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⑥長濱陸の証言。堤が心を折ることはない。 比嘉大吾VS堤聖也。対戦まであと2日。




東洋太平洋ウェルター級王者・長濱陸にとって比嘉大吾は、かつて所属していた白井・具志堅ジム時代の、堤聖也はその後移籍した角海老宝石ジムでの後輩にあたる。

長濱はジムを移った後も週に2度、野木トレを継続してきた。現在進行形で、2人と練習をともにしている唯一の人物だ。


試合が決まった日、堤はまず、自分たちのどちらも可愛がってくれているこの先輩に報告した。


「大吾と決まりました」


……。


間が開いて、長濱は


「何言ってるの?」


と言った。


堤によれば、「そのあと2ラウンドぐらい」

「……嘘だろ?」 

「嘘だ」

「いや嘘だね」

「おい!全然面白くねぇよ、その冗談」

と、嘘だ、を繰り返した。その声にはとまどいと軽い怒気が混じっていたという。受け入れ拒否を続けたその先輩は、

マジか……。

とうとう観念すると、お前らすげえな、すげぇよ……と放心したように呟いた。

「……俺、中立でいくから……どっちにも関与しない。できねぇから」


ボクシングIQの高さに定評がある。長濱が自身のYouTubeチャンネルで発信しているボクサーの戦力分析や試合の解説は的確にして奥深い。簡潔でありながら言葉のセンス、表現力が豊かで理解しやすく説得力もある。知的なこの東洋王者が、かなりの人情派でもあることをこのたび知った。

どちらも好きな後輩なんです。

「だから仲のいい二人が戦うのも、どちらかが負けるのも観たくない。優劣をつけて欲しくないんですよね……」

その人に、彼らについて聞かせて欲しい、だが心情的に難しければ断って頂いて構わないと伝えると、「決まった以上は注目して貰いたい。試合、盛り上げましょう」と快諾してくれた。ただし戦略に関わる内容、試合予想はなし、で。



「堤は、あの大吾をもってしても決して簡単な相手ではない、と思っています」

まだあまり認知されていないが、堤聖也はかなりの実力の持ち主なのだと言う。


ーープロでの経験値、という点でいえば、試合の数も戦ってきた相手のレベルも、大吾と堤ではお話にならない。普通の選手なら、その経験の差でだけでも圧倒されて、あっさりやられてしまうかもしれない。でも堤にはその経験の少なさは不安要素にならないと思うんです。

今年一月、山中慎介の名を冠した「GOD’S LEFT バンタム級トーナメント」の決勝戦の話になった。堤の勝ちと見る向きも少なくなかったが、無敗のハードパンチャー・中嶋一輝(大橋)と引き分け、トーナメントルールにより敗者扱いになった一戦。

「中嶋選手はリーチもあって技術も高い。何よりバンタムではトップレベルのパンチ力の持ち主なんです」

「かすっただけで、これ貰ったらその場で終わる、と危機を覚えた中嶋の殺傷力」については堤からも聞いていた。

「その一瞬でも気を抜けば終わりという危険な相手に対して、堤はまったく臆することなく自分の意志と、プランを遂行し続けた。

味わったことのない強烈なパンチやスピードに直面したとき、ボクサーは動揺してミスを犯したり、臆したりしがちで、経験が必要だというのはそこなんです。

でも、中嶋戦での堤の冷静さ、メンタルの強さを思うと、未知のものに直面しても堤が動揺するということはないと思う。

しかも、あれだけの緊迫感の中では相当な集中力が必要になる。それを8ラウンド、集中し続けた。あの精神力は見事。胆も座っている」


堤のボクシングスタイルの特徴としてまず先に挙げられるのが、相手の攻撃を潰し、相手をとにかく嫌がらせる技術。そしてオーソドックスでもサウスポーでも戦え、アウトボクシングもファイトもできるオールマイティさ。

「堤は自分をよく知っていて、決して相手の土俵で戦わない。常に相手と自分を俯瞰で捉え、今何が起きているかを把握し、相手が何を嫌がっているか瞬時に判断してそこに注力する。これには相当な冷静さと調整力、相手が何をしてきても合わせられる対応力が必要なんですが、それが堤にはある。まだ発展途上な部分があるけれど、臨機応変さに磨きがかかれば、さらに相手にとって嫌な敵になると思います。

パンチ力ですか? 強く打つべき場面とそれ以外の場面の切り替えもうまいので、見た目にそういうイメージはないかもしれないですけど、あります。ありますね」

「中嶋戦では、明確にポイントを取る、という課題が見えましたが、そこは当然対策もし、改善してきているでしょう。対大吾では不利を承知していると思うし、はっきりポイントを奪いにいかないと、ということは頭にあると思います」



もともと練習への向き合い方は半端ないものがあるが、今回試合が決まってからの堤の追い込み方の「気迫が違う」。

「勝って業界を驚かしますよ」

発言にも絶対に勝つという強い意志しか感じない。

相当な充実度。

だから、


どんな苦しい局面に陥ったとしても、堤が心を折ることは考えにくい、と長濱は言った。




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