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失うもの、捨てるもの、欲しいもの

ライブ:【有観客・生配信ライブ】 花田裕之 ”流れ”オンライン 下北沢 2024 New Year(下北沢・ニュー風知空知、2024年1月13日)

この日の東京は夕方から強い風、そして雨に混じってチラチラと雪が舞う。京王井の頭線・吉祥寺駅に着くと、線路内の人立ち入りのため遅れが発生しているという。間に合うだろうか、と不安が頭をよぎる。だが、とにかく急ぐ。下北沢駅から会場へと駆ける息が白い。なんとか間に合い、ほっと胸をなでおろす。

2024年最初の「流れ」はお馴染み「Hey Girl」で始まった。いつものように途中休憩を挟んだ二部制。アンコールは1回。ライブ配信の時間枠の関係か、アンコール2回分をまとめてやってくれた感じ? 幕切れは「まだまにあうかもしれない」(吉田拓郎)。本編17曲、アンコール5曲で計22曲のプログラム。

ステージ前半の「汽笛が」から「My My, Hey Hey」の一連の流れがとてもよかった。(後日、アーカイブ配信を観てもやはり同じように感じた。) 導火線にパチッと火花が散り、それをきっかけにぽっと火がつく。やがてゆらりと炎となって、橙色の光と熱がじわじわ放射状に広がっていく感じ。こういう展開はすごく魅きつけられる。

休憩後の「道のはて」も首尾よくノリよく素晴らしかった。特に、さりげなくエピフォンのご機嫌を伺いつつ、いつの間にかイントロに入っていくところ、憎いねぇ.....。「だれかが風の中で」(上條恒彦) は初めて聴いた曲。「流れ」のレパートリーとして噂には聞いていたが、新年早々ここで巡り合うとは。また「汽車はただ駅を過ぎる」や「ぬすっと」は花田さん独特の歌唱と共に、歌をつなぐ弦+ハープの間奏が心に染み入る。歌だけでもなく、演奏だけでもなく、どちらもあってこその「流れ」だな、とあらためて思う。

アンコールの「まだまにあうかもしれない」。私にとっては前述の「だれかが風の中で」と同じく初聴き。この曲は個人的に考えさせられて面白かった。「流れ」の曲の多くは愛、故郷ふるさと、居場所、夢…..等々「失う」要素が色濃くにじむ。だが、この拓郎ナンバーは「失う」のではなく「捨てる」。しかも青春期の若者らしく、古い自分を捨て、新しい自分を、自由を探し求めるとな。私は拓郎のリアルタイム世代ではないのだが、こうした青年期の気分自体は理解できるし、自らを振り返って甘酸っぱくも懐かしくも思う。自分もそれなりに年を取ったせいだろう。と同時に、この晩のライブの口火を切った「Hey Girl」のように、欲しいものが手に入らなくて涙を見せることも、嘆くこともなくなったことにも気がつく。そもそも持っていないということは、一方で失う悲しみも寂しさも味わわずにすみ、気負って捨てる勇気も思い切りも振り絞ることもない、ということでもありはしないか。結構それも hassle-freeで悪くない気がする。もっとも他人はこれを持てモテざる者の負け惜しみとか、負け犬の遠吠えとかいうのかもしれないが。

さて、そんなボヤきはとりあえずおいといて、それよりも、花田さんには今年も元気でギターを弾き、歌い続けて欲しいと願う年初であった。

【花田裕之 ”流れ”オンライン 下北沢 2024 New Year】
Hey Girl/夢の旅路/二人でいよう/スーツケースブルース/汽笛が/お天道さま/泣きたい時には/My My, Hey Hey/バス通り/魅惑の宵//(休憩)//道のはて/愛と風のように/だれかが風の中で/汽車はただ駅を過ぎる/The Needle and the Damage Done/ぬすっと/夢か幻か//(アンコール)//I Me Mine/ガンダーラ/おさらば/魔法の黄色い靴/まだまにあうかもしれない


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