい場所だったのですが(トロントは行ったことがない)、なんだかボヤボヤしてしまい、ターゲットをサンセバの一本に絞ったのでした。ベネチアは来年トライしよう。
 
さて、どこから始めるか。まずは映画祭に何の身分で参加するかを決めないといけない。いままでは映画祭関係者ということでマーケットパスを申請していたのだけど、ちょっとそれは(出来ないことはないけど)微妙なので見送ることにして、初めてプレスパスに挑戦することにしました。おかげさまでいくつかの媒体に映画関連の文章を書く機会を頂いているので、ひとりの編集者の方に相談すると快諾して下さり、その媒体への記事執筆依頼の公式レターを頂きました。そのレターやら掲載記事やらをサンセバ映画祭に送ると、ほどなくしてプレス登録OKとのお返事。やった!
 
マーケットパスで20年近く活動していると、プレスパスは何だか神聖なイメージがあり、記者のみなさんの聖域を犯すようでちょっと気が咎めるのだけど、まあここはちょっと気分を切り替えて臨んでみよう。
 
次は宿とフライト。今年の2月にベルリンに行ったときは、空港は無人、フライト乗客は十数人でした。しかしいまは海外渡航がそれなりに復活し、円安や戦争のために値段が高騰しているのは覚悟してはいました。それでも、東京―サン・セバスチャン間の往復フライトを旧知の旅行代理店さんに見積もってもらうと、59万。うおー、ちょ、ちょっとこれは無理だ…。
これは無理かもしれませんと泣きついたら、もっと調べてくれて、ドバイ経由で時間がかかるけど、半額以下のプランを出してくれました。それでも高いけど、サンセバは長年の念願なのだと思い切り、購入。エミレーツ航空で、成田 - ドバイ - バルセロナ - サンセバ、のコース。たぶん24時間以上はかかる。もうこれは、しょうがない。
 
次は宿。サンセバの街を全然知らないので、ブッキング・ドットコムで適当に決めてしまう。メイン会場からの距離が分からないのだけれど、映画祭ゲストが宿泊するというホテルを検索すると1泊5万くらいなので早々に諦めて、もう場所にはこだわらず値段で決めることにする。一泊8千円のところがあったので、やった!と思ったら「4人部屋」とのこと。いや、学生のバックパック旅行じゃないんだし、それはもう辛いわ…、と思いさらに見てみると、ぎりぎり許容範囲の宿が見つかり、急ぎ予約。中心からちょっと外れているのかな。もうこれは出たとこ勝負でいいでしょう。
 
これで何となく大丈夫かな、とその後はぼんやりして過ごしていたのだけど、9月7日に何気なくサンセバ映画祭からのニュースレターを開けてみると、全上映作品は事前にチケットの予約が必要であり、パス登録者の優先予約の日が既に過ぎてしまったことに気付く。なんたるボーンヘッド!上映作品の予習自体がこれからだったのにボヤっとし過ぎていた!一般予約が8日(木)の日本時間の16時から一斉にスタートするというので、もうこれは気合を入れるしかない。
 
カンヌはチケットシステムが崩壊していたし、開催中のトロントも相当苦情が出ていると聞く。今回もシステムにアクセスできず、一枚もチケット取れずにサンセバに出発することになったらどうしようと、8日は朝から気分が重い。そしていよいよ16時、パソコンに向かって格闘開始。たまにアイドリング状態になってしまうものの、牛歩ながら少しずつチケットが確保できる…。そして2時間をかけて、滞在期間の全希望チケットを確保することが出来たのでした。ふうー。
ただ、会場の位置関係を把握せずに確保したので、実際にはハシゴできる距離でないかもしれない。まあ、それも行ってから悩めばいいやということで、とりあえず一安心したのでありました。
 
とりあえず日本出国時のPCR検査もいらなくなったし、帰国時の現地でのPCRも不要になったし(日本の指定のフォームに記入してくれる病院を探さなくて済むのは本当にありがたい)、海外行きもかなり楽になりましたね。スペイン入国にはオンラインで指定のフォームに入力してQRコードを取得する必要があるので、それを済ませ、そしてワクチン3回接種の証明書は必携なので、持参を忘れないように注意したりて、最終準備。
 
ということで、出発日の9月14日がやってきました。ここから、日記ブログ形式で書いていこうと思います。
 
<9月14日>
14日、水曜日。前夜にゴダール逝去の報に接し、全身が固まった。この気持ちはすぐには言葉にならないけれども、ゴダールの存在がもたらしたものを絶えず噛みしめていく毎日がやってくる。
 
サンセバ行きのフライトは夜なので、昼は試写を見るべく外出の準備をする。ゴダールが安楽死を選択したとのニュースを知る。渋谷に向かいながら、安楽死とはゴダールにふさわしいなどとぼんやり考えながら歩いていると、ふと、ベネチア映画祭が9月10日に終わったばかりであることに気付く。ベネチア映画祭は年間の映画行事で最も重要なイベントのひとつではあるけれど、映画史上最大の偉人の死去の報せが映画祭中にもたらされていたとしたら、いかにベネチアといえどもベネチア関連報道は吹っ飛ぶ。ベネチア映画祭と出品者に敬意を表し、ゴダールはベネチアが終わるまで待ったのかもしれない、いや、待ったのに違いないと思うに至り、胸がいっぱいになる。
 
