サウジアラビア | 若い力と壮大なビジョンで未来を切り拓く【気になる世界の国々#8】
サウジアラビアの基本プロフィール
サウジアラビアは中東に位置する国で、アラビア半島の大部分を占める広大な土地を持っています。面積は約2,149,690平方キロメートルで、人口は約3,500万人(2024年推定)。首都はリヤドで、政治・経済の中心地として機能しています。この国は、イスラム教の二大聖地であるメッカとメディナがあることで、全世界のイスラム教徒にとって特別な存在です。また、サウジアラビアは世界最大級の原油埋蔵量を誇り、エネルギー市場における影響力の高さが注目されています。
なお、時差については、日本(東京)はサウジアラビア(リヤド)より6時間進んでいます。例えば、日本が午後7時の時、サウジアラビアでは同じ日の午後1時です。
世界のエネルギーハブとしての地理的重要性
サウジアラビアはペルシャ湾と紅海の間に位置し、戦略的な地理的優位性を有しています。特に、世界の主要原油輸送ルートであるホルムズ海峡やバブ・エル・マンデブ海峡に近接しており、この地理的条件が原油輸出国としての地位を支えています。また、紅海沿岸のジェッダ港はアフリカと中東、ヨーロッパを結ぶ重要な貿易拠点として機能しています。最近では、紅海沿岸における経済特区「NEOM」の開発が進められており、新たな貿易・経済のハブとして期待されています。
統一王国と改革の歴史
建国と王国の統一
サウジアラビアは、1932年にアブドゥルアズィーズ・イブン・サウード(通称:イブン・サウード)が建国しました。彼は1902年にリヤドを占領して以降、アラビア半島に存在していた多様な部族や地域を次々と統一し、最終的にサウジアラビア王国としての統一を成し遂げました。この過程で、部族間の複雑な対立や権力闘争を調停しながら、イスラム教ワッハーブ派の教義を国の統一の基盤としました。国名の「サウジアラビア」は、この王家の名前「サウード家」に由来しており、国全体が王家の統治下にあることを示しています。
イスラム教の中心地としての役割
サウジアラビアは、イスラム教の二大聖地であるメッカとメディナを有する唯一の国であり、このことがサウジアラビアの国際的な地位を特別なものにしています。毎年世界中のイスラム教徒が宗教巡礼(ハッジとウムラ)のために訪れるため、これが国の文化や経済に大きな影響を与えています。イスラム教が生活や法体系の根幹を成しており、シャリーア(イスラム法)に基づいた社会運営が行われています。
ワッハーブ派の影響
サウジアラビアの文化と社会は長らく保守的なワッハーブ派イスラム教の影響を受けてきました。ワッハーブ派は厳格な一神教信仰と簡素な生活様式を重視しており、この影響は国の法律や日常生活、女性の権利や衣装規定、エンターテインメントに至るまで見られました。しかし、この保守的な宗教的枠組みは、近年の改革により徐々に変化しています。
近代的な改革の進展
ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(通称:MBS)の主導で、2016年に発表された「サウジ・ビジョン2030」は、サウジアラビア社会の急激な変化をもたらしました。この改革は、経済の多角化、女性の社会進出、文化的自由の拡大を柱としています。
女性の社会進出: 長年の保守的規制が緩和され、2018年には女性の運転が合法化されました。また、職場や教育の場で女性の参加が増加しており、社会における役割が拡大しています。
エンターテインメント産業: 映画館が解禁され、音楽コンサートやスポーツイベントが積極的に開催されるようになりました。これにより、国民や観光客に多様な娯楽の選択肢が提供されています。
宗教警察の影響力低下: 従来、社会規範を厳しく監視していた宗教警察(ムタワ)は、その活動が大幅に制限されました。
文化の多様化と現代的な変化
これまで保守的だったサウジアラビア文化は、エンターテインメントの自由化や観光開発に伴い、多様性を取り入れつつあります。特に首都リヤドや紅海沿岸のジェッダなどの都市部では、若年層を中心に西洋文化の影響が増しています。これには映画や音楽、ファッションのトレンドだけでなく、国際的な企業の進出も含まれています。
それでもなお、サウジアラビアはイスラム教を基盤とした伝統文化を尊重しており、家族や宗教行事が社会生活の中心に位置しています。
国民性
サウジアラビアの国民性は、部族社会の伝統とイスラム教の価値観に大きく影響されています。国民は、家族や親族を非常に重視し、絆を大切にします。また、部族意識が今も強く残っており、地域ごとの伝統や習慣が国民生活に色濃く反映されています。
一方で、若年層を中心に改革やグローバル化を支持する声も強まっています。サウジアラビアの人口の約60%が35歳未満であり、この若年層は教育を受けた中産階級として、グローバルな視野を持つと同時に、国内の変化を積極的に受け入れる傾向があります。
加えて、サウジアラビアの人々はホスピタリティ精神(もてなしの心)が強いことでも知られています。訪問者や客人を歓迎する文化が根強く、特に外国人に対しても寛容で友好的な態度を示します。
経済の現状と主要産業
為替
サウジアラビアの通貨であるサウジ・リヤル(SAR)は、2024年12月時点で、1ドル=約3.75サウジ・リヤルの為替レートとなっています。このレートは、サウジ・リヤルが米ドルに対して固定相場制を採用しているため、安定した水準を維持しています。
GDP
