~映画「あん」上映及び原作者・出演者トークイベント~ 参加レポ
10月11日、大分県主催で、映画『あん』の上映、原作者ドリアン助川さん、主演永瀬正敏さんご登壇によるトークイベントが、大分市『iichiko総合文化センター音の泉ホール』で開催。今回、ギリギリ開催を知り、なんとか参加できたので、レポにまとめました。(今回はメモを取りながらの参加)
そして、5年前の作品のためか、思いの外、トーク内容がネタバレ要素をかなり含んでましたので、涙を飲んで
ネタバレがあります。
まだ『あん』未鑑賞の方は、鑑賞後に読まれることを強くオススメいたします。
参加経緯
不意打ちだった。
何気なく聴いていた、朝のFMラジオ番組『Sky Tune OITA』
リスナーからのメッセージの紹介。
「映画などに一緒に行くことがない旦那さんが、応募してくれて行くことになった『あん』の上映、楽しみです」
という内容のメッセージ。その『あん』の上映の詳細に触れるパーソナリティ。原作者、ドリアン助川さんと、主演の永瀬正敏さんが上映後、トークイベントをされるそうです。応募は今日までのこと……
な、なんですと?
危うく聴き逃がすところだった。永瀬正敏さん来県? 夢でも見てるのか?
永瀬正敏さんについて語ると、思い入れが強すぎて、おそらく暴走気味になりそうだが、いかに永瀬兄さんに夢中になっていたか、今回にかける思いの熱さを… 本当、どうでもいいですね。
永瀬正敏さんを強く意識したのは、彼が発表した『CONEY ISLAND JELLYFISH』を聴いて。もっと言うと、ラジオから流れてきた表題曲で撃ち抜かれたのが始まり。
実際このアルバムに出会った時期が
『我が人生最悪の時』だったり
『夢見る頃は過ぎた、まるで地図のない裸のD-N-A』だったり
自分の行き場のない虚無みたいなものを音楽で埋めていた頃。当時、映画には一切興味が無く、ミュージシャン『永瀬正敏』のファンとして、このアルバムを聴き込んでいたのだった。
このアルバムの思い入れの強さから、少しづつ、映画を観始め『濱マイク』シリーズを当時背伸びしながら鑑賞、自分には林海象監督の作品は、難しかったおぼろげな記憶が。
原作者のドリアン助川さんは、『金髪先生』という番組をかなりの頻度で観ていた。もしかしたら、毎週欠かさずチェックしていたのではないかな?
不思議なもので、もうかなり前になるので記憶が定かでない。やはり、これも音楽好きが高じて、アンテナに引っかかった番組だった。どちらも、1990年代の若かりし頃の思い出。
ちなみに、上映作品『あん』は、樹木希林さんがお亡くなりになったタイミングで、初めて観た作品。今回、2回目の鑑賞になる。
ラジオを聴きながら、申込みの告知をネットで検索する。申し込み方法を確認して、PDFファイルに必要事項を打ち込んでメールで申し込み。
もし、ラジオを聴いてなかったらと思うと…… メッセージを取り上げてくれた『Sky Tune OITA』パーソナリティのおふたりに、感謝です!
