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わたしの庭 / オミコ omico

いつもの外商がうちにやってきて、
新しく仕入れた珍しいものを見せてくれる。

次々と開かれる箱から、
夢を食べてくれるという小さなバクに
私の目は留まった。

バクは明け方、勝手に寝室に入ってきて
夢を食べるので、
それ以外の食糧は
新鮮な水と少しの干草だけでいいという。

しかし私にとって夢は大事な魂の旅であり、
時空を超えた人々との会談の場でもあるので、
食べられてしまっては困る。

それでバクにはたっぷりの水と干草、
それに私が食べようとしたら反応を示した
アイスクリームを存分にやっておくことにした。

冷凍庫にストックされた
さまざまなフレーバーのアイスクリームを見せると、
バクは興奮したように足を踏み鳴らした。

愛猫は初め、バクに怯え、
とても警戒していたが、
相手が温厚で危害を加えてこないと分かると、
気にしないことに決めたようだった。

* * *

本当は、ユニコーンが欲しい。
子どもの頃からの私の夢だ。

あの美しいいきものと一緒に暮らせたら、
どんなに心たのしいだろう。
一緒に庭を散歩したり、
雨の日には遊戯室で寝そべってチェスをしたり。
もう何度繰り返したか分からない、
その夢想をなぞる。

外商の男は柔らかく笑い、

「ユニコーンはちょっと・・・」

と言い淀む。

私が生まれる前からの担当者から代が変わり、
ここ7、8年ほどうちに出入りするようになった外商の男は、
この話を持ち出すと途端に歯切れが悪くなる。いつもはハキハキと話すのに。

私たちはもう何年も、このやりとりを繰り返している。

そんな会話をしている間、
バクはピアノの下に行儀良く座り、
こちらをじっと見ていた。

* * *

翌日の明け方、私が夢の中のいつもの庭で、
200年ほど前に亡くなったという中国の詩人と
果物を食べながら語らっていると、バクがやってきた。
夢に入り込んできたのだ。

「だめよ、私の夢は食べないでって言ったでしょう?」

私が言うと、バクはおずおずと、
私の背後を伺うように見る。

その瞬間、肌がざわめき、
時空がこすり合わさるような気配がした。

振り向くとそこにはユニコーンが佇んでいた。
月光を浴びた体毛と角がきらりと光る。
こちらを真っ直ぐに見つめる、
黒々と濡れた瞳。

ああ。
長い間、繰り返し思い描いてきたユニコーンがそこにいる。
時間が止まり、瞬間の隙間から永遠が見える。
なんて美しいんだろう。
胸が高鳴る。

ユニコーンは美しいだけでなく、
とても賢そうだ。
愛猫もすぐに懐くだろう。

吸い寄せられるように、
夢見心地で手を伸ばしかけ、
しかし慌てて引っ込めた。

ユニコーンの背後に、影みたいに、
醜いモンスターが張り付いていたのだ。

かすかに嫌な匂いが漂ってくる。
外商の男の曇った表情が思い出された。

困ったな。
そう思ってバクの方を見ると、
バクは口は開かずに、でも言葉を伝えてきた。

(どちらか一方だけは、取れないんです)
ザザザ・・・という耳障りなノイズの奥から、
バクの言葉はそう聞こえた。
よく見ると、ユニコーンとモンスターは
双頭の双子なのだ。

清らかなユニコーンと
目を背けたくなるほど醜いモンスター。

烈しいコントラストから目が離せなくなり、
私はその場から動けなくなる。
声を出そうにも、
息を短く吐き出すのが精一杯だった。

バクは見越したように言葉を続ける。
(大丈夫。あなたはどちらをも飲み下して、消化できます。昇華できます。なぜならあなたは巫女であり、)

そこまで聞こえたところで
私はなんとか金切り声を絞り出して
金縛りを解くと、
猛然とユニコーンに向かっていった。
モンスターもろとも、一思いに飲み込むために。

普段おとなしい愛猫の鳴き声が聞こえた気がした。
外商の男がこの光景を見たらどんな顔をするだろう。
バクはやはりこちらを見ていた。
そのまるで人間みたいな目。

名も知らぬ果物の香りと
モンスターが放つ嫌な匂いが混じり合う。
その香りは辺りに薄く、しかし執拗に、
しばらく残っていた。
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オミコさん
インスパイアされて生まれた物語。

画はマックス・クリンガー『間奏曲』:愛、死、彼岸 

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