顧客とサービス、企画と開発を繋ぐ、サービスブループリント真行寺派(仮称)の提案
こんにちは、NEWhの真行寺です。現在、デザインコンサルティングファームから転職し、NEWhに参加しています。前職ではデザインコンサルタントとして、顧客企業と共に人間中心設計に基づいた製品開発やプロセス改善に携わっており、UI/UXに関するリサーチや要件定義、設計、評価を担当していました。この経験を活かし、NEWhではサービスデザイナーとして業務を行っています。
みなさん、サービスブループリントというツールはご存知でしょうか?サービスデザインにおいて、顧客とサービスや、企画と開発を繋ぐのに大いに力を発揮するツールなのですが、今回は、その役割や利用する上での独自の工夫を紹介しようと思います。
サービスブループリントの定義
サービスブループリントは、顧客を中心に据え、サービス全体を時系列で可視化するツールです。これにより、顧客がサービスを利用する一連のステップを整理できるだけでなく、バックエンドのプロセスやサービス提供者同士のインタラクションも含め、包括的に描写します。顧客体験の向上を目指すだけでなく、サービス全体を効率的に運用・改善するための重要なツールとして位置づけられます。
サービスブループリントの特徴と利点
サービスブループリントの特徴として、顧客の目的達成に向けたプロセスを具体的に描き出すことが挙げられます。類似の技法としてカスタマージャーニーマップがありますが、こちらは顧客の感情や行動の変化を記述する点で異なります。一方、サービスブループリントは顧客体験に加え、ステークホルダー間のバックエンドのプロセスやインタラクションも明確に示します。この視点の広さにより、サービス全体を把握し、ビジネスの企画からエンジニアリングに至るまでの橋渡し役を担うことができます。
サービスブループリントの役割と重要性
サービスブループリントは、ユーザーとサービス提供者を結びつけるだけでなく、サービス提供までの仕組みを記述します。これにより、サービスにおいてユーザーに実行してもらいたい行動や、それに伴うシステムの動作を具体的に記述することができます。また、ビジネス部門とエンジニアリング部門のコミュニケーションを円滑にし、ユーザー体験の実現性を高めるためのツールとしても重要です。結果として、サービスブループリントは、ユーザーが期待する体験とサービス提供者が実際に提供する内容を一致させるために不可欠な役割を果たします。
サービスブループリントの起源
サービスブループリントの概念は、1984年にG. Lynn Shostack氏が発表した論文「Designing Services That Deliver」で初めて提唱されました。この論文は、サービス提供のプロセスを可視化し、合理的に管理するための新しいアプローチを提示したものです。当時、製品マーケティングの枠組みでは無形のサービスを適切に管理することが難しくなっており、この課題を解決するためにサービスブループリントが考案されました。この考え方は、無形の要素を含むサービスの分析と管理を可能にし、サービスの質を向上させるための基盤を提供しました。
サービスブループリントの背景には、製品とサービスの境界が曖昧になる現代のビジネス環境があります。例えば、自動車は物理的な製品ですが、同時に輸送サービスという無形の価値も提供しています。サービスブループリントは、このような製品とサービスの要素を統合し、どのようにして顧客に価値を提供するかを合理的に分析・管理する手法を提供します。これにより、顧客が体験する価値を一つの体系的なプロセスとして可視化できるようになり、サービスの提供者がその価値を最適化できるようになります。
サービスの具体的な要素と顧客体験の設計
サービスブループリントを作成する際には、顧客体験の設計をより深く掘り下げる必要があります。たとえば、航空輸送のサービスを考えた場合、無形の輸送というサービスに加え、機内のインテリア、飲食物、チケットデザイン、アテンダントの制服といった具体的な要素が含まれます。これらの有形な要素が、顧客の体験に直接的な影響を与え、サービスの「現実」を形作ります。サービスブループリントは、こうした多様な要素を統合して描写し、顧客体験を合理的に設計・管理できるようにします。
