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サンセバ映画祭2022日記Day8

23日、金曜日。本日は午後から雨の予報。これからしばらく雨の日が続くらしい。僕はいよいよ今日が最終日。滞在中は完璧な晴天続きだったので、相当に運が良かったことになる。満を持してサンセバに来た想いが、天に通じたのだな!と感謝しながら外へ。
 
バス通勤も最終日だ。ほどなく到着したバスに乗り、ふと気付くと、車内にラジオが流れている。なにげないことだけど、妙に新鮮。
 
9時から「新人監督」部門で『To Books and Women I Sing』というスペイン映画。蔵書にまつわる家族と人の記憶を、詩的に紡いだアート・ドキュメンタリー。

"To Books and Women I Sing"

監督の母親や、家族の友人の女性たちの証言に、サイレント映画のフッテージや書物のイメージを被せ、詩と人に対する愛を描き、やがて歴史的な本/図書館に対する弾圧を通じて現代の言論の自由の危機に警鐘を鳴らす。とてもいい。(フッテージには、サイレント映画だけでなく、もちろんトリュフォー『華氏451』も登場する)。
 
「新人監督」部門の全作を見られなかったのが残念だけれど、押しなべてレベルが高く、面白かった。『To Books and Women I Sing』もいいところに行くかもしれない。日本の公開時に見ようと思っている『宮松と山下』の評判もとてもいい。こちらで見るべきだったかな。僕はフランス映画の『Spare Keys』が好きだったけど、さてどうなるか。明日の結果発表を楽しみにしよう。
 
上映終わって10時半。パリ在住のプレスのTYさんと合流し、早めのお昼を頂くべくバル街に向かい、軽く食べながら、少し作品の感想など語り合う。
 
そして聞いたところによると、昨日のインド映画に英語字幕が無かった件、映画祭側のミスだったらしい。なんと…。ただ、映画祭勤務が長かった身としては、どうしても映画祭を責める気にはならない…。
 
軽く食べるとは言いつつ、いままで食べ逃していた念願のフォアグラをついに頂く!午前からフォアグラ、歴史的だ。

12時から「ラテン映画コンペ」部門で『Octopus Skin』というエクアドルの作品。Ana Cristina Barragán監督の長編2本目とのこと。

"Octopus Skin"

大都会から湾を隔てて浮かぶ小さい島で、社会から隔絶された暮らしを送る家族と少女の物語。父親は都会に去っており、母親は鬱で子どもを放置し、ローティーンの兄妹3人は学校に行かず、日がな一日戯れたり、ブラブラしたりしている。
基本的にそれだけで、ほとんど物語は無いに等しい。食糧も水も電気も無いはずなのに普通に生きているので、なんらかのファンタジーなのかもしれない。ぼんやりとティーンの気持ちを海洋生物に反映させる雰囲気作りを重視した作品で、いささか退屈してしまった…。作品のメイン・ビジュアルは素敵なのにな…。まあ、こういうこともあるし、エクアドルの作品が見られるのはとても貴重であるのは言うまでも無し。
 
ところで、部門によっては観客賞を実施していることに、いまさら気付いた。劇場ロビーのテーブルの上にタブレットが数台設置されていて、見終わった観客が自分のチケットかバッジ上のQRコードを照らすと、1から10のボタンが表示され、10点を最高とする採点を入力する仕組み。ひとり5秒くらいの所要時間。そして作品ごとの平均点がロビーのモニターに表示されていく。なるほどねえ。投票方法は進化していく。

ただ、QRコードで何を読み取っているのか分からないけど、投票者が特定できてしまったりするのかな。まさかね。ロック解除くらいの機能だと思いたい。
 
14時近辺になぜか上映が無いので、いったんホテルに戻り、ひと休みする。
 
16時に「クルサール」会場に戻り、コンペ部門で中国のワン・チャオ(王超)監督の新作『A Woman』。1967年から80年代にかけて、2人のクズ夫に抑圧され、やがて自立を目指す女性の姿を描く物語。

