ジョン・ハッティ『教育の効果 メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』(第9章)指導方法要因の影響Ⅱ【357】
今回は、第9章に書かれていた「指導方法要因の影響Ⅱ」について重要だと思ったところを記録していきます。この章では、学習形態についてどの方法にどのような効果があるのかについてまとめられています。教育的によく話題になる「宿題」の効果についても述べられていますので、そちらだけでも読んでいただいて参考になれば嬉しいです。
指導方法によってどのような効果が現れるのかについて、メタ研究から分かったことを自分の教育実践にも活かしていきたいと思います。
第9章 指導方法要因の影響Ⅱ
ここではいろんな学習形態の効果について述べられていますが、共通点として重要なことが書かれていました。それは、「事前に計画を立てること、学習目的や到達基準に注意を向けること、学習者にどの程度うまく教えられているかのフィードバックを教師が求められるようにすること」などです。つまり、この方法だからうまくいくという考えではなく、何をどのような目的で取り組むのかについて考え続けることが必要だということです。
教授方略を重視した指導
授業を進めるには、いろんな取り組み方があり、それぞれの特徴を生かしながら進める必要があります。本書の中で紹介されていたものを以下にまとめておきます。
授業方法の選択については、教科によって向き不向きがあります。例えば、探究的指導は理科に向いているなどそれぞれの教科や学習活動の特性に合わせて考える必要があります。また、課題に取り組むときに、教師が見本を示すことも効果があるとされています。
こういった研究から、共通している重要な取り組みは、「学習者に思考させること」です。思考させるためには、学習の明確な目標が必要であり、それを学習者や保護者と共有できるところにあります。
また、前章で紹介されていたような学習者が教師役を担うことの効果の高さを説明しています。そして、質問を授業の中で行い、要約なども進めていく中でお互いに理解度をチェックし合う活動ができるような授業形態が望ましいと書かれていました。また、学習方法そのものについての説明する機会があればさらに高まります。この方法は、国や校種による違いはあまり見られないようです。
直接教授法
教師が前で全体に説明を行うことは悪と捉えられがちですが、様々な学習方法の中で「直接教授法」はうまく活用すれば高い効果を発揮するとされています。そのため、直接教授法を極端に排除するのではなく、他の方法とうまく組み合わせることで効果を発揮するということを理解しておく必要があります。直接教授法の効果量も研究では分かっています。
直接教授を効果的に行うためには、いくつかのステップが必要だと書かれていました。それは、
・教師が目標や内容、学習することで得られるものなどについての考えをもち、それを学習者に示す
・学習者が課題に意識を向けられる
・学習を進める中での理解度の確認をしながら必要に応じた情報提供
・学習内容のアウトプットとそれに対するフィードバック
・単元のまとめを行い、他に学んだこととの関連づけなどを行う
・自ら学習(練習)に取り組むようようなサポート
直接教授法の効果は、読解などで力を発揮することがあるそうです。また、どの校種においても学習目的や到達基準が示され、何をすべきかが明確になれば間違いなく効果は高まるとされています。そういった観点から考えると、伝えるという効果が高い直接教授法はうまく活用することで学力は高められると期待することができます。
挿し絵などの補助資料
教科書などに挿入されているイラストや図式にはどのような効果があると考えられているのでしょうか。
本書によると、どう表現されているか、リアルかどうかについてはあまり重要性はなく、目的が明確で学習者にとってそれが重要だと感じることができるかどうかの方が効果に影響するそうです。
帰納的な指導
学習した内容が他の単元や科目につながるとき、学びはより一層深くなります。個別に学んだことが一般化できるようになると、高度な思考ごできるようになり、学力は高まります。
これは、より多くの知識と深い理解が必要になり、そういった広い視野と考察が合わさることも学習の効果を上げるためには必要なことなのです。
