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あまからバランス #シロクマ文芸部
「甘いもの」と「本」にはいくつか共通点があるように思う。「好き嫌い(好み)のある嗜好品」であり、「作るのは大変」で「消費はあっという間」。「種類が豊富」で「中毒性」があり「食べなくても命に影響はない」し「毒にも薬にもなる」。「リピート」する人もいれば「一期一会」を楽しむ人もいる。「店の名で買う」という人もいれば「作った人が大事」という人、「美味しければ何でも」「新しさを求めてどこまでも」という人もいる。もらったはいいけど口に会わないこともあるし、すっかり気に入ってしまう人もいる。ハンターのように追い求める人さえ。
菓子店には、有名パティシエの高級菓子店がある傍ら、江戸から続くような老舗の店や、近所の人しか買いに来ない、地元の小さな菓子店もある。様々な菓子店がずらり軒を揃えるデパ地下があると思えば、お菓子作りが趣味で、知人だけにおすそ分けしている人も。それはまるで大きな出版社、小さな出版社、大きな書店、小さな書店、個人での出版、同人誌を作って楽しむ、などといった区別にも似ている。創作者はさしずめパティシエ、菓子職人、ということになるだろうか。
そんなふうにとらえて自分を顧みると、私はパティシエでも菓子職人でもないが、趣味で作った菓子を、都内のアンテナショップに自腹を切って頼み込み、置かせてもらっている状態、に近いのかもしれない。人知れずひっそり置かせてもらっていて、私の菓子の情報を知っている人が、たまに、買っていってくれる。
素人のお菓子を購入するに至るには、やはりちょっとどこかで食べてみる必要がある。味見をして、なんかいいかも、となり、あとは作った人の信用みたいなのがあって、ようやく「買ってみようか」になる。
本物のお菓子なら、店頭に立ってサンプルを配ったり、デパートなら試食してもらったり、食べた人に宣伝してもらったり、ということができるが「本」はそういうことができない。店頭でちらっと読んでみる、くらいはできるかもしれないが、購入までのハードルは、はっきりと味覚で勝負する菓子よりは、高いはずだ。読んでもらった人に、色々なところで本の評判を口にしてもらう、ということはできるかもしれないけれど、そんな「口コミ」が成立する本はそうはないし、よほど気に入った本でなければ、よそで口にしてくれるなんてことはないだろう。大きな書店に置いてある立派な本でも難しいのだから、趣味の人の本を褒めるなんてことは、そうそうないものだ。
そういう意味で、noteは「本の味見」のようなものなのかもしれない、と思ったりする。この人の書いているもの、いいな、とか、波長が合うな、なんていうのを、感覚的に確かめられるし、記事の中で本の宣伝でもしてあれば、なにかの折に「読んでみよう」という気が湧くかもしれない。
菓子と本の最大の違いは、賞味期限のあるなし、だろう。本は数年後に棚から出てきて「こんなの買ってたんだ」と読み始めてもお腹を壊さないが、菓子はダメ絶対。
ただ、好き嫌いでいえば、昔好きではなかったお菓子が好きになる、ということがある。私は昔、レーズンやクルミが入った「口の中がガリガリ、ゴワゴワ」するお菓子が好きではなかった。クルミっ子なんてその最たるお菓子ではあるが、今では好物と言っていいくらいである。人の嗜好は変わる。
そういう意味では、今お口に合わない本も、年齢やシチュエーションが異なれば、面白く読めるということがあるのかもしれない。逆に、昔大好きで耽溺した本を読み返して、おやおやこんな感じだったかなと思うこともある。
昔好きだったお菓子で、今食べると「うーん」と思うものに、マシュマロがある。私は幼少期、マシュマロが大好きだったのだが、大人になってから食べると「あれ?」と思う。なんかこんなんだったっけと思う。子供のころ「うっまー」と思った記憶が肥大して、期待が大きくなりすぎるのかもしれない。
ところで、この世には「甘辛バランス」なるものを求める人々がいる。甘いお菓子を食べた後に、お醤油味のおせんべいを食べる、など、対極に位置する味を交互に摂取する、というものだ。「本」が「甘いもの」だとしたら、「辛い」に相当するものは何だろう。みなさんは、読書や創作と何かを組み合わせて、バランスを取っている、ということがあるだろうか。
運動や、歌、器楽演奏、いろいろあると思う。
もしかしたら「違う五感」を使うこと、というのがそれに相当するのかもしれない。
私にとってプランBであった「スタエフ」は、もしや「甘辛バランス」なのでは。
そんな風に思う、冬の午後——。
「みらっちチャンネル」、沢山の方に聴いていただいています。
聴いていただいた皆さま、本当にありがとうございます。
書く方は巧緻はともかく以前からやってきたものではありますが、トークは素人も素人、ゼロからのスタートです。でも、楽しい。
目論見通り、プランAも、揺さぶりをかけられている気がします。
了
今週は、結局締め切りに間に合わなかった・・・
小牧部長、遅刻しました、すみません。