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若さゆえの選択① (詩乃) ~この世に正解なんて無い~

 子供の頃から、詩乃は万華鏡が大好きだった。
 色とりどりの鮮やかな模様が、小さな世界で絶え間なく変化する様子に、わけもなく夢中で見入った。キラキラしたその世界を眺めている間は、どんな辛いことがあってもその美しさに浸ることが出来る。いつか、万華鏡職人になりたい。詩乃の中でそんな思いが芽生えてくるのは、時間の問題だった。

「自分の将来のことだぞ? もっとちゃんと考えろ。お金を稼ぐことは、すごく大変なんだから」
 地元の公務員としてコツコツ真面目に働いてきた父とは、当然衝突した。詩乃の思いが本気であればあるほど、父の口から深いため息が漏れる。

「子供じゃないんだから、いい加減大人になれ」
 頭ごなしに父の考えを押し付けられ、母もそんな父に同意するように、黙って頷く。
 家を出るしかない――。万華鏡職人になることは、詩乃にとって、どうしても譲れない夢だった。

 詩乃は、迷うことなく上京を決めた。

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