よい子わるい子
舞台中央に子供(よい子)が立っている。
よい「神様って本当にいるのかな、大人の人に聞いてみよう」
よい子、道行く人々に声をかけるマイム。
よい「あの、すみません」
よい「あの、ちょっといいですか」
よい「すいません」
よい子、誰も話を聞いてくれなくて、落胆する。
よい「ダメだ。誰も話を聞いてくれない」
舞台上手からボロボロの服を着た男が現れる。
よい「あの人にも聞いてみよう」
よい「あの、すいません」
ボロ「どうしたんだい、ぼうや」
よい子、話を聞いてくれて嬉しいマイム。
よい「神様って本当にいるの?」
ボロ「うーん。難しい質問だね。2つの意味で」
ボロボロの服を着た人、腕を組んで考える。
ボロ「そうだなぁ。君が神様がいると信じるならば、神様は君の心の中に、ちゃあんといるんじゃないかな」
よい「そっかぁ、ありがとう!」
よい子、舞台下手からはける。
子供(わるい子)が下手からやってくる。
わる「ねぇ、神様なんかいるわけないじゃん」
ボロボロの服の人、動揺する。周囲を見回して誰もいないことを確認してホッとする。
ボロ「どうして君はそう思うんだい?」
わる「当たり前のことだよ!大人のクセにそんなこともわからないの!?」
ボロボロの服を着た人、メガネをクイッと整える。
ボロ「それならば、どうやって人間は誕生したんだろう」
わる「そんなの……」
ボロボロの服を着た人、テンションをあげて一気に畳み掛ける。
ボロ「この地球は!宇宙は!いつ!どのようにして生まれたのか!君が想像してるであろう偶像的な神様はいないかもしれないが!全ての起源をたどった先に顕在化する消失点!それは神様と呼ぶのがふさわしいのではないかね!」
わる「……」
わるい子、黙ってボロボロの服を着た人をにらみながら下手からはける。
下手から、よい子が現れる。
よい「おじさん、どうして人は殺しちゃいけないの?」
ボロ「エグい質問だね。でも君はいい子そうだから答えてあげるよ」
ボロボロの服の人、腕を組んで考える。
ボロ「そうだなぁ、君は、誰か大切に想っている人はいるかな?」
よい「うん、お父さん、お母さん、友達、あと、叱られたりもするけど、学校の先生も大切かな」
ボロボロボロの服を着た人、うんうん、とうなずく。
ボロ「そうか、じゃあ、悲しいことだけど、その大切な人たちが誰かに殺されてしまったら、君はどう思う?」
よい「え?そんなのやだよ」
ボロ「そうだろう。……世の中の全ての人はね、みーんな、誰かにとっての大切な人なんだ。殺されたりしたら嫌だなって思う人が必ずいる。だから、人を殺してはいけないんだ」
よい「そっかぁ……。ありがとう!」
よい子、下手からはける。
下手から、わるい子が現れる。
わる「話は聞かせてもらったぜ」
ボロ「きたな、小僧」
わる「あんたのその理屈だと、住所不定無職のあんたは殺してもいいことになるなあ?」
ボロ「決めつけんじゃねえよ!あえてボロボロのカッコして世間をいつもと違った角度から見ようとしてる新進気鋭の大会社の社長の可能性あんだろが!」
わるい子、ニヤニヤしている。
わる「そうなの?」
ボロ「違うけども!ガチでやってるけども!」
わるい子、ニヤニヤし続ける。
わる「最近、もの忘れが激しくてねぇ、人はなんで殺しちゃあいけないんだっけな?ガチの住所不定無職さん?」
ボロ「くっ!」
ボロボロの服を着た人、悔しがる。そして、何か決意したような表情。周囲に人がいないことを確認する。わるい子はニヤニヤ。
ボロ「いいんだよ」
わる「え?」
ボロ「いいんだよ、人、殺しても」
わるい子、ボロボロの服を着た人のただならぬ雰囲気を感じて、青ざめた表情で後退る。
ボロボロの人、早足でわるい子との間合いを詰めて、首に手をのばす。
暗転
了