「日本語A:文学」基本情報⑨個人口述[228]
今回はIBDP日本語Aの内部試験「個人口述(IO)」についてまとめておきます。個人口述(IO)については、以前記事に書かせていただいたことがあります。
とてもありがたいことに、上記の記事を読んで、短期でのIBDPの個人口述サポートを申し込んでくださった方もおられました。自分で対策を進めるのが難しいと感じておられる方に少しでも役立てばと思います。また、解説動画も作成しましたので、復習用などにご活用ください。
「個人口述(IO)」とは?
この試験の問いは「自分で選んだグローバルな問題が、学習した2つの作品の内容と形式を通してどのように表現されているか分析しなさい。」です。この試験では、学習した作品を2つ使います。そして、その2つの異なる作品からの2つの抜粋を使います。うち1つは学習している言語で書かれた作品、もう1つは翻訳作品でなければなりません。
それぞれの作品から、グローバルな問題の存在を表す40行以内の抜粋を選択し、最大10点まで要点を箇条書きしたアウトラインを作成し、それを元に10分の発表と5分の質疑応答(SSSTは15分発表)の口述を行います。
個人口述に持ち込めるもの
この試験では抜粋とアウトラインを持ち込むことができます。
作品と抜粋の選択について
選択した作品は、グローバルな問題に触れられるものでなければなりません。そして、個人口述に用いる作品は、他の評価課題で使用することはできません。抜粋は40行以内とし、注釈や書き込みなどのないものでないといけません。
アウトライン
口述の際に、最大10点までの要点をまとめたアウトラインを持ち込むことができます。これによって論点を外さないようにして口述を進めることができます。
「グローバルな問題」とは?
「広範な規模で重要性をもつ、国境をこえて存在する、地域の日々の生活に影響を及ぼす」ものとされています。これまでにサポートをさせていただいた生徒たちは、作品同士のつながりを見つけ出し、そこから見えてくるグローバルな問題について言及するという形で進めてきました。
このグローバルな問題というのは、決して決められたテーマから選択しなければならない訳ではありません。「5つの探究分野」を参考にして、学習者自身がテーマを設定することができます。それでは、参考までにIBが示す「5つの探究分野」について見ていきましょう。
5つの探究分野とSDGs
◯文化、アイデンティティー、コミュニティー
◯信念、価値観、教育
◯政治、権力、正義
◯芸術、創造性、想像力
◯科学、テクノロジー、環境
◯SDGs
どんな準備をすれば良いのか
個人口述(IO)では、グローバルな問題に関して言及することと、そのテーマとそれぞれの作品の関連が求められます。この試験では、作品同士の関連は求められていません。あくまで、グローバルな問題とそれぞれの作品の関連についての分析が求められます。そのため、日本語Aの学習が始まる段階で、この試験のテーマや必要な条件について確認しておく必要があります。もし、SSSTの場合は自分で作品選択をしなければいけないので、グローバルなテーマでの探究が必要だということを念頭に置いておくことも重要です。
また、学習が始まった後も作品に関するテーマやつながりを学習者ポートフォリオに残しておくことで、試験問題2(Paper2)やHL小論文に使用する作品ともバランスが取れることが期待できます。こちらも他の評価と同様で、試験問題2(Paper2)とHL小論文で使用する作品を使うことはできません。
他の試験の基本情報にも載せていますが、評価規準については必ず確認しておくべきです。どういった観点で評価が出されるかを明確にしておくことで、試験準備に取り組みやすくなります。
評価基準(合計40点)
規準A:知識、理解、解釈(10点)
ここでは、「抜粋部分およびその出典である作品やテクストについての知識と理解をどの程度示しているか。 抜粋部分および作品やテクストについての知識と理解をどの程度使用して、グローバルな問題に関する結論を引き出しているか。 抜粋部分および作品やテクストを参照し、どの程度考えを裏づけているか。 」について評価されます。
◯高得点を取るためには
グローバルな問題に関して、抜粋部分および作品やテクストについて説得力のある知識と理解を示さなくてはなりません。また、抜粋部分および作品やテクストの参照が巧みに選択されていて、生徒の考えを効果的に裏づけていることで高得点を得ることができます。
規準B:分析と評価(10点)
ここでは、「グローバルな問題を提示するうえで作者がとった選択について、抜粋部分とその出 典である作品やテクストについての自分の知識および理解をどの程度使用し、分析 および評価を行っているか。」について評価されます。
◯高得点を取るためには
抜粋部分とテクストの分析や評価に関連性があることを洞察力をもって示さなくてはいけません。また、作者のとった選択がグローバルな問題を示す上でのどのように使われているのかを理解していることを示す必要があります。
規準C:焦点と構成(10点)
ここでは、「口述はどの程度構成が考慮され、バランスがとれ、また焦点を絞れているか。考えをどの程度一貫性のある方法で結びつけているか。 」について評価されます。
◯高得点を取るためには
口述の内容が焦点を絞ったものとなっており、抜粋部分や作品やテクストの取り上げ方にバランスが取れていることが必要です。また、考えを発展させる過程が論理的かつ説得力がないといけません。
規準D:言語(10点)
ここでは、「言葉遣いはどの程度明確で、多様で、正確か。言語使用域とスタイルの選択はどの程度適切か(この文脈では、分析に適切な語彙、語調、構文、専門用語などの要素を生徒が使用することを『言語使用域』と呼びます)」について評価されます。
◯高得点を取るためには
言葉遣いが明確で正確かつ幅広いことが必要です。また、時おり誤りがあるものの、コミュニケーションに支障が出ない程度であることも求められます。言語使用域や語調、修辞的な技法などが適切かつ効果的あることが求められています。
口述の構成
最初に全般的なグローバルな問題について紹介し、どのような展開にするのかを明確にすると、発表者も採点者も内容がクリアになります。2つのテクストからの抜粋は時間や内容のバランスが取れていて、それぞれがグローバルな問題とどのような関わりがあるかを示します。
発表内容のバランスも重要です。抜粋部分におけるグローバルな問題についての言及と、それぞれに対応する作品の中での広い意味でのグローバルな問題についての議論の時間は同じくらいになる方が良いです。ここでいう抜粋とテクスト、作品、作品体系とのつながりは評価規準AとBに大きく影響しております。
最後に、SSSTでない場合は、10分の発表の後に質疑応答があります。そこでは、口述の中ではっきりさせられなかった主張や不十分だった展開について挽回する機会があるかもしれません。ただ、質問者から適切な質問が与えられるかどうかも分からないので、自身の発表を事前にしっかりと準備して備えておくことが必要です。
以上が、個人口述(IO)に関する基本情報になります。これまでサポートさせていただいた生徒は、この個人口述にかなり苦労している印象があります。グローバルな問題を設定し、関連のある作品を選定してから発表内容を考えるまでには、いくつも確認事項があるので大変だと思います。他の科目とのバランスを取りながら、少しずつ準備を進めて自信を持って発表してもらえたらと思います。こちらの情報が少しでも役に立てたら嬉しいです。最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考資料>
・IBO「『日本語A 文学』指導の手引き2021年第1回試験」
・IBO「国際バカロレア(IB)ディプロマプログラム(DP)科目概要」(2022.09.29閲覧)