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流れ三月、魅惑の酔い

ライブ:【無観客・生配信ライブ】 花田裕之 ”流れ”オンライン 下北沢2022・春編(下北沢・ニュー風知空知、2022年3月2日)

”流れ”オンラインが帰ってきた。昨年秋からそろそろと有観客スタイルが再開された「流れ」であったが、今もって予断を許さない世の中の動きを受け、急遽今回の無観客・生配信ライブが行われたようである。

肩の力が抜けた、リラックス、ユルい、などと表現されることが多い、花田さんのアコースティック・ライブ。実際、それが魅力なのだが、今回はちょっと違うものを感じた。相変わらず脱力系で緩いは緩い。しかしそれが「流れ」の流儀とはいえ、最小限のMC、表情を変えることなく粛々とギターを弾き、淡々と歌う花田さんの姿に、この晩は「ユルい」を通り越して「うれい」を見た気がする。

全体を通してスローでまったり、なのに鈍い印象はなく、投げやりとか、やさぐれとかいうには、デリケートな感触。 PCモニター越しの花田さんの頬はほんのり桜色。もしかして、かなりいい塩梅に酔いが回っていたのかもしれない。

いやいや、やれ愁いだの、スローだの、酔いが回ってだの、そんな風に感じるのは、たぶん受け手の自分の方に何か問題があるのだろう。

さて、ステージは休憩を間に挟んだ2部制。前半では「借家のブルース」と「お願いひとつ」がよかった。「借家」は、何気にギターの調子を確かめる風体で、弦を爪弾きながらの曲名紹介。そしてそのまま弦をはじき続け、ごくさりげなく曲のイントロに入っていく様子に惚れ惚れ。「お願い」の方は、「愁い」な気分の夜にぴったり。折しも生配信中、私の住んでいる地方は雨。時折、外の濡れた舗道を走る車の音が遠く、音楽に溶け込むように聞こえてきて雰囲気倍増。

ライブ後半では「ハイウェイをおりて」と「桜三月散歩道」を挙げたい。「ハイウェイ」は味変ならぬ歌詞変に心がざわつく。「ハイウェイをおりて どこかへ行こうと思ってる」と歌う花田さんは、これから一体どこへ向かおうとしているのだろうか。魂の彷徨の行方や、いかに。一方、「桜三月」は私にとっては初めて聴くナンバー。弥生三月、「流れ」春編にはなかなか時宜を得た選曲。暑い夏の盛りに、コートの襟を立てて歩く「風の中に消えた」を堂々と、また、卯月麗らかな頃に、夏が走る「かんかん照り」を朗々と歌う花田さんを観たこともあったが、かくも季節を意識した「サービス」をしてくれるとは。単なる偶然だろうけど、こういうこともあるんですね・・・。

実は今回、一番の推しはアンコールの3曲。まず「Honest I Do」は原曲に沿った英語バージョン。花田さんの日本語バージョンは聴いたことがあるが、英語のものは初めて。「Honest I Do」は、まもなく開催の、ロックンロール・ジプシーズのライブ・タイトルでもあり、ここでは予告編を兼ねて肩慣らしか。続く「ぬすっと」は、スライドギターが心地よくほろ酔いムードを醸し出す。歌詞の「世界中 酔っ払えばいい」というくだりは、昨今の社会情勢など含め、胸中複雑でメランコリックな自分の心情を代弁してくれたかのよう。ラストは、やはりこれもスライドギターで「No Expectations」。これら3曲、オン・ザ・ロックの氷の鳴る音がよく似合う味わい。それゆえにか、どこか地続きのような感じがして、3曲セットで聴くととてもいい。配信期間中、この部分を何杯も「おかわり」。挙句、すっかり酔っ払ってしまった(笑)。

ところで次回の「流れ」、オンラインライブでも、リアルライブでも、「愁い」より「嬉しい」気分で盛り上がれるよう、きちんと調えておきたいものである。とはいえ、常に変わり続ける社会情勢の中、私にとって「次回」がいつになるのかは予測困難だけれど、どうかそう遠くないうちに叶いますように。

【花田裕之 ”流れ”オンライン 下北沢2022・春編】
Tell Me Why/ 汽笛が/風の中に消えた/あいつが去った日/Heart of Stone/借家のブルース/おいら今まで/お願いひとつ//(休憩)//Femme Fatale/ハイウェイをおりて/魅惑の宵/からかわないで/桜三月散歩道/新曲(歌い出し: 泣き濡れた瞳が)//(アンコール)//Honest I Do/ぬすっと/No Expectations