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偶然の出会いを装った必然 #音楽の薬箱

曲名:ハナミズキ 
アーティスト名:作詞/一青窈、作曲/マシコタツロウ
シンガー:徳永英明
効能:大切な存在との突然の別れの悲しみを徐々に癒してくれた

 結局いつも、音楽に救われていると思う。
 それがどんな音楽であっても、その時、そのシチュエーションに見事にはまる、ぴったりの曲を、キャッチしてしまうものだと思う。
 それは偶然の出会いを装った、必然。
 その場その時に聴くことになっていたし、思いだすことになっていた。
 そんな風に思ってしまうくらい、自分に必要不可欠な音楽が存在する。

 悲しい時には短調が合うというし、楽しい時には長調がぴったりだという。ひどく落ち込んでいるときに無理に長調の音楽を聴くのは、ストレスになるらしいし、逆もそうだ。心と音楽は連動しているし、人間は原子でできている。原子の震え、波のようなものを合わせる必要があるのだと思う。

 今回選んだ「ハナミズキ」は、言わずと知れた一青窈さんの名曲である。
 2001年の同時多発テロの時、現地の知人を想って作ったと言われる、他者の幸せを願う歌詞。多くのアーティストにカバーされている。

 この曲、長調である。そして、一青窈さんの原曲と、徳永英明さんのカバーはイントロやキーも違う。私は「ロ長調」「ホ短調」などの区別には詳しくないが、この曲が短調の曲ではないことだけはわかる。
 それでも、悲しみがなかなか癒えない中、この曲がすっと心に沁みて来た。一青窈さんのではなく、徳永さんのほうを聴くとどうしても泣いてしまった。声の質なのかどうか、理由はよくわからない。これはとても不思議な現象だった。

 あるアーティストの曲をほかのアーティストが歌う時、「ぴったり」のときもあれば「これは違う」と思う時がある。そして不思議なことに「原曲も大好きだけど原曲以上」の時がある。それはたぶん、聴く人によって違ってくる部分でもあると思う。ある人にとっては「原曲を汚さないで」と感じるかもしれないが、ある人にとっては「心の宝」になる、といったような。

 相乗効果、というものがあるとすればそれで、アーティストの思いや人生に、もうひとりのアーティストの思いや人生が重なる時の、その重なり合いが、大きな効果を生むことがあるのだろうと思っている。

 徳永英明さんの「ハナミズキ」は、まさに心に沁みこんだ。このかたは、この曲を歌うために生まれて来たんじゃないかと思った。いや、彼は『レイニー・ブルー』や『壊れかけのラジオ』など、彼自身の名曲をいくつも持っているのだから、それはあくまで、わたしにとっては、ということだが。

 そして年月が経ち、私はこの曲を、情動を激しく揺れ動かすことなく、落ち着いて聴くことができるようになった。音楽も薬だが、時も薬である。音楽は「頓服」のような即効性の薬、時間は遅効性の薬、なのかもしれない。

 年を取ると、別れが頻繁に訪れるようになる。この先の別れに、あのときのように、この曲を聴くかどうかはわからない。あの日あの時あの人だったから、この曲がやってきたのかもしれない、とも思う。

 私にとって原曲以上のインパクトを持って心に降りて来た音楽が、他にもいくつかある。

 以前、別の記事で書いた、こちら。

曲名:晩夏 (ひとりの季節)
アーティスト名:作詞:荒井由実 作曲:荒井由実
シンガー:秦基博
効能:効能とはちょっと違うけれど、荒井由実がここまで端的な言葉で美しく失恋を描いていた、ということを秦基博さんに気づかせてもらった。夏の終わり、秋を感じる季節には必ず思いだす。

 思いのすべては、こちらの記事で語っている。

それからもうひとつは、こちら。

曲名:すべりだい
アーティスト名:作詞:椎名林檎,作曲:椎名林檎
シンガー:三浦大知
効能:「晩夏」と同じように、この曲はこんな曲、こんな歌詞だったのかという発見。

 椎名林檎さんの「すべりだい」ももちろん好きだったが、三浦大知さんの声で突然色合いが変わった。これは三浦さんご自身がアレンジされたのだろうか。詳しいことはわからないのだが、驚くべき衝撃体験だった。

 何はともあれ、曲そのものが命を持ち、誰でもが「自分ならこのように歌いたい」と思ったり、アレンジしたくなったりする曲、というのは「名曲」に違いない、と思う。実際、松任谷由実(荒井由実)さんや椎名林檎さんの曲は、トリビュートアルバムの完成度が信じられないくらい高い。

 トリビュートといえば、手放したことを後悔したアルバムがある。
『hide TRIBUTE SPIRITS』。私はこれを出たばかりの時に買って相当聴いたのだが、現在は手元にない。hideが亡くなった翌年に出たこの追悼アルバムは、錚々たるラインナップで、とにかく素晴らしかった。配信が始まったころ、hideのアルバムは持ってるし(手放さないさ)、これはきっと配信で聞けるだろうと思って手放したのだが、甘かった。古いトリビュートは何らかの大人の事情で全曲聴けなくなることがあるのを、知らなかった。
 hideのトリビュートはライブという形で存続しているようだが、やはり最初のこのアルバムは、名盤だったと思う。

 でもきっと、離れて行ったにも、必然がある。
 そんな気がしている。

アルバム名:『hide TRIBUTE SPIRITS』(ヒデ・トリビュート・スピリッツ)
アーティスト名:『ROCKET DIVE 』布袋寅泰/『Beauty & Stupid』清春・SHOJI/『TELL ME』kyo & TETSU/『ピンク スパイダー』SIAM SHADE/『LEMONed I Scream』shame/『ピンク スパイダー』CORNELIUS/『FLAME』ZEPPET STORE/『SCANNER』LUNA SEA/『DOUBT’99 』BUCK-TICK/『ever free 』TRANSTIC NERVE/『限界破裂 』OBLIVION DUST/『MESERY』GLAY/『CELEBRATION featuring hide 』I.N.A.・Pata・heath/『GOOD-BYE 』 YOSHIKI
効能:ちょっとモヤモヤした時に聴く。また頑張ろうかなという気持ちになる。布袋寅泰のROCKET DIVEはもちろんのこと、コーネリアスとか黒夢の清春とかメンツとクオリティがすごすぎる。LUNA SEAもhideに見いだされたんだっけ。BUCK-TICKの櫻井さんがもういないんだと思うと寂しい。

『hide TRIBUTE SPIRITS』はhideのトリビュート・アルバム。1998年5月2日に急逝した日本の音楽家であり、X JAPANのギタリストであるhideへの追悼の意を込め、一周忌にあたる1999年5月1日に、リリース。トリビュート・アルバムとしては史上唯一のミリオンセラーを記録している。アルバム全体のマスタリングを小野誠彦が担当している。(ウィキペディアより抜粋)

Wikipediaより

#音楽の薬箱

 ※樹立夏さんの企画に参加しています。樹さん、素敵な企画ありがとうございます!