サービスブループリントの課題
しかしながら、カスタマージャーニーマップのようにユーザーエクスペリエンスにのみ焦点を当てていないが故に、記述されたユーザーのタスクがなんのためなのか、検討中に抜けてしまう懸念もあります。また、往々にして詳細な検討をしすぎて、サービス全体での狙いを見失ってしまうこともあります。
そこで、以下のような解決案をサービスブループリント真行寺派(仮称)として提案したいと思います。
課題の解決案1:タスクごとの価値提供を明確化する
サービスブループリントの効果を高めるためには、各タスクが顧客にどのような価値を提供するのかを明確に記述することを提案します。この工夫により、単なるタスクの羅列ではなく、タスクごとに顧客体験の質や提供する価値が可視化され、全体的な価値創造プロセスが理解しやすくなります。特に、タスクがどのように統合されて最終的な価値を生み出すのかを示すことで、ステークホルダー間の共通理解が深まり、チーム全体で効率的なサービス提供が可能になります。
課題の解決案2:サービス全体を俯瞰する
個々のタスクやプロセスの詳細に没頭しすぎると、サービス全体のバランスが崩れるリスクがありますが、俯瞰的な視点を持つことで、それぞれのタスクが全体の中でどのように位置付けられ、どんな役割を果たすのかを理解できます。これにより、重要な要素に集中しながら、全体的なサービスの質を向上させることができます。
価値の可視化による効果的なサービス設計
各タスクに対する価値を明示し、その結果としてサービス全体がどのような価値を提供するのかを視覚的に表現することで、サービスブループリントの効果が一層高まります。この価値の可視化により、各ステークホルダーがタスクの目的や意図を理解し、サービス提供者全体で一貫した価値を提供できるようになります。サービスブループリントは、単なるタスク管理ツールではなく、価値創造プロセスの設計と最適化を支える強力な手段になり得ます。
効果的な使い方
前述のように、サービスブループリントは、製品やサービスの全体像を把握するために欠かせないツールです。特に、顧客の体験を最適化するためのプロセスにおいて、サービスブループリントはソリューションプロダクトフィット(SPF)の中核的な役割を果たせると考えます。SPFとは、顧客が求めるソリューションとそれを実現するプロダクトが適合するかどうかを確認するためのフェーズであり、サービスデザインの要でもあります。このサービスブループリントによって、顧客がどのようにサービスを体験するか、その過程でどのような関与者がどのように連携しているかが明確に可視化されます。
サービスデザイナーは、このサービスブループリントを用いて、実現したいサービスの構想を具体的に描き、事業企画者、エンジニア、そしてオペレーション担当者にもわかりやすく伝える役割を担っています。これにより、各部門間での連携が促進され、円滑なサービスの構築が可能となります。
たとえば、サービスブループリントを通して、デザイナーが顧客体験の流れを描写し、エンジニアが必要な機能を実装しやすくし、オペレーション担当者が実行計画を立てる場面では、共通の理解があることでプロジェクトがスムーズに進行します。
実際のプロジェクトにおいても、サービスブループリントの導入により、各部門の関係者が共通の理解を持ち、顧客の期待に応えるための連携が向上しました。
サービスブループリントを活用することで、プロジェクトメンバー全員がサービス全体の構成を同じ視点で把握し、共通の目標に向かって一丸となることが可能です。その結果、コストの削減や開発スピードの向上など、事業全体にポジティブな影響がもたらされます。
まとめ
サービスブループリントは、顧客体験とサービス提供プロセスを一体化し、ビジネスの成功に必要なツールです。顧客体験を中心にしながらも、バックエンドのプロセスやステークホルダー間の連携を可視化し、全体的な価値を最適化することで、効果的なサービス提供が実現します。サービスの複雑さを理解し、価値を提供するプロセスを合理的に管理するために、サービスブループリントを活用することが、今後のサービス提供において重要な役割を果たすでしょう。
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