Vol.526「男尊女卑が治らない人」
(2025.1.22)
【今週のお知らせ】
※「ゴーマニズム宣言」…先週は、自称保守派に大きな影響力を及ぼした渡部昇一が、実はヒトラーと五十歩百歩の「優生思想」の信奉者だったことを明かした。「自発的優生運動」の提唱者、アレキシス・カレルに心酔していたことを詳述したが、実はカレルは「男の遺伝子の方が女の遺伝子よりも優れている」なんてことは全く言っていないのだ。「男がタネで、女はハタケ。タネさえよければ、ハタケは何でもよい」などと平然と言っていた渡部の露骨な男尊女卑の感覚は、カレルの影響とは全く別に培われたものだったのである。ではどのようにして「男尊女卑」の感覚が培われたのか?
※泉美木蘭の「トンデモ見聞録」…「女帝・持統天皇列伝」再開!天智天皇が近江の大津宮に遷都してから、忠臣として仕えていた中臣鎌足は、京都の山階に館を構えて暮らしていた。天智8年(669年)、山階の御猟場で狩りをしていた鎌足は、バランスを崩して落馬。病が体を蝕んでいたらしく、そのまま病床に臥してしまう。54歳の秋だった。たとえ親族でも容赦なく追い詰め、次々と殺していくという時代の中で、唯一、天智天皇と固い絆で結ばれていた鎌足。酒の席で起きた大海人皇子と天智天皇の一触即発「長槍事件」を、なんとか丸く収めた鎌足が世を去る…ここから先、果たしてどうなるのか!?
※よしりんが読者からの質問に直接回答「Q&Aコーナー」…SNSを使って表現した気分になっている人は「無自覚に自分の色々なものを晒している」という認識はあると思う?キャンセル・カルチャーでもっとも罪深いことは?「普通」とか「日常」って何でしょうか?去年の紅白で、星野源が歌うはずだった楽曲を別の曲に替えさせられたことをどう思う?Kinki Kidsが『Domoto』に改名することをどう思う?主人公達の十数年後~数十年後の事や、次世代の事等が描かれてる漫画やアニメが多くなったことについてどういう考え?日本人は、政策に対して一時は怒っていても、直ぐ慣れて忘れるのは何故?…等々、よしりんの回答や如何に!?
1. ゴーマニズム宣言・第555回「男尊女卑が治らない人」
先週は、自称保守派に大きな影響力を及ぼした渡部昇一が、実はヒトラーと五十歩百歩の「優生思想」の信奉者だったことを明かした。
前回だけでも、あまりのトンデモさんぶりにドン引きという向きも多かったのだが、しかし困ったことに、渡部昇一に関しては書かなければならないことがまだ残っている。
本当は、とっくに亡くなった人の批判を何度も書くのは気が進まない。
だが男系固執派には渡部昇一の影響を受けた者や、無意識のうちに渡部と同様の思考に陥っている者が多いように思われるので、この機会に書くべきことは残さず書いておく。
前回は渡部が「自発的優生運動」の提唱者、アレキシス・カレルに心酔していたことを詳述した。
だが、実はカレルは「男の遺伝子の方が女の遺伝子よりも優れている」なんてことは全く言っていないのだ。
「男がタネで、女はハタケ。タネさえよければ、ハタケは何でもよい」などと平然と言っていた渡部の露骨な男尊女卑の感覚は、カレルの影響とは全く別に培われたものだったのである。
渡部昇一は昭和5年(1930)、山形県鶴岡市生まれ。極端に過保護に育てられ、驚いたことに成人しても「自分で着替えたことがなかった」という。
渡部は新婚当初、妻に向かって「スーツに着替える!」と言って突っ立ち、着替えさせてもらおうとして妻を当惑させたという。
このエピソードは渡部が原作を手掛けた漫画『皇室入門』(飛鳥新社)に描かれており、渡部が自らこう語っている。
「子どもの頃からそうでした。長男ですから、祖母か母親、あるいは姉に着替えさせてもらっていました。
寝る時は敷き布団に横になると掛け布団をかけてくれた。
そういう風に育ったから……。ウーマンリブから『マザコン』なんて言われちゃってね」
漫画では、これを聞いたキャラが「そういうことを言う連中がまた、『男尊女卑だから女性天皇を認めろ』と言い出すんだ」と応えている。
いや、別に「ウーマンリブ」でなくても、誰が見たって、「こんな育ち方をしたら男尊女卑になるし、男尊女卑だから女性天皇に反対しているのだ」と思って当然じゃないか?
さらに渡部は、自分は家事を一切しないと言い、その理由をこう言う。
「文科系の学者は、毎日、学校の研究室に行きません。自宅の書斎で仕事をします。
だから家事に手を染めてしまうと、思索や読書の時間を削ることになります。
それは一種の汚職ですから、一切やらないことにしてカミさんに任せた」
大学から給料をもらっていながら家事に時間を割いては、給料を不正に受給していることになり、「汚職」になると言っているのだ。いくら大学から給料が出ていたって、24時間拘束されているはずはないのだが。
実はわしも渡部昇一と大同小異かもしれない。自分の時間を全て創作活動につぎ込むため、家事は妻に任せっきりで、むしろわしが台所に入ると、妻から叱られる有り様だ。
小異を言えば、渡部は明らかに家事を学者の仕事よりも下等なものとみなしており、下等な仕事だから女にやらせるという意識だったようだ。「家事に手を染めてしまう」とか、「汚職」とかいう言葉遣いに、その蔑視感情がにじみ出ている。
漫画の中では、その渡部の発言を聞いたキャラが「ひぇ~~~」と言ってドン引きする様子まで描かれているし、その前には、そんなことを言うと「男尊女卑」と言われるという意味合いのセリフがある。おそらく渡部の話を聞かされた漫画家自身がドン引きして、ついその気持ちを描き入れてしまったのだろう。
それにしてもなぜ渡部は、わざわざ『皇室入門』と題する本に、自分が男尊女卑むき出しの人間だとわかるような発言を入れたのか?
要するに渡部は、男尊女卑がそう悪いこととも思っておらず、居直っていられたのだろう。
小異を言えば、わしの場合は妻も「役割分担」と思っており、わしにはカネさえ稼いでくれればいいとしか思っていない。
結局のところ渡部は、戦前の家制度の中で跡取り息子として女からチヤホヤと育てられたために、男は男に生まれただけで偉いもので、女は男にかしずき仕えるものだという価値観を刷り込まれ、それを疑うこともなかったわけだ。