パンツ、シャツ、シューズの語源
前回の続きです。今回は下半身に履くものを中心に見ていきましょう。
パンタロン、パンツ、パンティ
デニム生地で作るのは「パンツpants」であり、パンツはパンタロンの短縮形です。
パンタロンと聞くと、私たちは膝から裾にかけて広がる形のズボンを想像してしまいますが、本来はそうではありませんでした。「パンタローンpantaloon」は、イタリアのコッメディア・デッラルテ(仮面を使った即興喜劇)の登場人物「パンタローネPantalōne」に由来しており、お金好きの好色ヴェネツィア人老商人というキャラクターづけがされていました。
パンタローネはピッタリとしたズボンを履いていたことから、細長いズボンのことをパンタロンと呼ぶようになったのです。
パンタローネは、医師や助産婦の守護聖人とされている殉教したローマの医師「パンタレオネPantaleone」をもじって名付けられたと考えられている役名です。パンタレオネは、ギリシャ語panta「すべての」+leone「ライオン」で構成され、「すべてのライオン」を意味します。
パンタロンが短縮されてパンツになり、さらにパンツの指小形が「パンティpanties」です。その語源を遡るとギリシャ語由来の聖人名というのは興味深いですね。
シャツ、スカート、ショーツ
「シャツshirt」と「スカートskirt」はhとkが違う以外はつづりが同じです。それもそのはず、この2つの単語は同一の語源を持つ二重語だからです。
シャツは古英語のsċyrteに由来し、スカートは古ノルド語のskyrtaに由来しています。この2つの単語は、ともにゲルマン祖語で「短い」を意味する*skurtazが語源であり、さらに遡ると「切る」を意味する印欧祖語の*sker-にたどり着きます。もとは首から被る膝あたりまである服のことでしたが、2つの単語が競合するようになると上がシャツ、下がスカートに意味が分かれていったのです。
また、「短い」を意味する英単語のshortも*skurtazに由来する同族語です。ショートパンツと同義語の「ショーツshorts」も、ショートを通じて同じ語源を持っています。
ソックス、シューズ
ラテン語の「ソックスsoccus」及びギリシャ語のsúkkhosは、古代ギリシャやローマの喜劇役者が履いたサンダルのような軽い靴のことであり、これが「ソックスsocks」の語源となっています。
また、足を覆うものを古英語でscōhといい、「シューズshoes」の由来です。scōhはゲルマン祖語*skohaz「覆う」を通じて印欧祖語の*skeu-に遡ることができます。
*skeu-を語源とする同族語にskyがあり、これは古ノルド語で「(空を覆う)雲」を意味するskyが英語に導入され、しだいに意味が変化しました。[sk]の音価を持つ単語は古ノルド語由来で、デーン人により支配された北海帝国の時代とノルマン・コンクエストの時代に入ってきて英語に転訛しました。
いかがだったでしょうか。
カッパ、キャップはラテン語から、ウォーカー、シャツ、スカート、ショーツ、シューズはゲルマン系言語から、ジーンズとデニムは地名から、パンタロン、パンツ、パンティ、ソックスはギリシャ語から来ていることが分かりました。
直接的には英単語から来ているものが多いですが、語源をたどるとそれぞれ長い長い旅を経て、私たちが頭のてっぺんからつま先まで(「キャパパイcap-a-pie」)日常的に身につけているものの名前になっているのです。