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不器用な僕らの夏の話。
"君が許してくれた、だからもういいの。"
そう言って君は僕の手を離した。さよならも言わず言わせてくれもせず、ナイフを引いた。
勢いよく君の首から血が吹き出す。
夏の空に映えるような綺麗な赤だった。
「……っっ!!!」
大人達に掴まれた腕を振り払って、駆け寄る。止まらない、止まらない…、僕の手なんかじゃ君から溢れる血を止められない。なんで、どうして。考えるな、考えるな…。お願いだから止まってくれ。
「止まれっ、止まれっ…!」
「君、やめなさい。もう彼女は駄目だ。」
「な、んで、どうして…。」
一緒に死のうと言ったのに、どうして君は僕を置いていくんだ。なんで君一人で背負って行ってしまうんだ。あいつを連れていくなら、僕だって喜んでナイフを引いたのに。
君の体温がどこかへ消えてしまわないように強く強く抱き締める。噎せ返るような血の臭いの中、遠くで蝉の鳴き声が聞こえた気がした。
「あ゙あ゙あ゙あ゙……!!!!」
君は何も悪くないのに、だから僕は君の手を取って逃げて、投げ出して。それなのに世界はこんなにも残酷なんだ。優しい主人公もいなければ、愛を知らない僕らが愛されることもなくて。分かっていたのに、どこかで期待してしまっていたのかもしれない。それすらも許されないんだ。
でも、これで君はもう震えて泣かなくてすむのだろうか。温かい所で傷を癒せるだろうか。もしそうなら、それだけは良かったなと笑ってあげられる。
それから僕はまた大人達に掴まれて引き剥がされて。残されたのは、血の匂いと夏の暑さだけだった。
白昼夢のような夏が終わろうとしていた。家族もクラスメイトも変わらない顔で日常を過ごしているというのに、君の席には花が置かれて名簿には空白の欄が一つ。根も葉もない噂だけが独り歩きして僕は人殺しになっているらしいけれど、心底どうでもいいと思った。
もう蝉の鳴き声は聞こえない。君だけがいない季節が来ようとしている。2人で歩いた線路、君の笑顔、あの日の失われていく君と夏の温度。全部もうどこにも無いのに、分かっているのに。ずっと探してしまっているんだ。
ねぇ、君に言いたいことがあるんだ。
そうだ、君に言いたいことがあるんだ。
"君は何も悪くないよ。"