人知れず悩む「足の疾患」
note記事3回目を執筆いたします。
横浜市神奈川区の整形外科【吉野整形外科】院長の吉野匠です。
私は整形外科医であり、特に「足の外科」を専門としています。
足の専門医は、全国でも約1,000人と言われており、とても特化した領域です。
今回は『人知れず悩む方が多い「足の疾患」』にフォーカスしていきたいと思います。
人知れず悩む方が多い「足の疾患」
以前の記事にも記載しましたが、全国に整形外科専門医は約約21,000人いるそうです。
足の専門医が約1,000人であることを考えると、その専門性の高さが良く分かると思います。
足の疾患は、整形外科医というだけでは判断できないことが多くあります。
私たち足の専門医では、必要に応じて意図的に体重をかけた状態(荷重位)でレントゲンを撮ることもありますが、一般の整形外科ではあまり行われません。
「足の疾患」には一般的な撮影では診断がつかないことがあるため、誰からも理解されずに痛い思いをしている患者さんや、ひどいときは本人の精神的な問題では無いかと誤診されて来られる方もおられます。
ところがこのように荷重位での撮影を行うことで、患者さんの足の不調や痛みの原因を診断できることがよくあります。
複数の整形外科クリニックを回って診断がつかなかった患者さんが、当院にこられて、診断がついたことで泣いて喜ばれることは少なくありません。
このように、足の疾患は足の専門医でしか分からないことがあるので、人知れず悩む方が多いのです。
「アーチ構造の破綻」が諸悪の根源!!
足のアーチ構造は、私たちの体重を支え、衝撃を吸収する天然のクッションのような存在です。
足裏を見ると、内側に「土踏まず」と呼ばれる部分があり、「内側縦アーチ」と呼ばれます。
足の外側にも小さな「外側縦アーチ」、足を前方からみて横方向に広がる「横アーチ」も存在しています。
このように、足には縦横にわたるアーチ構造が備わっているのです。
これらのアーチ構造は、歩いたり走ったりする際に地面からの衝撃を吸収し、足や足関節、さらには膝や腰への負担を軽減する重要な役割を担っています。
アーチが崩れると、足のクッション性が失われ、多くの場合、疲れやすさや歩きにくさといった症状が現れます。例えば、外反母趾、扁平足、開張足などの足の障害は、すべてアーチ構造の破綻が原因と言えます。
さらに、足底にタコ(胼胝)ができる原因も、このアーチの潰れにある場合が少なくありません。また、足首や膝の痛み、腰痛や肩こり、ときに頭痛の原因までもが足のアーチ構造の破綻によって生じるケースもあります。
こうした状態を放置すると、日常生活に支障をきたすこともあります。
足が痛いのに「原因不明」
アーチ構造の破綻が「諸悪の根源」であることはお伝えした通りです。
いくつか事例を挙げてみたいと思います
<足首の痛み>
足首が痛くて整形外科に通院し、レントゲンを撮っても問題がなく、整形外科医からも原因不明と言われていた患者さんがおられます。
「荷重位」でのレントゲンを一般的な整形外科では撮らないことで「アーチが低い」という原因が特定できなかった例です。
アーチが低いということは、通常であればクッションになるものが無いわけなので、歩くたびに地面からの衝撃がダイレクトに足首に加わり、結果として痛みに繋がります。
また、足首の中心が内側にずれるため重心が外側に偏り、体重が足関節の中心を通らなくなります。
その結果、本来かかるべきではないところに荷重負荷が加わることで足首の痛みに繋がります。
そして、足首の距骨(きょこつ)という骨が内側に傾くので、関節面が平らでなくなります。
すると体重が乗るたびに関節には内側に滑り落ちる力(剪断力)が加わることとなり、歩くたびに本来ではない動きが足首に強いられます。
それが長年繰り返されることで、軟骨が摩耗して変形性の関節症になり、足首の痛みと腫れが生じてきます。しかし、レントゲンで変形性変化が認められない初期の段階では「異常がない」と診断されてしまうのです。
<内くるぶしの痛み>
アーチが潰れていることで、内くるぶしの後ろ側にある「後脛骨筋腱(こうけいこつきんけん)」が引っ張られます。
すると、くるぶしと後脛骨筋腱がこすられて、結果的に内くるぶしの後方から下方にかけて腫れてくることがあります。
そして後脛骨筋腱が断裂してしまうと、完全な扁平足となってしまいます。これを「後脛骨筋機能不全症」と言います。
こうした患者さんは、早めにアーチを上げるための靴の中敷き(アーチサポート)でアーチを矯正する必要があります。
<足の裏や指がしびれる・痛い、足の裏の骨が当たって痛い>
これらも荷重位でのレントゲンを撮らないと「原因不明」となってしまうことがあります。
原因はアーチの潰れであることが多いです。
アーチの潰れにより、内くるぶしの後ろから足裏に向かう脛骨神経が圧迫され足裏のしびれが生じたり、押し下がってきた骨が足の指に向かう神経を圧迫し指がしびれたりします。
また、足裏の指の付け根の当たりの骨が、地面を蹴り返す際に硬い床と当たり小石を踏んだような痛みが生じることもあります。
<モートン病>
これは横のアーチが潰れることで足の指に痛みやしびれが生じる病気です。特に3・4趾に症状を訴える方が多く、その典型的な症状から診断は容易につくのですが、痛み止めの薬や湿布などの対症療法で過ごされている患者さんが多くいらっしゃいます。実は荷重位のレントゲンを撮り、その原因が「アーチの潰れ」と診断ができれば、治療は薬ではなくアーチサポートが最も有用なのです。
足のアーチをセルフチェックする方法
足を地面に着けた時に、足裏(内側)と地面の間(土踏まず)に手の指を入れる方法があります。
手の指は中指と薬指の2本を使います。
人差し指と中指の2本の方がラクかも知れませんが指の長さが近い中指と薬指の2本にすることを推奨しています。
この2本の指が第二関節まで入れば「アーチ」があると判断できます。
それが入らない人は「アーチが低い」といえます。
ただし、アスリートのような足裏の筋肉の発達している人はアーチが正常でも土踏まずに指が入らないことがあるので気をつけて下さい。
さまざま書いてきましたが今回の記事では「足のアーチ」が重要であることを覚えていただけたらと思います。
また、この記事を読んでくださっている方や、その周囲の方で「足の異常を感じているけど原因が分からない、診断がつかない」という方がいらっしゃれば、ぜひ足の専門医に相談されることをおすすめします。
今回の記事は以上です。
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吉野整形外科
院長 吉野 匠
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