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授業が成立しない学校で何をしたのか?
(2025.2.24更新)先日、2008年に出版された林壮一氏著『アメリカ下層教育現場』(光文社新書)を読みました。この本を読むにつれ、私自身の教員として経験したことをいろいろと思い出しました。大学を卒業し初めて勤めた高校で、授業を成立させることが難しく、教員という仕事に絶望を感じたり、自分なりに授業を成立させるために試行錯誤を繰り返したことをここに記録しておきたいと思います。
孤独を感じていた新人教員
私が初任校で勤めていた時のことを思い出したきっかけは、この本を読んだこと以外にもありました。私が高校の教員をしていた頃、教職大学院の学生の実習を何度か担当させてもらったことがあります。私が教科及びクラスにおいて2度の実習指導を担当した学生の1人が、現在は公立の中学校で働いていると聞き、昨年(2020年)の末にお互いの現状報告をしました。
その先生が勤める学校では、授業中に教室から出て行ってしまう生徒や教員の話を聞けない生徒が多々いるようで、授業を成立させるのが難しいと感じているということでした。さらに、このことを相談できる相手はなかなか見当たらず孤独を感じていたようです。
私も初めて赴任した高校では、自分がこれまでに受けてきた教育のイメージが一気に崩れ去るような経験をしました。教室から出て行く程ではありませんが、自分たちの話を止められなかったり、授業とは関係ないことをする生徒がいたり、生徒を注意したことによってその生徒と口論になるなど、授業をすることに苦しさを感じる時期もありました。
それからの私は、「授業(あるいは教育)とは一体何のためにあるのか」「勉強が嫌い、勉強なんかしたくないと思っている生徒達に自分ができることは何なのか」についてひたすら考え続け、自分なりに答えを探しながら体当たりしていきました。授業が成立しなかったり、担任しているクラスでも反抗してくる生徒と口論になるなど、いろんな苦しい経験がありました。今思えば、やっと自分の思うような授業展開ができるようになってきたのも5年目ぐらいだったと思います。しかし、その後も授業では反省点や改善点は必ず出てきました。
元実習生であったその先生は、私がこれまでに苦労した経験を知り、自分と同じ経験をしている人が他にもいるということが分かり安心できたのかもしれません。その先生自身の現状はまだ何も変わっていないとしても、2021年の3学期は気持ち新たに頑張ると意気込んでいました。
工業高校で学んだ「ものづくり」で社会を支えるという考え
私が初任者として配属された高校は工業高校でした。その学校を卒業した後は就職して働く生徒が大半で、偏差値としての学力はかなり低い高校(当時で36ぐらい)です。
私は普通科高校の出身であったため、工業高校がどんな学校なのか全く知りませんでした。自分が通った高校とは偏差値も違うので、どんな現場なのか想像すらできない状況でした。高校教諭として勤めながら、これまで経験したことのない学校の就職指導に関わり、企業の方々の話聞かせていただいているうちに、社会を支える「ものづくり」の素晴らしさに気づくことができました。普通科の勉強も大切ですが、実習系の学びは私たちの生活に直接関わり社会を支えるものであり、それらの学びが如何に大切かということを学ぶことができたのは、今でも本当に貴重なことだと思います。
私の印象では、工業高校の生徒というのは、実習系の授業は好きでも教室で座って話を聞く普通科の授業はあまり好きではありません。卒業すると大半は就職するので、進学が多い普通科の受験というモチベーションもありません(そもそも「受験だから勉強」という考え方にも疑問はありますが、、、)。
受験というプレッシャーもない生徒達が、社会科に興味を持ち楽しく学ぶには、自分の授業をするにあたっての力量が大いに試されることになります。
また、知識だけに留まるのではなく卒業後すぐに社会に出る生徒達にとって、どんなことを授業の中で伝えていけば良いのかと考える必要があります。赴任当初の私はそんなこともほとんど理解できないままでした。
「教育」は自分が経験したものだけではない
・先生の話を聞くのは当たり前
・板書をすると生徒は当然ノートに書く
・注意されたら素直に謝る
学生時代は自分が受けてきた教育のイメージしかなく、学校によって違いがあることは理解できませんでした。しかし、いざ現場で授業をしてみると想定していないことがたくさん起こります。恥ずかしながら、私は当初どうして良いのか全く分からなくなりました。クラスによって差はあるものの、いざチャイムが鳴っても、生徒の方はお構いなしと言わんばかりに話を続け、教室の中で私の声は全体に行き渡りません。3年生に至っては2年生から同じクラスで進級するので、4月当初から騒がしく、自己紹介ですらもままならない状態でした。そんな授業を成立させうことが難しいクラスが半数ぐらいありました。
授業が成立しない
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