13時にリム・カーワイ監督新作『あなたの微笑み』の第1回目のマスコミ試写。カーワイ監督は、渡辺紘文監督を本人役の主役に据え、フェイク・ドキュともリアル・フィクションともとれる素敵な作品を仕上げている。渡辺監督はあくまで自分の役のパロディを演じているのだけれど、それを自分ではなく他人が演出するという点が特徴的で(近日中にリバイバルされるナンニ・モレッティ『親愛なる日記』などを思い出していた)、渡辺監督という存在が戯画化されていることに対する渡辺さん本人の胸のうちはどうだったのだろうと、興味が尽きない。全国のミニシアターへのエールでもあり、広く観客に見てもらえることを願うばかり。
 
というのも、リム監督に昨年誘われて僕も急きょ出演しているので、いささか身内びいきになってしまうかもしれないけれど、応援したい。監督は僕の出演シーンをとても褒めてくれるのだけど、自分では冷静に見られず…。さあ、どうだろう…。ご確認下さい!
 
上映終わり、渋谷でシャツを1枚買い、帰宅してパッキング。スマホの天気予報アプリによれば、サンセバは23~25度くらいみたい。ちょうどいい感じなのかな?半袖を中心にジャケットも数枚スーツケースに詰め、極力軽量に抑え、成田へ。
 
成田第2ターミナルに20時に到着。エミレーツのチェックインに長い列が出来ている。チェックイン終わって21時を回り、そもそもほとんどの店が営業をしていないところに、開けている店も閉店してしまい、コンビニ以外すべての店が閉まっている。空港で軽く何か食べるのがかつてのお楽しみだったのに、そんな日の復活はしばらく先なのかな。
 
ドバイ行きの便が22時半に離陸。機内満席。幼児が多い。そこかしこで絶叫泣き声が上がる。しょうがない。ドバイには現地時間4時(日本時間9時)着。10時間半のフライト。そこから約4時間トランジット待ち。コンセントがあるカフェでパソコンつないで、この日記を書き始める。
 
ドバイ時間8時15分の便でバルセロナへ。7時間のフライト。結構長い。今回の渡欧のために取っておいた、愛読しているマイクル・コナリーの新作「潔白の法則」を読み進める。マイクル・コナリーは全作読んでいるけど、一冊たりとも外れがない。今回は「リンカーン弁護士」もので、やはりとても面白い。上巻を読み終わり、よし、下巻を読もうと機内持ち込みカバンから取り出して開くと、え?出だしが上巻と同じ…?うわあ、やってしまった…。上巻を2冊買っていた…。なんということだ…。続きがすぐに読めないフラストレーションと、自分のバカさ加減に対する絶望感で激しく落ち込む。
 
長旅に備えて持参していたもう一冊、白石一文氏新刊(何故か、好きなのだ)「道」を読み始め、序盤を少し過ぎたところから俄然面白くなり、没頭する。備えあれば、憂いなし。
 
現地時間で13時25分にバルセロナ着。2時間のトランジットを読書で過ごし、15時45分の便でサン・セバスチャンへ。1時間と少しのフライト。そして無事に17時にサン・セバスチャン空港到着!日本時間で16日0時。およそ26時間の移動か。まあ、断続的に寝られたので、割合に元気かな。

タクシーに乗り、25分くらいでホテル到着。感じのいいオーナーらしき女性の歓待を受け、チェックインして、荷ほどきして、教えてもらった近所のスーパーに行って水などを買い、部屋に戻って冷蔵庫に入れて、さあ市内に行こう。オーナー女性に聞いてみると、市内まで徒歩で1時間かかるという。そうなのか。ただ、市内行きのバスがホテルの前から5分おきに出ているらしい。それは便利だ。早速試してみる。市内まで、2ユーロ弱。20分ほどで市内に着く。これは何とかなりそうだ。
 
バスに乗っている途中に、海が見えてくる。バスク地方は初めてで、とても美しい。映画祭のメイン会場は、普段は大規模のコンベンション・ホールなのかな。海岸沿いにそびえる大きな建物で、間違えようがない。映画祭の受付に行き、無事にプレスパスを受け取る。

あっという間に今日やるべき用事が済んでしまい、ならば有名なバルのエリアに行ってみるか、と散策を開始する。狭い路地に、小さなバルがたくさん軒を連ねている。大勢の人が、ワイン片手に小皿料理を楽しんでいる。なるほど、これか。否が応でもテンションが上がる!とはいえ、ひとりで入るのは、最初はなかなか勇気がいる。しかしこんなところで臆していても仕方がないので、比較的空いているバルに入って、生ビールとハムの小皿料理を注文してみると、システムはとても単純であっさりと頼んだ品にありつける。そして、美味しい…。

1件クリアすると、すっかり慣れてしまい、結局3件ハシゴしてしまった。これはやみつきになる楽しさだ。しかし、さすがに眠くてフラフラしてきたのが自覚できたので、行きと同じバスに乗り、ホテルに無事帰還。ふうー。長い1日だった(どこからが今日の始まりだったのか分からなくなっている)。日記ブログを書き、22時にダウン。いよいよ明日からサンセバ開幕!





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