ハックルさん原作のマンガ作品「妹のジンテーゼ」のざっくり感想
ハックルさんの作品は必ずあとがきから読もう。作者が何をしたかったのかがわからないと読み進めるのが難しいからだ。
コミック担当の紺野比奈子先生がとても良いマンガを描く人だったことには同意。2015年に亡くなられたそうです…残念。お元気だったらどんどん良い作品を世に生み出してくれていたはずなのですが……
というわけでこの作品がどういう作品かわかりましたか?
この作品は「ジンテーゼ」という概念をわかりやすく描いた作品・・・ではなく、主人公のJKが「概念」を使って考えることに悪戦苦闘し続ける姿を描いたギャグマンガを志向した作品です。
なお、あとがきには全く説明がありませんが途中からは「クイズ」に挑戦する展開になるので一言でいうとクイズマンガに分類される作品です。
「もしドラ」ではドラッカーの本が魔術書に思えるほど何もかもが上手くいきすぎて気持ち悪かったが、この作品は、概念の重要性を示しつつ主人公が失敗しまくる姿がコミカルに描かれるので見ていて楽しいし、読みながら読者が考えるような仕組みになっています。
個人的にはかなり好きな作品だったりします。
ちなみにこの作品は、主人公の姿は面白いのにハックルさんの分身である「お兄さん」の説明が冗長すぎてテンポはめちゃくちゃ悪い
この作品、ハックルさんが言う通り、マンガ家さん側のスキルはかなり高いと思う。
ただ、ハックルさんの「話のgdgdぶり」を中和しきることはできていない。これはもう100%ハックルさんが悪いといってよい。
マンガ家さん側は最大限の努力をしたと思う。
どのくらいgdgdかというと、1話の試し読みがあると良いのだろうが、残念ながらないので下の記事を読んでもらいたい。内容は読まなくてよい。1話の中でお兄さんがしゃべってる割合がどのくらいかだけつかんでほしい。
本作品は冒頭で主人公で妹が登場して5ページほど行動したと思ったらいきなり兄と妹の問答が始まり13ページも延々とお兄さんがしゃべり散らかすのだ。
もちろんこのうんちく語りたがりのお兄さんはハックルさんの分身である。
つかみが大事な第一話でいきなり話のテンポを殺してハックルさんの分身が13ページもしゃべりだす話は、めちゃくちゃキツイと思わないだろうか。
しかも13ページもかけて語られる内容が、冒頭で描かれた5ページと関係ないのである。「何がしたいんだこの漫画は?」となること請け合いである。
実際は、このお兄さんの話は単体で見れば面白くないこともないし、この漫画を通して語られるテーマは結構好きなのだが、マンガの中ではこのお兄さんの話はただただテンポを殺すだけの邪魔な存在になっている。
この作品が、ハックルさんのあとがきのように「JKが失敗しながら概念を使って問題を解決するすべを学んでいく」コンセプトを貫けたらきっと面白かっただろう
しかし、実際はハックルさんが過保護すぎて作中に兄として登場し、毎回毎回ページの半分を持って行ってしまうし、失敗を先回りしてだいたいの問題を解決してしまう。その結果、お兄さんの語り以外のボリュームが絶対的に少なくなるし、お話も単調になってしまう。
また、妹自身も一人で考えていることが多いからなおさら話に動きがない。
こうしたこともあって序盤はとにかく話が盛り上がらなかった。マンガ作品として1巻はかなり失敗していると思う。
ハックルさんの尺の取り方は昔のTVに特化している
マンガとして考えると、ハックルさんの尺の取り方は明らかに異常である。しかし、彼は小説「エースの系譜」「チャボとなんとか」でも全く同じ構成で作品を作っている。
つまり、彼にとってはこれが自然なのですね。
で、明らかにマンガとしてはありえない尺の取り方をしてるのですが、こういうやり方してるメディアが何かあるかな……と考えてみたらありました。
「TVのバラエティ番組」をマンガで無理やり再現したような感じになってるんですね。
尺の長いVTRを見て、それに対して芸能人がリアクションをとることで進むやつ。あれは、①そもそも自分でページめくらなくても勝手に話が進んでいくテレビであることが前提であり、②しかもながら作業でも見れるくらいの密度が求められており、③動く映像とかBGMとかで雰囲気を明確に切り替えてくれるから見ていてしんどくない、などいろんな要素があるから許されるテンポだと思うのですけどね……
この人はもともとTV番組のプロデューサー的な仕事をされていたはずですが、小説でもマンガでもテレビのノリで作品を作ってしまったのです。
いわれてみれば兄と妹の尺を撮りまくる問答も、池上彰さんの先生と生徒のようなノリを意識したのかもしれません。
というか、作品中で自分自身が「話が盛り上がらない」ことの危険性についてうんちくを語ってるのに……
恋人がデートで見てはいけない話の説明。
ハックルさんの構成は「テレビで流し見」するには良いけど、自分からページをめくって読みたくなるかというと端的に言って怠い。このように、ハックルさんはうんちくを気持ちよく作品で語ったものの、それをマンガ作品に適した構成にするという部分がイマイチなんですよね……。
5話あたりからは普通に面白くなってきます
と、ここまでは本当にクッソつまらない作品なのでダメだししまくってますが、5話あたりからは、うざいお兄さんの存在が後退し、「クイズ研究会」のメンバーがとうじょうしてくることによって
ようやくJK同士のキャッキャうふふと「概念」の話が素直に楽しめるようになってきます。
1話~4話が異常につまらないゆえに、ちゃんと物語の方向性(クイズ大会で勝利する)とうんちく(記憶やゲームに関する知識)がかみ合うだけで、お話ってこんなに面白くなるのか、ということがわかる作品になってくれています。
もしドラと逆の現象ですね。
2巻からは、JKの主人公が、同じJKに対してうんちくを披露するようになり、うんちくがちゃんと物語と絡むので、そういう意味でも面白くなります。相変わらずお兄さんも時々は出てきますが、ちゃんとそのうんちくが物語の目的と合致していることが多く自然に感じられてきます。
そういう意味で、この作品はハックルさんが慣れないマンガ原作に取り組むにあたり、最初はぎこちなかったけど決して自分のやり方に固執することなく短い期間で「マンガらしさ」にキャッチアップして上達していく話として読むことができます。
ハックルさんといえば頑固者で人の話を全く聞かないみたいに見えてる人がいるかもしれませんが、それはtwitterでの振る舞いに限るのかな、と。実際はこういう柔軟なハックルさんもいるんだよということがこの作品を観ればわかります。
ハックルファンとしては必読な作品といってよいと思います。
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