妻がサッと作ってくれるおつまみが好きという話。
──表題の通りだ。
私は妻の作ってくれるおつまみが好きだ。
大好きだ。
正直、乾き物ならあたりめが好きなのでそれまではおつまみといえばあたりめ、もしくはチータラ、う~んカルパス? ぐらいのノリの貧しい酒肴生活を過ごしていた自覚があるので、妻がサッと作ってくれるおつまみで一気に酒肴生活が豊かになったと断言できる。
凄いんだ…………。
妻自身は別になんて事はしていない、みたいな顔でチャチャッと用意してくれるのだけれど、私にとってはまるで魔法。マジック。
落ち着いて術理を紐解けば模倣は決して難しくないはず……なのではあるが、私はご存知の通りものぐさな性格もあって、そこまで繊細な事をサッとしない。できない。
やはり魔法。マジック。
妻は常々「美味しいものを食べるのに手間を惜しまないのだ」と言っているが、つまりはその原動力がゲームでいうMP的なやつなのかも知れない。ゲームでもリアルでも脳筋思考な夫としては頭が下がる思いである。
今回はそんな妻の魔法をいくつか紹介しよう。
◆チーズを味海苔に挟むやつ
まぁ待て。
「なんだカンタンじゃないか」って思うだろう? そうなんだ。正直、前述の通り術理を理解すれば模倣は決して難しくないはず……の部類だ。
じゃあなんでそれに感動して魔法呼ばわりしてるのかって。
そりゃあ、あれだ……きみ……私がそんな事すらするのを面倒臭がるからだよ……。
あとご飯やおにぎりに使うから味海苔は常備しているし私。
◆枝豆をオリーブオイルとガーリックで炒めたやつ
これは凄いんだ本当に。
思い起こすこと二年前、交際初年度。
花火が見られる部屋なのを良い事に、二人で近所のスーパーでアメリカンドッグとか、トウモロコシとか、砂肝とか、そういう屋台っぽいご飯を作って部屋から花火を観ようぜ~、という事にした。
そこに枝豆もあった。
因みに私が本当に面倒くさがりなので、既に殻から出してくれているやつね。
で、花火を見ながらの屋台ゴッコご飯も終盤になると、互いに酒も進み、そろそろ枝豆にも飽きが来たかな~? みたいな頃合いで妻──当時は彼女だったんだが──がサッと厨房に立って用意してくれたのがこの枝豆をオリーブオイルとガーリックで炒めたやつだった。
いきなりこれやってくるの凄いよ。
原始人が火を得たくらいの衝撃だったと思う。
だから魔法だと思った。
葬送のフリーレン的に表記するならば「無限に枝豆が進む魔法」だった。
◆カマボコに大葉と梅肉を挟んだやつ
これ超好き。
初めて作って貰ったのは去年のお正月だったか、二人で紅白歌合戦を観ながらビギディンビギディンバーンバーンバーン♪ していたら、出てきた。
魔法だと思った。
葬送のフリーレン的に表記するならば「無限に酒が進む魔法」だった。
あと想像して貰えばわかるだろうけれど、彩りが良いんだ。ピンクと白のカマボコに切れ目を入れて、そこに梅肉を包んだ大葉を挟む、と。
これに関しては梅干しの種を取って梅肉にして、という工程を挟むから、「サッと出すおつまみ」という意味ではやや手間のかかる部類のような気がするんだけれど、それでも妻は割とサッと出してきた。マジック。
もともと練り物、カマボコは好きだけれど、そう頻繁に食べる事はないし……お好み焼きに竹輪を入れたり、あとはおでんでくらい? お正月の食卓にはよくあるカマボコがそのまま超美味しい酒肴に化けるんだからホラやっぱり魔法だよこんなの。
これは今年のお正月にウチの実家でも作って貰った。
実家でも大好評を博した一品です。
◆玉子焼き
起源にして、頂点。
あ、ヘッダーの玉子焼きは私が焼いたやつだ。
最初に妻──当時は彼女だったんだが──の作った玉子焼きはお弁当に入れた余りを冷蔵していたものだったんだけれど、それを食べた時の第一声が「け、結婚してくれ」だった。
この逸話は何回でも書くから今後何回でも聞かされると思う。
私は人生に於いてこれほど美味い玉子焼きを食べた事がなかった。
因みにたまにチューブの明太子なんかを巻いてくれる時もあるけれど、これも美味い。
私もこの4年ほどか、毎朝作るお弁当に玉子焼きを焼いていて。
これで恥ずかしながら「まぁ、毎日作っているものだし、私の作る玉子焼きだってそれなりに美味しいはずだろうフフフ……」なんて思っていた矢先にこれだったよ。
粉々に打ち砕かれたよね。
でも実力差があり過ぎて畏敬の念を抱いたよね。
リトルリーグで自信をつけはじめていた少年がメジャーリーガーの実力を見せつけられたくらいの衝撃があった。いや、野球の事はさっぱり分からないので、これは大袈裟な比喩だと読み流して欲しいが。
分量は目で見て確認も取ってラーニングしたつもりで、今もお弁当に入れる時は妻の玉子焼きを再現すべく作っているつもりなんだけれど、それでもやはり全然及ばない。
やはり魔法。マジック。
という訳で今年のお花見の時はたくさん作って貰って、友達にも食べて貰う事にした。
「私は帰ったらまた作って貰えますからァ~????」と言いながら。
(思い返すと死ぬほど面倒くさいやつだな…………)
*
あと妻はホタルイカの目だけでなく背骨も器用に取る。
基本的に丁寧というか、繊細というか、真面目なんだなと。
尊敬すべき美点だと思う。まぁでも疲れてる時くらいはちょっとは私を頼って楽にしていて欲しい。
──ホタルイカの話な。
目くらいは私も気が向いたら極稀に取るか……まぁ……面倒臭いな……くらいの頻度で取る事もなくはなかったけれど、妻は必ず取る。
炊き込みご飯をする時なんかもキチンと取ってくれる。
お陰で私が作る時は見習って取るようになった。
さながら人里の美味しいものを知ってしまった野生動物のように、私は妻の作る料理の真似をする事でオノレの食事の質をチョット上げるようになってきてしまったのだ。
大袈裟な事を、書くとだ。
人と関わって生きるというのは、多かれ少なかれ影響を受けるという事なんだと思う。良い影響だったり、そうでない影響であったり、まぁ、中身の良し悪しはさておき。
そういう訳で妻は私の生き方を、こうして良い方向に変えてくれているんだと思う。それも何の気なしに。それが凄い。ホラやっぱり魔法だ。マジック。
果たして私は妻にどう報いて居られるだろうか。
そんな事を考えながら、日付も変わった頃合いなのでおつまみは控える事としている。
あー。妻の作ってくれる玉子焼き食べたい。