風のあとさき
ライブ:【無観客・有料配信ライブ】花田裕之 “流れ” オンライン 下北沢・春編「Friday on my mind」(2021年4月16日、下北沢・ニュー風知空知)
「Friday on my mind」と銘打たれたからには、同名の曲(The Easybeats)のカバーでもやるのかと思ったら、大ハズレ。しかし昨年秋に披露された新曲(歌い出し「泣き濡れた瞳が~」、以下、新曲1)に加え、また新たなオリジナル曲?(新曲2)も演目に含まれるなど、うららかな春の金曜日を待ち遠しくしていた甲斐のあった生配信ライブ。本稿では、新曲2を中心にいくつかの曲について印象に残ったことなどを書き留めておく。
ライブ終盤いよいよ佳境を迎え、新曲1に続き突如やってきた新曲2。満を持して登場の感あり。ゆるくも小気味良いリズムのイントロにのって、「流れ」としては珍しい「da-la-la・・・」のスキャットで歌が始まる。「風」をサビのフレーズに折り込んで人生の挫折を映し出す(解釈が違っていたらすみません)。鼻歌でも歌いたくなるようなeasy-goingなギターの調子とは裏腹に、ずいぶんキツくてしょっぱいなぁ、というのが率直な印象。もしこういう人が傍にいたら、「何があったかはわかりませんが、あんまり自分に厳しくしすぎないでくださいね・・・」と声をかけたくなってしまうかもしれない。余計なお世話だけど。そんな風に思う筆者はやはり甘いのだろうか。
この新曲2が塩辛い存在感を示した分、対照的に後に続く「めすっと」(サンハウス)、アンコールでの「風」(はしだのりひことシューベルツ)が、それぞれの魅力をうまく発揮したように思う。「めすっと」は、傷心の切なさが甘酸っぱく、また不思議な爽やかさも。スライドギターのアレンジも二重丸。筆者にとってはルースターズ・ナンバーで馴染み深い「Saturday Night」と共に気分をガラリと変える一服の清涼剤。
一方、今回のライブのラストを飾った「風」。こちらも新曲2と同じく風をモチーフに挫折を歌いつつも、新曲2の厳しさとはコントラストを描くように、素直なやさしさや柔和さが感じられてとてもよかった。初めて聴いたけれど、整ったいい曲だなと思った。(年齢をとってよかったと思うのはこういう時だ。10代の頃だったらおそらく受け入れられなかっただろうと思う。)
そして最後にもう一つ、ステージ冒頭第1曲目の「あの頃さ」。胸に広がるうっすら甘く、ほろ苦く、香ばしい感覚(「スナック・ラジオ」みたいですみません)。それは回顧、郷愁、感傷といった感覚をも呼び覚ます。力点の置き方は異なるものの、上述の「風」や新曲1のみならず、このテーマは新曲2にも通じていくもののように思われる。ただし新曲2の方は、塩が効いた激しさや厳しさをかなり多く含んではいるが。ライブ全体を振り返った時に、オープニングの「あの頃さ」はライブ終盤の新曲2の(塩)辛さと引き比べると、そのやさしい性格がさらに目立って、いつも以上にいとおしいもの、愛すべきものとして思い出されるような感じ。結果として「あの頃さ」がトンビと化して油揚げを、というか、棚から「好印象」のぼたもちをかっさらっていった格好か。
こうして考えると恐るべし、新曲2。今回、ややもすると「黒い羊」的な扱いとなってしまったが(ごめんネ)、興味深い存在である。どこか渡世人風、虚無の香りのする曲。一足先に産声を上げた新曲1と並んで今後の成長が楽しみだ。
以上、「流れ」春編の感想を思いつくまま書き連ねてきたが、あれこれ気を回さずに、何よりもまずライブは楽しく観られれば良し、と筆者自身は思う。なお、花田さんに至ってはライブの最後に「また会いましょう」とのことだったので、仰せの通り、またお会いしましょう。 オンラインでも、何処でも、如何ようにでも(笑)。
【花田裕之 “流れ” オンライン 下北沢・春編「Friday on my mind」】
あの頃さ/洪水の前に/時の過ぎゆくままに/ひとつ/二人でいよう/Day After Day/All Alone/あの娘には判らない//(休憩)//The Harder They Come/月が見ていた/泣くだけ泣いたら/汽車はただ駅を過ぎる/Title Unknown (新曲1)/Title Unknown (新曲2)/Saturday Night/ぬすっと//(アンコール)//Title Unknown (インストゥルメンタル)~風
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