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彼らは自由だと思っていた。

あなたはある大きな衝撃を待っている。その衝撃が来た時に、他の人たちも一緒になって何とか抵抗してくれるだろうと考えている...。

しかし、何万、何十万の人があなた方と一緒になる、たった一つの大きな衝撃的な機会なんてものは決して訪れないのです。 

もし、政権の最初にして最小の行為の直後に、政権の最後にして最悪の行為が行われたとしたら、何千、いや何百万もの人々が十分にショックを受けたでしょう。
 

しかし、もちろん、そんなことは起こらない。その間に、気づけないようなものも含め、何百もの小さなステップがあり、その一つ一つが、次のステップであなたが衝撃を受けないようにするための準備になっているのです...。 

そして、ある日、遅すぎる頃に、あなたの原則全てが、もしあなたがそれを理解したことがあったとして、あなたに押し寄せてくるのです。そして、あなたは、全てが、全てが、変わってしまったことに気づくのです...

今、あなたは憎しみと恐怖の世界に生きている。そして、憎しみと恐怖を抱く人々は、それ自身にさえ気づいていない。皆が変わってしまった時、それは誰も変わってないことになる…

ミルトン・メイヤー『彼らは自由だと思っていた』

1953年、ジャーナリストのミルトン・メイヤーは、フランクフルト大学社会研究所に客員教授として滞在していた。メイヤーは、一般のドイツ人がナチス・ドイツをどう感じていたかを調べるため、ヘッセン州にあるマールブルクという町の住民10人にインタビューをした。

そのインタビューを元にして書かれたのが、"They Thought They Were Free"(『彼らは自由だと思っていた』)だった。

本の中では、町の名前は「クローネンベルク」に変えられ、実名と所在地は明らかにされていない。大学を擁する人口2万人のこの町は戦後の占領期に米国の管轄下にあった。

インタビュー対象者は、10人全員が中流以下の階級に属していた。職業は、パン作り、家具作り、銀行事務、手形回収、警察、営業、学生、仕立て屋、教師などであった。

仕立て屋はシナゴーグに火をつけて服役していたが、他の者はユダヤ人を活発に攻撃していたとは認められなかった。

メイヤーは、インタビュー対象者はナチス時代に良い思い出(fond memories)があり、アドルフ・ヒトラーを悪とは思っておらず、教師を除いて、ナチス支配下で自分たちは高度な個人の自由を持っていたと認識していると書いている。それに加えて、上記教師以外は、ユダヤ人をまだ嫌悪していた。

この書物を巡っては、インタビューの方法論から解釈まで様々な議論がいまだに続いているが、ここでその議論に参加するのが目的ではない。

ここに取り上げた理由は、この作品が小説でも詩でもなく、ノンフィクションであるということ。そこには、普通の人々の生の声が記録されていることに価値があると思ったからだ。

ここに現れるナチ政権下の普通の人々は、彼らは自分たちの自由が侵害されているとは思っていなかったが、それは暴力で脅されて、そう思わされたわけではない。

戦時下の日本の普通の人々はどうだったのか?丸山眞男や鶴見俊輔はそこに切り込む。そして、彼らを圧倒的に嫌悪する者が現れる。日本の民衆全てが暴力の恐怖に脅されて嫌々戦争に協力させられたというのは、美談過ぎないだろうか。

暴力という恐怖が存在したことは否定しない。しかし、それだけでは説明つかないものが必ず残る。逆から言えば、全体主義は暴力だけでは完成しない。

メイヤーの言う数百のステップの何段目にいるのかを今、自由だと思っている我々も考えてみても良いのではないだろうか?

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[原文]
You wait for one great shocking occasion, thinking that others, when such a shock comes, will join with you in resisting somehow… 

But the one great shocking occasion, when tens or hundreds or thousands will join with you, never comes. . .

If the last and worst act of the whole regime had come immediately after the first and smallest, thousands, yes, millions would have been sufficiently shocked … 

But of course this isn’t the way it happens. In between comes all the hundreds of little steps, some of them imperceptible, each of them preparing you not to be shocked by the next… 

And one day, too late, your principles, if you were ever sensible of them, all rush in upon you. .  . and you see that everything – everything – has changed…

Now you live in a world of hate and fear, and the people who hate and fear do not even know it themselves; when everyone is transformed, no one is transformed…
Milton Mayer, They Thought They Were Free, 1955.

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【参考】下のライブでは、こういう話もします。



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