Column #26 国境のジェントルマン
ロシアとウクライナの国境で、ロシア兵は星空を眺めながら、何を想うのか。たとえ大義があろうとも、誰だって人を殺したくはない。
アメリカの発する情報は誤差こそあれど、ほぼその内容通りロシアのウクライナに対する侵攻が始まった(2022.2.20)。NATO(北大西洋条約機構)が冷戦後に東へ東へと急拡大していったことに対する、ロシアからの対抗措置が戦争……。あまりにも一方的だから、戦争という言い方は正しくないかもしれない。
NATOは文字通り北大西洋を囲む、北アメリカの国と西側諸国の軍事同盟。ざっくり書くと資本主義で自由&個人主義な考え。ヨーロッパの東側にも及んできてるから、「西側」とも言えなくなってきてるけど。ユーラシア大陸全体でいうと、まだまだ西側か。これを機に加入を検討する国も増えてる。ちなみにウクライナはまだ非加盟。
日本も立場的にはそちらに位置していて、僕もそのバンドメンバー、じゃなかった国民のひとり。東側だって実質的には資本主義に移り変わっているが、多くの国では社会主義の名残りがまだあり、往々にして情報統制が敷かれている。フィジカル的には自由貿易、インターネット上では鎖国状態。
ところでネットといえば、今は多種多様なユーチューバーが世界各国にいる。「Arina Ukraine-アリナ ウクライナチャンネル」では、日本の文化が好きなウクライナ人女性のアリナさんが、流暢な日本語で動画を日々アップ。日本のお笑いを流しながらただ笑っている、いわゆる"リアクション動画"など、のどかな動画が多い。
アリナさんは、侵攻直前まではキエフ(正式名称はキーウ)の今の状況もたまに報告してくれていたのだが、その後は動画の更新がなく、どこかに避難しているのかもしれない。だから僕も心配だ。もちろん、ほかのウクライナにいる人々のことも。自分がウクライナ人でキエフに住んでいたらどう行動しているだろう、家族をどういう風に守るだろうとも、この数日よく考える。
プーチン氏のやってることは、あの不気味に光る瞳のごとく、彼のスパイ時代の延長そのものだなと、肌で感じる。少し前のウクライナ大統領のユシチェンコ氏は、一度毒殺されかけて顔がおそろしいほど青黒くなっていたし、国内でも反政府的な人物の多くは毒を盛られている。いわゆる全体主義で反民主主義的なやり方には恐ろしさしか感じない。
かといって侵攻を受けているウクライナのゼレンスキー大統領に対しても、スーツからミニタリー色のTシャツに着替えた途端、国民全体に向かって、「火炎瓶を用意しよう」「市民も共に戦おう」と呼びかけている台詞を耳にしたときに、それはそれで、ものすごい違和感を感じてしまった。元コメディ俳優の氏らしく、いかに堂々とした振る舞いであろうと。
しかもウクライナの18〜60歳の男性は現在、出国禁止 & いつでも戦えるようにしなければならない。少なからず憲法九条のもとに暮らしている自分には考えられないことだが、環境次第でこんなにも違うのかと愕然とした。
住居あたりのシェルターの多さから考えると、心の準備はできていたのかもしれないが、自由意思が尊重される現代において、国家総動員という言葉を目にするとは思わなかった。でも自分が知らないだけで、中東などの紛争地域はいつもそんな状態なのかな。
人は戦わない姿勢を「平和ボケ」とも呼んだりするが、これこそがいたって正常な感覚だと信じたい。市民は市民であり、兵士ではないし、それは国際条約としても定められている。政治や経済の勝ち負けに、どうしていつも関係のない市民が巻き添えになるのだろう。
戦って、兵士がひとり死んだら、民間人がひとり死ぬことを意味し、民間人がひとり死ぬということは、子供がひとり死ぬことを意味する。計算上は間違っているだろうけど、その一発の銃弾が子供に向かうことはいつだってあるわけで、その子供とは、幼かった頃の兵士であり、幼かった頃の政治家たちでもあるのだ。
NATOの国々は今(2/28現在)になって武器をウクライナに渡し始めている。先を見据えた戦略もあるのだろうが、将棋のように、相手の歩を取ることに夢中になっているうちに、飛車や角(=核)が突然頭上から飛んでくるなんてことも、ありえなくはない。実質、飛車はしきりに飛び交っている。
武器はあくまでも抑止のためのお飾りであって、剣ではなく盾であれといつも思う。とにかく言いたいことは、どちらが勝っても、戦争で亡くなった人の命は戻ってこないということ。この機会にロシアが弱体化するのは西側の望みだろう。それは分かるが、政治は本来スポーツとは違うはず。勝ち負けなどではなくて、融和、そして対話の道を探ってほしい。
この際、誰かが宇宙人のふりをして「仮想敵」になってもらって、人のいない広陵な大地に強烈なレーザー光線を放ってくれないかな。束の間かもしれないが、ひとつになれる。
プーチン氏はウクライナ兵に反乱のクーデターを煽っている。それならば僕は、今このときもロシアとウクライナの国境で待機をしているロシア兵に、17年前に書いた歌を送りたい。
兵士たちは夜になれば、月や、月より高い星を見上げて何かを考えているはず。国境付近はきっと灯りも少なくて、星が綺麗だろう。
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補足を。
キエフは「TENET」というクリストファー・ノーラン監督の映画の重要な舞台だったので、それもあって少し前から意識して調べることも多かった。その映画は非常に難解なので、完全に理解するまで3回くらい観た。SFでありながら「目前に迫る第三次世界大戦を防ぐ」という内容は、今覚えば似すぎていてた。
"TENET"の概念で時間を遡り、プーチン氏の背中のリュックからそっと核だけを掠め取りたい。