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若さゆえの選択③ (遼平) ~詩乃が工房に来た日~

 あいつが事務所に初めて来たときのこと? もちろん、今でも覚えてるよ。
「す、すいません……」て、か細い声で恐る恐る事務所に入って来たんだ。詩乃を見た瞬間、俺は思ったね。ああ、こいつ絶対落ちこぼれだ、って。きっと学校でいじめられるような、根暗な奴だと思ったよ。

 ただ……、あいつの目だけは、すごく印象的だった。
 あいつ、いつもビクビク、おどおどしてたんだけど、目だけは違って、すごく真剣だったんだ。もともと引っ込み思案で、最初は俺らを怖がってただけなのかもしれない。でも、俺らの、万華鏡を作っている手元を食い入るように見つめる視線は、すごい熱かったよ。

 人が真剣な時ってさあ、何かわかるじゃん? ああ、こいつ本気なんだ……!て。そんな、迸るような情熱が、あいつの目にはあった。

 まあ、詩乃も、いろいろあって後に引けない状況だったんだって、今になってわかるよ。家を飛び出て、背水の陣だったって。

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