探究的指導
本書に書かれていた探究的な指導の定義をまずはご覧いただきたいと思います。
探究的な学びの魅力は、事象について問いを立て、実験や調査を通して、分析・推論をするところにあり、正解を求めることではなく、自分なりの考えをどう確立するかというところです。こういった指導を行うことで、学力が高まるというよりも、批判的思考スキルが鍛えられるとされています。
問題解決的指導
この指導法についても、本書で紹介されていた定義を載せておきます。
このように深い思考を促す学習の効果は、学力だけでなく「対人関係能力」や認知的な面での発達や社会的な行動に良い影響をもたらすということがわかっているそうです。
学習方法
PBL学習
PBL学習とは、問題に基づく学習(Problem-based learning)としてよく耳にする学習法です。これは、学習者を中心に小集団で進められ、指導者はファシリテーターとしての役割でサポートします。
この学習法は、学習者が直面する問題を解決することが最終的な目標になり、それを解決するために必要な知識を獲得し、どのように解決できるのかを広い視野から考えることができます。そのため、深い知識や理解については高い効果があります。しかし、学習者中心になるために、浅い知識の獲得に対しては若干の負の効果があると示されています。その背景としては、情報の選択に偏りがあることで、必要な知識にアクセスできない可能性があるというのが考えられます。そのため、浅い知識に関しては直接教授法が効果的かもしれません。
この学習法では、知識に対する効果が少し低くなるものの、技能の習得については高い効果が期待できるそうです。しかし、身につけた知識を再生することについて、伝統的な指導に比べて再生が容易であることもわかっています。それは問題解決と知識が関連づけられているからで、偏りすぎないある程度の体系的な知識が重要ではあるものの、関心のあるテーマについてのトピックとして学習者自身によって体系化された知識も重要だということが分かります。そういった知識は高次な思考につながったり、知識の応用や概念理解には高い効果が示されています。
学習形態(協同・競争・個別)の比較
学習形態によって学力への効果はどのように異なるのかを分析された結果が示されていました。そこには、効果が高いのが「協同的な学習」で、効果が低いのは「個別的な学習」です。
学力に関して言えば、競争的な学習も一定の効果が認められるそうです。しかし、協同的な学習には学力以外の要素として、関心や問題解決能力を高めることが期待できたり、深い理解や知識への橋渡し、人間関係や自尊心にも良い影響があるとされていました。
特に協同的な学習と競争的な学習を比較した場合に、「言語的問題、非言語的問題、良定義問題、不良定義問題」において、協同的な学習の方が効果があると書かれています。さらに、自分とは異なる境遇で育った人々に対する理解も促進されるとしています。協同的な学習は、年齢が上がるほど効果があると考えられており、また役割や報酬が明確であるとより効果的になることがわかっています。
シミュレーション
本書内でのシミュレーションの定義として、「物理的・社会的な現実を単純化してモデル化したものや描写したものを用いることで、一連の規則や制約を受けながら学習者が一定の成果を上げるために競合するようにする指導方法の一形態」とされています。
この学習方法は、講義だけの授業よりは効果が高いものの、深い知識や理解につながるかという観点においてはあまり効果はないとされています。ただ、学習態度への影響は大いにあると考えられており、学習への動機づけには向いているのかもしれません。
学校外での遠隔教育
学校に通うのか、通信技術を使って遠隔で学ぶのかについて、学力の達成度における違いはあまりないようです。これは学習者の満足度にもあまり違いは見られず、学習の動機などが確立されているとそこまで結果には変化が出ないのかもしれません。しかし、社会性といった面では、仮に遠隔で個別的な学習しかしていない場合は、学力面以外での課題はあるかもしれません。
テクノロジーの利用
