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自分の痕跡を残す

僕が写真を撮り始めたのは、2020年のことだ。

写真を撮る、といっても、一眼レフを構えて撮るという意味ではない。スマートフォンで何気ないものを撮るということだ。

だから、僕のストレージの写真は2020年から始まっている。それ以前の過去はストレージには記録されていない。


デジタルではない写真もある程度はあるけれど、どれも生活空間の奥深くに封印されていて、意識にのぼることさえ少ない。

ストレージの写真ですら、改めて見直すことは少ない。けれども、ふとしたときに以前撮った写真を探したりして、見返すこともある。


自分の日常の痕跡を残すということに一切関心が向かなかった。というか、むしろ残したくないとさえ思っていた。

しかし、こうしてストレージに残せるようになると、日常の何気ないものも写真に撮るようになった。


僕にとって東日本大震災とコロナ禍は、日常のはかなさを知るのに十分な体験だった。

組織から離れたことで、自由にSNSを使えるようになったことも大きい。

インターネット上に自分の痕跡を残すことが、どこかで安心につながっていた。

誰のためでもなく、自分のために。自分の痕跡を、残す。


吉村ジョナサン/作家・マルチアーティスト
1984年山形県生まれ。山形大学教育学部、東京福祉大学心理学部を卒業。高校で国語教師を13年間務めた後、不登校専門塾や通信制高校、日本語学校、少年院などで働く。エッセイや詩の執筆、卓上木琴による即興演奏、抽象画、舞踏、など多方面で活躍している。

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吉村ジョナサン(作家)
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