鑑賞レビュー:アンリ・ルソー”サン 二コラ河岸から見たシテ島” 世田谷美術館コレクション
先日、原田マハさんの著書”楽園のカンヴァス”を読んでアンリ・ルソーの絵に会いたくなり、世田谷美術館で開催中の美術展”荒井良二のアールぶるっと展”(11月20日まで)で展示中の”サン 二コラ河岸から見たシテ島:夕暮れ”を見てまいりました。
この作品は、世田谷美術館が収蔵するアンリ・ルソー作品4点のうち1点。
46㎝×55㎝の小品ですが、タイトル通りの単なる風景画にはみえず、月の光に照らされる静かなセーヌ河岬で起こるミステリアスな物語の予兆を想起させるような見ごたえのある作品でした。
覆いの下の荷物は何だろう?
画面中央の荷物を見ている後ろ向きの人物は誰だろう?
反対側から見守る制服の人物は巡査だろうか?
悪い出来事の予感?
夕暮れなのにほかに人がいないのはなぜ?
などと考えていると、一つの画面からふつふつと謎が湧いてきて、いつまでも見ていられます。
画面全体はブルーグレー・ベージュ・ブラックといった落ち着いた配色を基調としていますが、透明感のある色調からは沈んだ重苦しさが感じられません。反対に、白を被せることで表現された木々や建物に当たる月の光が、この風景を現実感のない幻想の世界の出来事のように見せていて、そこにルソーの個性が見られます。
右上には遠くにあるノートルダムの塔が見えますが、空気遠近法(遠くの景色になるほどぼんやりと描く方法)のような絵画技法は用いられておらず、前景も近景も同じテイストで描かれています。しかし、少し離れてみると構図によって奥行きが感じられるように工夫され、広い場所が描かれていることがわかります。
また、画面中央が黒い橋で分断されているおり、画面の上部と下部が近景と遠景の異なるレイヤーに見えてきて、荷物は前のほうにあり、ノートルダムが遠くにあるように見えてきます。
絵の具の厚みが均等であるがゆえにマチエール(絵の表面)は単調ですが、なめらかで艶があり、丁寧な筆遣いが時空を超えてこの絵を守っているようです。
実物を見ると、オンライン画像では伝わらない画家の息遣いが感じられてきて、絵画は単なる図像ではなく、人の手仕事によってつくられた物だと確かめられます。
今回は11月20日までの展示ですが、世田谷美術館の収蔵品なので、またコレクション展などで出品されることがあるとおもいます。
世田谷美術館は東急田園都市線用賀駅が最寄り駅ですが、徒歩だと30分近くかかってしまうので、歩くのが得意でない方には駅から出ているバスのご利用をおすすめします。
また、砧緑地という美しい公園内にあるのでお天気のいい日は散策も楽しめますし、カフェもあります。
機会があったら世田谷のルソーにあいにいってみてくださいね。
ルソーは日本で人気があるので収蔵している美術館が国内にたくさんあります。旅行先での出会いも楽しめるかもです。
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