コンピュータを使用したウェブ上での学習や学校外での教育に関して、実際に教室で行われる指導との違いはどれぐらいあるのでしょうか。ここでは、長年の多くの研究をいろんなテクノロジーの種類に分けて行われて研究結果がまとめられています。結論として書かれていたことで、私が学んだのは、学習者が学習に対しての重要度や学ぶ目的が理解できていれば大きなさは生まれないということです。これは、補助的な資料と同様で、環境にこだわる前にまずは学習者自身の状況をよく把握する必要があるということです。
補完的な役割
コンピュータによる学習は、フィードバックの即時性と反復練習による成長が視覚的にわかりやすい点にあります。確かに、一般的なゲームは自分が進められた分だけ、報酬が用意されていて、自身の達成度がわかりやすくなっています。
作文には効果あり
作文について、特に文章を書くことが苦手な学習者において効果があると示されていました。コンピュータで文章を打ち込むことで、書く文章が増やすことができ、見直しをして修正することもできるので、記述の質が向上することがわかっています。
こういったエビデンスを知ると、手書きとコンピュータを使った作文のどちらが良いかという判断をするのではなく、それぞれのメリットを活かしながら進めることができます。
ウェブでの情報検索と辞典の引き方
現在は、ウェブであらゆる情報を手にすることができます。その利便性がある一方で、情報の信憑性という部分では注意をする必要があります。検索の方法も含めて、そういったリテラシーを身につけておくことは、その後の人生においても重要です。
これに対して、辞書を引いたりする方法はどれぐらい重要性があるのでしょうか。本書では、辞書の引き方を覚えることが、検索の精度を上げたり、情報を吟味・統合する力をつけることに比べて重要だと考えることはできないとしています。確かに、辞書の引き方を知っておくことは必要かもしれませんが、それにこだわる必要はないかと思います。こういった意味で、現実世界の文脈の中で学習方法を考えることは重要だということがわかります。
宿題の効果について
探究的なものよりも容易に取り組めるものを
宿題は激しい論争の的となっている領域であり、宿題に関する議論はいろんなところで行われています。実際に研究レベルでは、どのような結果が示されているのでしょうか。
まず、保護者は宿題をどのように捉えているのかについて、保護者は宿題の内容よりも、その有無について学校の評価と直結させるそうです。どのような内容があるのかよりも、有無や量に目がいく傾向があるようです。
また、宿題の効果は校種が上がるほど上がり、理科・社会が最も高くなると考えられています。さらに、宿題に時間をかけすぎると効果は低くなり、その内容はタスク志向のものが効果があるとされています。これは、認知負荷がある程度かかる課題よりも、浅い知識としての反復練習による定着の方が一人で短時間で集中して取り組めるからだと考えることができます。
宿題のネガティブな効果
宿題が課されることで、それをこなすことよりも、宿題によって動機づけが低くなってしまったり、長時間にわたって宿題に拘束されるような状態は避けるべきだと考えられています。
宿題についても、教師に見守られているという感覚を学習者が持つことは重要だと考えられています。特に小学生では、宿題によって学習に対する余計なネガティブな印象を持たせてしまうことがあります。小学生の場合、学習の管理という認識はまだ薄いので、あまり効果がなく、むしろ高校生の宿題の効果は高いと考えられています。
最後に、小学生に対して宿題の効果が低い理由について述べられている部分があったので、引用しておきます。
まとめ
教授法やコンテンツはあくまで手段であり、学習目標や到達基準を明確にしつつ、学習者の理解状況を把握しながら進めることが効果的だとされています。また、単元内容を最後にまとめることも効果的だとされていました。
その際に、直接教授法や相互教授法、問題解決法などの手法を用いつつ、説明を聞く、それをまとめる、課題に取り組む計画、反復のドリル学習などを進めることで効果が高まると書かれていました。
いろいろな教授法を用いることで、学習者が内容に集中できたり、ポイントが明確になったりして、学習とより向き合いやすくなるというメリットがあります。あらゆる方法の特徴を教師が理解し、あらゆるコンテンツを用いながら学習環境を整えることで効果が高まるということがわかりました。
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