上映当日
参加決定通知はハガキで届いた。
間に合ったんだと、ホッと一安心。
当日は、ちょっと余裕をみて現着できるように家を出た。会場のiichko総合文化センター 音の泉ホールは、iichikoグランシアターの5階にある。会場に入るとかなり細かく座席を設定していた。申し込みの異なる人と人の間には、必ずひと座席、空席を設け、列も1列づつ空列を作っていた。さすがに、この時期のイベントのため、用意周到に運営されてある。比較的前の5列目1番右端が、自分の指定席だった。
13:00ピッタリに上映は始まり、最初は周りの非常灯の明るさ等、消えない照明類に気が散るかと思われたが、作品に入り込むと気にならなくなる。2回目の鑑賞なのだが、不思議と以前観た時とは違う視点で、作品を観ていることに気づく。1回目は、樹木希林さんがお亡くなりになったタイミングで観たため、樹木希林さんの喪失感に、強く引っ張られながら観ていた。今回は、コロナでの環境の変化や、非常事態宣言での自粛生活を体験しているため、より深く作品の内容に入り込めた気がする。
細かい感想は、トークイベント枠で、かなり突っ込んで内容に触れていたので、改めてトークの部分と合わせて書きたいと思う。
ボロボロに泣いた1時間53分(…だったはず)
上映が終了して、15分の休憩を挟んで、トークイベントが始まる。
トークイベント枠
司会の女性の呼び込みで舞台上に上がる、永瀬正敏さん、ドリアン助川さん。なんと、今回両名の快諾により、写真撮影、SNSの拡散はO.K.とのこと。なんて太っ腹。
いつものホームの、別府ブルーバード劇場とは違い、舞台までに距離があるため、自分のスマホでは、中々良い撮影ができず
「本気でカメラを始めるか?」
とか、ちょっと考えてしまう。
何と!今回の台風14号の影響で、前の便の飛行機だと大分へ来ることが怪しかったそうだ。なんとか、飛行機が飛んでくれたとのことで、もしかしたらトークイベント中止も有り得たのかもしれない。参加者の日頃の行いが余程良かったのか、思いが強かったのか。
司会の方が、おふたりに大分県へ来たことがあるのかを伺うと、永瀬さんは、『湯布院映画祭』への参加経験があり、地元も隣県宮崎のため、帰ってきた感が強いとか。ドリアン助川さんは、大分に来ることがあっても、仕事で日帰りばかりだったため、温泉にゆっくり浸かったことが無いと話す。
隣の永瀬さんから、声にならない
「そ、それは、もったいない…」
という仕草でドリアン助川さんに目を向けていた。
『あん』がどういう経緯でカタチになったのか、司会者の方がドリアン助川さんに伺うと、深夜にやっていたラジオ番組での、若者へのアンケートがキッカケだったと話す。
「人には生きていく価値、理由はあるのか?」
の問いに対して、多くの若者から
「世の中の役に立たなければ、生きていく意味がない」
という回答が圧倒的に多く心にひっかかっていたとの話し。そういえば、土曜日にやたら重いテーマを扱ってニッポン放送で、ラジオ番組担当していたのを思い出した。すっかり忘れていた。
その時に、
「社会に役に立つことが、生きていく価値だ」
という考えは少々乱暴じゃないかと感じ、また、同じ時期にらい予防法の廃止があったので、それに絡めて何か作品にならないかと、勉強を始めたが、すぐに書けないと断念。10枚書いては捨て、10枚書いては捨て、もう書くのを諦めようとした頃、らい予防法が廃止された1996年以降、療養所に入所されている人と、こういう言い方はあまり好きではないが、一般の人との交流をメインに据えることで、作品ができるんじゃないかと気付いてから、カタチになり始めたと、それから出版までにラジオ番組でのアンケートから数えると、17年もの時間がかかったと語るドリアン助川さん。
『あん』の撮影に関して、永瀬さんはどういう取り組みをされたかの質問に移ると、永瀬さんは、この作品の前にハンセン病患者の役を演じる機会があり、その時に色々学んでいたそうだが、河瀨直美監督から
「1度、捨てるとこから始めましょうか」
