ざくっと『シン・ニホン』 :5章 未来に賭けられる国に – リソース配分を変える
■5章の目的と構成
5章の目的は,日本の未来のための社会としての資源配分を理解すること!
5章の構成は,以下の5つのパートで構成されている.
・圧倒的に足りない科学技術予算
・日本から有能な人材がいなくなる
・産学連携の正しいエコシステムをつくる
・若い人に投資する国へ変わろう
・未来のための原資を創り出す私案
以下,それぞれのパートについて概要を説明する.
■圧倒的に足りない科学技術予算
「欧米は資本主義で,近視眼的で,長期的な発展に資する研究開発など科学技術に対する予算も少ないのではないか」という先入観があるとしたら大間違い.
日本こそ,ややもすると近視眼的で,十分な科学技術予算が投入されていないことがファクトとして提示されている.
(参考)
・科学技術・学術政策研究所 https://www.nistep.go.jp/
・経済成長政策の定量的効果について:既存研究に基づく概観 https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/15020003.html
■日本から有能な人材がいなくなる
学生一人当たりの予算も,東大ですらスタンフォード大学の4分の1.教えるほうの大学教員の給与の差も2倍となっている.
さらに,「主要国で唯一PhD取得に費用がかかる残念な状況」が挙げられているが,確かにその通り…とっても残念な状況.
国の研究開発を担う国立研究所でも,基礎予算(運営交付金)が削られ続けているという状況.公務員で国立の研究所に勤務している中のいい同級生がいたけれど,年収を聞いて驚いた記憶がある.
こんな状況では,日本から優秀な人材が逃げていく可能性があるのは火を見るよりも明らかである.
<脱「選択と集中」を目指せ!>
そもそもイノベーションは,
境界・応用領域から生まれるものであり,すでに成功しているところに投下するという「選択と集中」型の発想とは真逆の取り組み,すなわち境界領域を切り拓く多様性の担保を行う必要がある.
だから,成功しているところに追い銭をするのではなく,脱「選択と集中」でいかなければいけないのである.
(参考)
・日本学術振興会特別研究員 https://www.jsps.go.jp/j-pd/
・【直撃】東大を超える、トップ論文を生み出し続ける僕らの方法 https://newspicks.com/news/4146925/body/ https://www.oist.jp/ja/president/writing-and-speeches/overtaking-utokyo-how-we-keep-producing-research-results-newspickscom
・情報・システム研究機構 https://www.rois.ac.jp/
・国立極地研究所 https://www.nipr.ac.jp/
・国立情報学研究所 https://www.nii.ac.jp/
・国立遺伝学研究所 https://www.nig.ac.jp/nig/ja/
・統計数理研究所 https://www.ism.ac.jp/
・データサイエンス共同利用基盤施設 https://ds.rois.ac.jp/
■産学連携の正しいエコシステムをつくる
アメリカのトップスクールの研究の財源は,個人による寄付や,大学の基金としての運用益である.つまり,いかに個人から寄付を集めることができるかが重要なのである.決して企業の金が中心になったものではない.
金がないなら産学連携だ,海外の大学のように企業から金をもってこいという日本の大学の議論は,まったくの誤解
ちなみに,『シン・ニホン』では,約10兆円の運用基金を作ってはどうかという提案も記載されている.
■若い人に投資する国へ変わろう
未来を担う24歳以下の層に,社会保障給付費120兆円の2%程度,約2兆円を回してはどうかという考え方が提案されている.
一方,憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という考え方を持ち出し,年金や医療費は,「若者の未来や未来の国力強化のためのリソース投下を犠牲にしてまで最優先されるべき」という考え方があることも紹介されている.
憲法25条に抵触するようなドラスティックな話ではなく数%のリバランスで未来に投資しようという話なのだが,既得権益によって捻じ曲げられてしまっているような気がして,『シン・ニホン』では,個人的には,一番モヤモヤしたところだった.
■未来のための原資を創り出す私案
未来のための原資3%を捻出するための案として,データドリブンにさまざまなコストを見極めてはどうかという提案がなされている.まさに,負のサイクルを,未来あるべきサイクルに変える提案である.
国としての資源配分は,まさに政治や行政が主導していかなければならないところでもあり,『シン・ニホン』にあるようなものを一つのたたき台として,議論がなされていってほしいところである.
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