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サンセバ映画祭2022日記Day1

16日、金曜日。6時半起床。たっぷり熟睡できたのだけど、夜中2時に両脚がつって目が覚めて、しばらく激痛にのたうち回る。両脚というのは経験がない。いったい何事だ?
外はまだ真っ暗、カーテンを開けてみると、雨だ!昨日は快晴の素晴らしい気候だったので何となくこれがずっと続くのかと勝手に思っていたのだけど、サンセバ、雨降るのか…。それは降るだろうけど…。
 
昨夜は日記ブログを書きながら寝てしまったみたいで、せっかくの晴れのサンセバ写真を添付し損ねていたみたい。ということで、貼り直そう(扉写真)。天気、回復しますように。
 
シャワ―浴びて朝食を食べて外に出ると、雨は止んでいる。このままもってほしいな。バスで市内へ。
 
バスは数分おきに来るのでとても便利。街でマスクをしている人はいないけど、バスはマスク必須のルールが続いていて、みんなバスに乗ると慌ててマスクを取り出す。もうしわくちゃで何週間使ってんだよ、ってマスクしている人もいるけど…。ちなみ料金はクレジットカードのタッチ機能で決済できるので、PASMO感覚でとても楽(とはいえカードの手数料かかるから割高なのかな)。
 
さて、9時からの作品を見るべく、メイン会場「クルサール」のスクリーン2へ。サブスクリーンだけど300人は入りそうな中規模スクリーン。見るのは、「New Directors」部門で、韓国の『Jeong-Sun』という作品。

"Jeong-Sun"

「New Directors」部門は、世界の有望な若手をピックアップすることで注目される部門で、近年では藤元明緒監督の『海辺の彼女たち』や奥山大史監督『僕はイエス様が嫌い』が選ばれていたと言えば部門の重要度が伝わるはず。
午前9時のこの上映枠は、プレスとインダストリー登録者向けの上映のようで、一般上映は今夜予定されていて、「オープニングナイト」作品として上映されるらしい。本当は一般上映で見たいところだけど、見られるときに見ておくというのが映画祭の鉄則でもあるので、致し方なし。
 
『Jeong-Sun』は、工場で働く中年女性が優しそうな男性と関係を持つが、ひどい仕打ちを受けてしまう物語。現代の等身大の中年女性のポートレートで好感の持てる作品。もうひとつ展開が欲しいところだったけれど、ドラマを作り過ぎないのもリアリティーがあってよいなと思わせる。今作が長編1本目となるチョン・ジヒェ監督による地に足のついた作品であり、母と娘のケンカと和解を繰り返す関係の描き方も繊細で上手い。やはり母娘関係は女性監督にこそ演出してほしいと最近とても感じる…。またもや韓国から有望な新人監督の登場だ。本作は7月に開催されたチョンジュ映画祭の韓国映画コンペで作品賞を受賞している。チョンジュに僕は行ったけれど本作は見られなかったので、こうやって次の映画祭でキャッチアップできるのが嬉しい。
 
12時半から会場を移動。昨夜うろついたバル街の一角にあるので、とても見つけやすい。なかなか素敵な外観の「テアトロ・プリンシパル」。

『Runner』というアメリカ映画を鑑賞。これは「Official Selection」部門で、どうやらこの部門が他の映画祭で言うところのコンペ部門に相当するらしい。それを理解するのにしばし時間がかかった。こういうところに、映画祭が個性を出そうとするのだよな。良く分かる。
 
本編の上映開始後、暗い画面に映画祭の先付画像がぼんやりと2重写しになっていて、客席からブーイング。5分くらいして直ったけど、こういうトラブルは「映画祭初日あるある」だ。上映スタッフの心中を察するにあまりある…。
 
『Runner』は、NY在住のマリアン・マティアス監督による長編デビュー作。1950年代の終わりごろのアメリカはミシシッピ川近くの荒涼たる大地を舞台にした、18歳の少女ハースの物語。借金を抱えた父が突然亡くなり、天涯孤独になった少女は父を埋葬すべく北に向かい、そこでウィルという青年と親しくなる。物語はこのくらいでドラマティックな展開は無く、影を重視した暗めの画面に、絵画的な美しさが広がるスローシネマだ。あえて言えば、テレンス・マリック系譜だろうか。どうしようもない若者たちの孤独が、ハンク・ウィリアムズの「アイ・ソー・ザ・ライト」に託される。美しい。

"Runner"

今日は初日ということもあり、チケット予約時に上手くハシゴが組めず、次まで2時間半空いてしまうので、いったんバスでホテルに戻る。
 
16時半から、「クルサール2」に行き、「Horizontes Latinos」部門でチリのパトリシオ・グズマン監督新作『My Imaginary Country』を鑑賞。本作は今年のカンヌ「スペシャル・スクリーニング」でプレミアされた作品で、カンヌでは見られなかったのでこれまたサンセバでキャッチアップ。
 
これは一般上映。チケット予約の時には区別がついていなかった。超満席で熱気が満ちていて嬉しい。やはり映画祭は一般上映に限る!
 
『チリの闘い』(75~79)の東京での再上映の記憶も新しい社会派グスマンの視点は、新作でも揺らぐことはない。2019年に首都サンティアゴで、民主主義と、教育と医療と失業率の改善を求めたプロテスト運動が爆発的に広まった様子が描かれる。デモ参加者は150万人にのぼり、その圧巻の光景が収められている。結果、新憲法制定の是非を問う国民投票が行われ、圧倒的多数で可決され、憲法設定委員会が設置され、若く民主的な新大統領が選挙で勝つ。

インタビューに答えるのは、全て女性。シングル・マザーの活動家、歴史学者、フォトグラファー、作家、学生、救急看護師、アーティスト。女性革命である面も強調される。

"My Imaginary Country"

 貴重な時代の記録。そして想起するのは、香港人の抵抗を描いた『時代革命』だ。『時代革命』の決して報われることの無い絶望的な運動を思い出すと、チリにはまだ希望がある…。
 
今日は何故か3本しかチケットを予約出来ておらず、これにて終了。まあスロースタートということで、悪くはないかな。パリ在住の女性ジャーナリストのYさんと合流し、バルで30分間食べて飲み、僕はその後またもや3件ハシゴして、やはり眠くなってしまうので、ほどほどに切り上げ、ほろ酔いでホテルへ。
 
それにしてもバル巡り、楽しすぎる。人気店は激込みで入りにくいし、ガラガラ店に入るのも少し寂しい。そこそこ人が入っていて、感じの良さそうな店を見つけて入るのが楽しい。ピンチョス(一皿料理)が美味し過ぎる。常に食事より映画を優先してきた身としては、なんだか信じられない気持ち。サン・セバスチャン、恐るべし。




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