と、関西弁で言われたそう。ここから、河瀨直美監督の撮影方法の話しになるのだが、これがかなり驚きだった。河瀨監督は嘘が嫌いな監督で、とにかく撮影方法が独特。まず、「よーい、スタート」とか「カット」の掛け声が一切無いとのこと。そして、演じられてる永瀬正敏さんもカメラの位置が分からない。台本はあるが、役の千太郎としての生活の中で、いきなり演技が始まり、それを撮っているのか撮っていないのかさえも分からないらしい。
永瀬さんと樹木さんは、共演時
「今撮ってるのかしら?」
とコソコソ話しながらも演技を続けてたという。
河瀨監督は、『殯の森』で初めて名前を知ったが、扱うテーマが、ドキュメンタリー色の強い印象だった。まさか、原作のある『あん』のような作品にも、こういう撮り方を採用しているとは、とても想像できず、この撮り方ひとつを取っても、オリジナリティ溢れる作品になるのは頷けるエピソードだった。当たり前を疑う姿勢って大事なんだな。ちなみに、原作者のドリアン助川さんも役者として、河瀨直美監督作品に参加したことがあり、その時は、妻役の役者の方と2ヶ月一緒に暮らしたとのこと。映画のためなら妥協がないなと、画のために、映り込む家を壊せと命じた黒澤明監督を思い出してしまった。
撮影前のエピソードとして、ドリアン助川さんが、国立療養所多磨全生園に、樹木希林さんと見学に訪れる予定だった所、手違いで見学前に4時間待つことになり、その間に樹木希林さんと、何故この作品を書いたのかの経緯や、作品への思いを徹底的に話すことができたのが、大きかったと話す。
ここで、大分県にはハンセン病の療養所が無いため、参加した観客の方にドリアン助川さんから、ハンセン病に関しての具体的な説明が始まる。
1943年には特効薬が開発されたこと、それまでは完治することがない病気だったこと、明治時代から今まで、医者で感染した人はいなく、感染力は弱いこと、世界各国では、1950年に隔離が解かれていたことなど。
そして、療養所の入居者は、とにかく明るく、ドリアン助川さん、永瀬さん共に、逆に励まされることの方が多かったそうだ。
ここから、カンヌ映画祭での上映の話しへ。カンヌのオープニングを飾ったのが、この『あん』。上映後は、凄いスタンディングオベーションで、それを見た樹木希林さんが
「そんなに手を叩いたら、あなた達手が痛いでしょ。私達がいたらいつまでも痛いままだから、みんな、早く帰りましょ」
と言ったのがドリアン助川さん、永瀬さん、どちらも印象に残っていたとのこと。
カンヌ映画祭は沢山の国からバイヤーが訪れているが、『あん』は受賞作品が決まる前に30カ国からオファーがあったそうで、これはカンヌ映画祭では、かなり珍しいことらしい。ヨーロッパでは、どら焼きはおろか、『あんこ』の存在自体がメジャーではなく、あんこの英訳はなり長いものになるのだが、そんな食文化の違いがあっても30カ国のオファーがあったというのは、ひとえに映画の持つ、人に感動を伝える普遍的な力だなと感じた。
ここから、映画の内容に触れた話し。永瀬さんが撮影をしている間、作品で登場するどら焼きのお店『どら春』にどら焼きを買いにくる一般のお客さんは、本当にいたとのこと。その時、カメラが回っているか、回っていないか分からないため、一般の方にどら焼きを普通に売って、その後、スタッフがお客さんを追いかけて代金を返していたそうだ。(永瀬さんが、調理師等の免許を持っておらず食品衛生法に引っかかるからとか、何とか)そういうエピソードのひとつ、ひとつが、千太郎としての生活が身体に馴染む要因になったと語っていた。
徳江さんが、店を1日だけ切り盛りするシーンがあるのだが、本当にそんな感じになってしまうと語る永瀬さん。
「10個下さい」
と言われると、
「えっ? 10個? 今から10個とか、ひとりでやって間に合うかな」
みたいな気持ちに実際になったと語る。そして、忘れられないシーンは?という司会者の質問に
「色々あって、本当は選べないんですけど、樹木希林さん演じる『徳江』の最後のどら春のシーンはたまらなかった」と。
河瀨監督の演出のすごいと思った所は、この時、
「こうやって演じて下さい」
とか演出を付けるのではなくて、徳江役の樹木さんに
「徳江さん、今日がどら春に来る最後になるかもしれませんね」
と語りかけると、樹木希林さんの演技が全て変わったそうだ。