"A Woman"

サンセバに来て最初に見たコンペ作の『Wild Flowers』も2人のクズ夫から受けた傷を乗り越えようとする女性の物語だったことを思い出し、まるで2つのブックエンドのように両作がコンペ部門を象徴しているかのようだ。
 
『A Woman』については、主題はともかく、この時代が幾度となく中国映画で描かれてきており、ルックも含めていささか新味に欠けることは否めない。ただ、作りは安定していて、監督の実績もあることから、コンペ入りを果たしたということかと推察。
 
サンセバコンペは、中国と韓国と日本映画を入れているので、地域や国のバランスを意識したセレクションを行なっている印象を受ける。自分もそうだったので、全作を見終わった今、親近感を感じる…。
 
上映終えて外に出ると、おお、ついに雨だ。しかもかなりの本降り。いったん(昨日ようやく知った)プレスセンターに避難して30分ほどコーヒー飲んで外に出ると、止んでいる。一時避難成功。
 
20時から、アウト・オブ・コンペ(賞の対象外)で、明日のクロージング作品となっている(でも今日も上映がある)『Marlowe』。ニール・ジョーダン監督の新作で、1939年のLAを舞台に、リアム・ニーソンがフィリップ・マーロウに扮する探偵もの。チャンドラーの『長いお別れ』の公式続編と言われる小説を書いたアイルランドの作家ジョン・バンヴィルが原作にクレジットされている。僕はちょうど『長いお別れ』の田口俊樹氏による新訳『長い別れ』を移動中に読む用にセンサバに持参していたので、奇遇だ。

"Marlowe"

謎めいた美女が、マーロウに人探しを依頼する。美女にディアン・クルーガー、そして彼女の富豪の母にジェシカ・ラング!なかなか素敵なキャストで、マーロウの人探しが描かれる。まあ、出来は普通と言ったところだけど、マーロウやチャンドラーのトリヴィアルなネタも満載なようで、僕の拙い英語のリスニング能力では全ては理解出来なかったものの、楽しく満足させる一本。
 
上映終わって20時45分。実は、22時からもう一本予定はしているのだけど、2時間半を超える上映時間と知る。ううー、終映後にバスは無いだろうし、金曜の夜でタクシーはめちゃ並ぶだろうし…、としばし悩み、もうここは映画はやめて、最後のバル巡りをしようと決意。ああ、我が人生において、食事を映画に優先させる日が来るなんて。もう、サンセバは特例認定!
 
ということで、本日も知人から勧められた人気バルをトライ。入場列が出来てはいたけれど、意外に早く入れてラッキー。

1品目は、燻製トマトに、ニンニクを効かせたトマトソースがかかっているもの。おおー、なかなか。

2品目に、フォアグラとトリュフのリゾット。これがもう、悶絶の旨さ。さすが人気店だ!固めに茹でたご飯に、絶妙のソースと、フォアグラ。これで700円くらい。今回のサンセバで一二を争う、至福の美味しさ!

3品目に、卵とキノコとパルメザンチーズとハムの和え物?かき混ぜて食べるべし、と言われたのでかき混ぜると、スープ状になり、んー、これは未経験の味だ…。スープ状になったものに、パンを浸して頂く。素晴らしい。

そしてラスト4品目は、子牛の頬肉。赤ワインと一緒に頂き、もはや思い残すことは無し。サンセバ、満喫。

23時にホテル着。パソコンに向かい、ブログを書いて、そうかコンペの受賞予測をしなければならないと思い至る。ウルリヒ・ザイドル監督作品が、どうしても頭ひとつふたつ抜きん出ているのだけど、Day3日記に書いた事情により、受賞は無いかもしれない。でも、これを除外して予想を立てるのも何だか不毛なので、今回の予測は割愛しよう。
 
初サン・セバスチャン、素晴らしい体験でした!明日は5時起きで空港行きなので、そろそろ寝ます。来年、また必ず!











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