先生なら必ず観ておきたい映画
映画の名は
「今日も明日も負け犬。」
福岡の高校生たちが創った映画です。
監督も脚本も高校生。
出演、撮影、メイク、照明、AD、主題歌、スタッフ全て高校生や同世代の学生。クラウドファンディングで費用を集めたプロジェクト。
教師には色んな意味での学びが得られる映画です。
テーマから学ぶこと
起立性調節障害をご存じですか?
恥ずかしながら僕は「どこかで聞いたことある…」程度でした。
この映画は、ある生徒の起立性調節障害との闘いを描いています。
実話であり、西山監督(高校生)の思い入れと緻密な編集も相まって、闘いの壮絶さが強く伝わります。
映画中に教師が出てくるワンシーンは胸に刺さります。
僕たち教師が起立性調節障害に対して如何に無知であるか、それが生徒をどれだけ苦しめるかが描かれます。
教師の立場を知っているだけになおさら胸に深く刺さります。
これまで無自覚に生徒を追い詰めていなかったか、と怖くなりました。
映画には起立性調節障害と闘う主人公が保健室で出会った生徒も描かれます。
いつも保健室に居る子です。
僕たち教師は日中な大半を教室にいる子と過ごします。
教室にいない子のことを想いはするものの、教室にいる子たちの所へ行きます。
教室にいる子と教師が共にするのと同じだけの時間が、教室にいない子にもある。
僕が若く、新米教師だった頃、必ず保健室に立ち寄ってから教室へ向かうようにしていたこと。
僕はいつの間にかそれをしなくなっていたこと。
映画を観て思い出し、気付きました。
高校生たちの姿に学ぶこと
「今日も明日も負け犬。」は、映画本編に加えて、映画の制作過程を描いたメイキングムービーがあります。
映っているのはまさに探究の姿そのものです。
スタッフはSNSを介してつながり、集結した高校生たち。
雰囲気はまるで部活動。
映画を撮り終えた日の様子、上映会の日の様子は、まるで体育祭や文化祭、卒業式のように感動的です。
でも、部活動と違って顧問はいません。
学校行事や探究の授業と違い、担当教師はいません。
大人の力が必要な事には、自分達で働きかけて支援も得ていますが、大人が用意した大会も枠組みも思惑もレールもなく、自由です。
部活動や学校行事、探究学習などの「教育活動」では辿り着けない次元です。
もしかすると、行事も、部活も、探究学習さえも、大人が敷いたレールで子どもの可能性を奪っているのかもしれない。
昨年度に僕が担任したクラスの生徒にもこの映画のスタッフがいて、この映画の存在を知りました。
三者面談で親御さんから「うちの子がSNSで知り合った人と映画を創ると言って出かけるんですけど、心配です。先生、なんとかしてください。」といった感じのご相談。
知り合った経緯や発起人について確かめ、「信じて見守ってみましょう」ということに。
学校の活動でも、習い事でもない。
SNSで知り合った人と会いに行く。
親として心配な気持ちはわかります。
でも、そうやって集い、学校とは何も関係ないところで、学校以上のものを成し遂げる。
まったく今時の若者は凄い。
こんな子たちを学校と教師はどう支援すれば良いのだろう。
考えさせられます。
なんちゃって国語の勝手な楽しみ
「今日も明日も負け犬。」
なんちゃって国語科の僕には黙っていられない秀逸なタイトルです。
なんと言っても句点「。」が目を引きます。
「明日も負け犬」という表現には、
起立性調節障害と生きる難しさが伝わります。
「昨日まで負け犬で、今日、明日からは違うぞ!」ではない。
簡単にハッピーエンドを迎えない感じ。
それでも、句点で区切りをつける。
「終わらせる」って感じ、小さな意気込み、願い、決意めいたものを感じます。
しかも「犬」の右上の「、」が読点に見えて、句点と読点が揃った感じで見た目がちょっと洒落ている。
でも、これ多分僕の深読みしすぎの解釈です。
2022年の2月末、前任校の卒業式間近の体育館で3年生と先生たちでの上映会をしました。
しかも、トークショー付き。
ゲストは、この映画を撮った西山監督。
そして脚本家の小田さん。
このお2人は他校の生徒さん。
卒業前によく来てくださった。
おかげで脚本家の小田さんと直接話せたのですが、タイトルについて話してみて、ご本人が読点をつけた意図は違うものだとわかりました。
でも、良いんです。
詩も小説も俳句も短歌も、文学は発表した時点で書き手だけのものではなく、読み手のものにもなると僕は考えています。
勝手な解釈をして楽しむのが文学。
ふふふ。
勝手に掘り下げて、下手したら書き手よりも勝手に楽しむ。
なんちゃって国語力です。
灘高校の国語の授業で3年間かけて一つの小説『銀の匙』を読む実践で有名な、あの橋本武先生も『銀の匙』の作者の中勘助さんを相手に同じようなことをされていたような…(橋本武先生は僕のような「なんちゃって国語」ではなく国語科を代表する立派な先生です)。
観る方法
この映画を観られる機会は今の所限られています。
でもきっと近いうちにDVDや配信等が行われると思います。
それだけ多くの人に(特に教師に)広めるべき映画ですし、
西山さんたちもそういう思いで動いていらっしゃるので。
映画オフィシャルサイト等で最新情報は確認してください。