帽子の取り方、割烹着の畳み方から、最後に店を後にする前のお辞儀の仕方まで。こういう演出の仕方があるのかと、感じ入ってしまった。
同じ質問をドリアン助川さんにすると
「徳江さんと、千太郎がぜんざいを対面して食べるシーン、『美味しい時は笑うのよ』って語り、千太郎が涙するシーンは、何回観てもダメですね」
と話す。それに対して、永瀬さんが
「あのシーンは、泣いちゃいけないシーンなんですよ。台本には『泣く』って書いてない。でも、徳江さんの『楽しかったわねぇ。本当に楽しかったわねぇ(どら春で働けて)』って言葉にどうしても泣くのを耐えられなかった」と話す。
自分は初めて、『あん』を観た時に、このシーンでは、さほど心が動かなかった。それは徳江さんが『働ける』という意味を真に理解してなかったし、想像力が及ばなかったからだ。このコロナ禍で、自粛生活をほんの何ヶ月か経験するだけで、『働ける』ってことは当たり前なことではないと感じている。らい予防法が廃止されるまで、閉ざされた世界で生活していた徳江さんにとって、それが、どれ程の意味があったか、どれ程の喜びがあったかを考えると、今回は上映中、涙を抑えることができなかった。
そしてラスト近く、印象的な、木から湯気のような、水蒸気のようなモヤが立っていて、その木に寄りかかる徳江さんのシーンは、永瀬さんが、ふと木を見て
「樹木さん、ほら、木が呼吸してますね」
と、何気なく樹木さんに伝えると、そこからサッと監督の所に駆け寄り
「ここは、撮っときなさい」
と河瀨監督に樹木さんが提言したそうだ。あの時は、徳江さんじゃなくて、樹木希林さんだったと回想する永瀬さん。樹木希林さんのプロデューサー的な視点の一面を感じるエピソードだった。
最後に、『あん』に対しての思い、今回の上映に関して締めくくりの感想を求められると、ドリアン助川さんは
「ハンセン病への義憤だけではなく、苦しみの中で何があるのか。なにを意識するのか。何をどう踏み出すのか。そういうものを表現したかった。徳江さんとの出会いから千太郎が新たな人生を開くことで、世界を感受して生きる姿を感じてもらいたい」
みたいなお話しで締められた。
永瀬さんは、
「『あん』を5年経った今でも観ていただけるのは光栄で、自分にとっても大事な作品。実は作品のラストシーンはテイク2で、1回目は感極まって泣いてしまい撮り直した方なんです」
と話す。
その時、河瀨監督から
「ほら、徳江さんが見てるよ」
と言われ、ラスト笑顔の千太郎を演じられたと。
最後の最後まで、河瀨監督の演技の導き方に唸らされたトーク内容だった。
この時期に、非常に貴重で有意義な時間を共有でき、ご来県いただいた、永瀬正敏さん、ドリアン助川さん、ありがとうございました。
帰路
トークイベント終了して、家へ帰る途中、別府にあるコーヒースタンド
『Coffee Stand Stairs』へ。実はこのお店、『あん』の上映イベントを知ることができたFMラジオの番組パーソナリティのひとり、TATSUさんがやっているお店。自らがコーヒーを入れ、切り盛りしている。
今回のお礼、報告がてら、エスプレッソを飲みに寄ってみた。
相変わらず、お客様が多く、いつも賑わっている。
今日、永瀬正敏さん登壇の上映イベントに参加してきたこと、イベントはTATSUさんの番組で知ることができたこと、お礼も含め手短に立ち話。すぐに、別のお客様がいらっしゃり、
「また、時間作って伺いますね」
と、そそくさと店を後にする。
ちょっと気になり、別府ブルーバード劇場を覗いてみようかと、前を通る。
今、別府ブルーバード劇場では、永瀬正敏さん主演の『二人ノ世界』を上映している。
「今日は、『あん』も観たし、トークイベントにも参加したんで、その余韻に浸って帰るか」
と、劇場の前を通っただけで、また帰路へと戻った……
その後に見つけたTweet見て、絶叫しそうになる。
どうして、タイミングが合わない俺!
ほんの数分のご訪問だったそうだが、永瀬正敏様、別府にまで足をお運び頂きありがとうございました。
その劇場の時空が
歪んでいないことを
何かとんでもない揺り返しが起きないことを
そっと祈ってます。
合掌(泣き!)
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