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自分の考えに「固執」することから生み出される悲劇 - 『アンティゴネ』からの学び470

 IBDP日本語Aのチューターとして文学分析をしており、今回はソポクレスの『アンティゴネ』を読みました。約2500年前に書かれた戯曲(ドラマ)で、小説とは違った臨場感で描かれたこの作品は、現代の私たちにも学ぶべきことがあると感じるところがありました。

 当時は本として読むのではなく、演劇として鑑賞されていました。途中で歌の場面を入れて転換をうまく使いながら話の内容が理解できるように工夫されており、劇の迫力も想像できました。そういった戯曲としての特徴や古代の信仰心の強さなど、現代との価値観の違いや表現の特徴などを中心に授業ではディスカッションをしています。

 ソポクレスは三大悲劇作家の一人で、『オイディプス王』『コロヌスのオイディプス』に続く形で『アンティゴネ』が書かれました。『オイディプス王』では運命に翻弄されるオイディプス王が描かれており、非常に奥が深い内容となっていました。そして、そのオイディプス王の娘であるアンティゴネがこの物語の主人公となっています。この作品から、生徒たちとディスカッションとして設定できそうなテーマを記録しておきたいと思います。少し作品の内容に入り込むところがあるのでご注意ください。

2人の人物から「過度な自信(傲慢)」が生み出す悲劇

 この物語の中心的な人物は、タイトルになっているオイディプス王の娘であるアンティゴネとテーバイの新国王クレオンです。この2人には「傲慢さ(自信過剰)」という共通点がありますが、それぞれが迎える結末は異なります。

 国の反乱者とされるアンティゴネの兄ポリュネイケスの埋葬を国の法律で禁止したため、誰もポリュネイケスを埋葬できなかったのですが、アンティゴネは神の意思である家族の埋葬を人間である国王が禁止することはできない(神の掟か国の法か、道徳かルールか)と主張します。彼女は憎しみではなく愛を共にできることが大切だと考えており、死後の世界では自分が正しかったと認めてもらえると信じています。ここに現世と死後の世界に対する信仰が反映されています。
 さらに彼女は、現世の国王が出した法を犯せば死刑になるということが分かっていても、家族を埋葬するという強い決意を緩めることはありません。結論として、彼女は最終的に死を迎えることを受け入れるのです。

 また、テーバイの国王クレオンは、国王として国の秩序を保つことに苦心しているようです。重い責任を感じながら、「強くあらなければならない」という気持ちをもっており、周りの人たちを見下しかだちなところがあります。ひょっとしたら、人間は強い権力を持つと自分が特別なものだと考えてしまったり、無意識のうちに自信過剰に陥っていくのかもしれません。また、お金に関して言及しているところがあり、お金が人をダメにするという考えを当時はあったのかもしれません。かくして、他人の意見を聞き入れることができなくなってしまったクレオンは、悲しい結末を迎えることになります。

間違いをすることではなく、間違いを認めないことが愚かである

 本文を読み進めながら、現代を生きる私たちにも教訓として得られるものがありました。それは、自分の考えに固執しすぎて傲慢になってしまったら、他の人を巻き込む形で不幸が訪れるということです。アンティゴネもクレオンも2人の傲慢な姿勢がそれぞれの不幸をもたらすことになります。

 アンティゴネのように自らの信条を貫き天命を全うするという考えも1つの正義だと思います。しかし、自分だけではなく家族を巻き込む形になってもそれは同じく正しいと言えるのでしょうか。また、統治者としての重い責任を背負いながらも、他の人の意見に耳を傾けることができるかどうか(これは心理的安全性に関する書籍では最重要項目の1つとされていました)で、不幸を避けることができるのであれば、私たちはそこから学ぶことができると思います。

 今回は預言者が大切な役割を担っており、またクレオンも神の意志で自分が傲慢になってしまったと言っています。このように絶対的なものからの啓示によって人々が導かれることが前提の社会というところも、物事を捉える視野を広げるのにとても良い機会だと思いました。

 このように文学を通して、かなり古い時代に書かれた作品であっても、時代を超えて学ぶべきことがあると生徒たちに知ってほしいと思います。文学分析のアプローチの1つとして、時代や場所が変わるとどのようにテクストの伝わり方が変化するのか、戯曲という形式で作品が描かれることでフィクションやノンフィクションとどのような違いがあるのかなどについても議論していきたいと思います。さらに、これから社会に出ていく生徒たちと一緒に「善く生きる」とはどういうことなのかを一緒に考えてみたいと思います。

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