短編「カモメとグミ」
夕暮れ。きゃあきゃあとカモメの鳴き声。どうやら海が近いらしい。
男1「…なあ、カモメって食えんのかなあ」
男2「え?、、ああ。まあ食えるとは思うけど。それは…お前の気持ち次第じゃない?」
男1「あぁ…ね。うん…」
間。きゃあきゃあとカモメの声。
男1「え?どゆこと?」
男2「いや可哀想だろ、カモメは。俺は食えないからさ、カモメは」
男1「え、なんで?」
男2「なんでって。だってカモメだぞ?カモとかニワトリとは訳が違うからな。カモメ食えって言われたら俺泣いちゃうもん」
男1「いや全部鳥だろ。ニワトリは食ってんだからさ、カモメだって別に食えるだろ」
男2「おい!おま!ばか!お前ばか!カモメだぞ!?カモメは可哀想だろ!」
男1「(笑って)なんでそんなにカモメ贔屓なんだよ。分かんねえよ、可哀想で言ったらニワトリだって可哀想だろ」
男2「いやカモメはとくべ…」
男1「シッ!!」
突然黙るふたり。空き缶が転がる音。
男1「…大丈夫だ。アイツらじゃない」
男2「すまん。カモメのことで興奮して…」
男1「ははは。気をつけろよ。俺もう守ってやれないからな?」
男2「おい大丈夫か?腕。…アイツらに噛まれてから1時間くらいだろ?」
男1「大丈夫じゃねえよ。痛えよ。だから、もう行けよ。あとどれくらい時間があるか分かんねえけど、俺といるとお前も危ねえよ」
男2「でも…!」
男1「お願いだからもう行ってくれよ。俺お前のこと食いたくねえよ。お前がカモメ食いたくねえって言うのとは違うからな」
男2「ごめんな。…俺がグミ食いたいって言ったせいで」
男1「(少し笑って)いや俺も食いたかったもん、グミ。お前がグミ食いたいって言ったら思い出しちゃってさ。それまでグミのことなんか忘れてたのにさ」
男2「(涙声で)おれが、、グミなんか、、食いっ、食いたいって言わなきゃな、、!」
男1「泣くなよ。もういいからさ。探しに行こうって言ったのは俺だろ」
男2「(泣きながら)でも…!」
男1「(遮るように)よし!じゃあグミ探しに行くか!」
男2「…え?」
男1「今の俺無敵だからさ!一回噛まれてるから何回噛まれたって同じだ」
男2「お前、、かっこいいな」
男1「ははは。俺も今の俺かっこいいと思うわ。じゃあ、行こうぜ。暗くなる前に動いた方がいい」
男2「あいや。行ってきて?」
男1「え?」
男2「いやほら、危ないからさ」
男1「ん?」
男2「お前無敵だけど俺、ほら、まだだから。まだ噛まれてないからさ。ここは安全そうだし。だから、俺ここで待ってるから行ってきて?」
男1「…」
男2「お前がお前のままでグミ持って帰ってこられたら最高だけど、もしもお前がグミ見つける前にゾンビに変わっちゃっても俺のこと忘れて戻ってこれず俺は助かるし。まあグミ食えないのは残念だけど」
男1「…お前。最低だな」
男2「いってらっしゃい!」
きゃあきゃあとカモメの声。軽快な音楽。
終。