サウジアラビアのGDPは約1.06兆ドル(2024年推定)で、中東最大の経済規模を誇ります。GDP成長率は1.5%。世界に占める名目GDPの割合は約1.01%、購買力平価GDPでは約1.10%です。
なお、2025年~2029年のGDP成長率は、4.6%, 4.4%, 3.6%, 3.5%, 3.5%となっています。画像はGDP成長率の推移です。
インフレ率と失業率
2024年11月のインフレ率は2.0%。
直近の失業率は3.3%。
人口動態
2024年時点のサウジアラビアの人口ピラミッドを見ると、労働年齢層(15歳から64歳)が全人口の約70%以上を占めており、この層はサウジアラビア経済を支える主要な基盤となっています。この労働力層の中には国内の国民だけでなく、海外からの移民労働者も多く含まれており、石油・ガス産業、建設業、サービス業などの主要分野で重要な役割を果たしています。特に近年の「サウジ・ビジョン2030」に伴うインフラ整備や新興産業への投資拡大において、こうした労働力の需要が増加しています。
一方で、若年層(0~14歳)の割合は全人口の約25%を占めており、将来的な国内労働力の供給が十分に期待できる状況です。この高い出生率は、伝統的な家族構造と社会政策によるものとされています。教育制度の改善や女性の社会進出を推進することで、この層が将来の経済成長を支える原動力になると考えられています。
また、65歳以上の高齢者層は全体の約3%程度と比較的少なく、サウジアラビアが他国と比べて高齢化の影響をほとんど受けていないことを示しています。
全体像はこちら。
主な輸出産業・品目
図はサウジアラビアの経済活動および輸出品目を示したものです。
原油(Petroleum Oils, Crude)
サウジアラビアの輸出全体の約59%を占める原油は、同国経済の中核を成しています。サウジアラビアは世界最大級の石油輸出国であり、主要輸出先には中国、日本、インドなどのアジア諸国が含まれます。原油の輸出は、エネルギー需要の高いこれらの地域で重要な役割を果たしています。精製石油製品(Petroleum Oils, Refined)
精製石油製品は輸出全体の約11%を占めており、原油に次いで重要な輸出品目となっています。これらの製品はヨーロッパやアジア諸国への供給で国際的に需要が高く、特に化学工業の発展に寄与しています。観光業(Travel & Tourism)
観光業は輸出全体の約7%を占めています。特に、イスラム教徒による巡礼(ハッジとウムラ)が観光業の中心となっています。メッカとメディナへの宗教巡礼はサウジアラビアの観光収入の大部分を占める一方で、最近では「サウジ・ビジョン2030」に基づき、一般観光業やエンターテインメント分野も強化されています。
サウジアラビアの輸出構造は、原油を中心としたエネルギー資源が圧倒的な割合を占めていますが、精製石油製品や化学製品など、付加価値の高い分野にも力を入れています。また、観光業や輸送サービスといった非エネルギー部門の成長も、「サウジ・ビジョン2030」における経済多角化の重要な柱となっています。
汚職と法の支配
・Corruption Perceptions Index(腐敗指数)
Rank 53/180
・Rule of Law Index(法の支配指数)
Rank N/A
サウジアラビアは、腐敗指数で180カ国中53位にランクインしており、比較的透明性のある行政機関と公的部門を持つと評価されています。近年、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子の主導で大規模な汚職撲滅運動が実施され、政府機関や企業の透明性向上に向けた取り組みが進められています。
一方、法の支配指数に関しては、サウジアラビアの詳細な順位やスコアが公表されていませんでした。同国の司法制度は政府の統制下にあるため、完全な独立性には欠けるとされています。報道の自由や表現の自由に制約がある点が、法の支配に関する評価に影響を及ぼしている可能性があります。
イノベーションと平和度
・Global Innovation Index(グローバルイノベーション指数)
Rank 47/125
・Global Peace Index(世界平和度指数)
Rank 102/163
サウジアラビアは、グローバルイノベーション指数で125カ国中47位にランクインしており、イノベーション分野で一定の評価を得ています。特に、研究開発(R&D)への投資やインフラの近代化が進められており、技術革新を支える基盤が整備されています。「サウジ・ビジョン2030」に基づき、ICT(情報通信技術)の普及やスタートアップ支援が進み、リヤドやジェッダといった都市を中心に、エネルギー分野以外の産業でもイノベーション環境の強化が図られています。
一方、世界平和度指数では163カ国中102位に位置しています。この順位は、国内の治安や政治的安定性に課題があることを反映しています。特に、地域的な地政学リスクや一部都市での治安問題が評価に影響を与えています。ただし、近年では国内の治安対策が強化されており、観光地や主要都市では比較的安定した環境が保たれています。
サウジアラビアの未来を切り開く!NEOMと紅海プロジェクト
サウジアラビアは、石油依存からの脱却を目指し、壮大な未来都市プロジェクト「NEOM」と観光開発の「紅海プロジェクト」を推進しています。これらは「サウジ・ビジョン2030」の中核を担う計画であり、世界中から注目を集めています。それぞれのプロジェクトの特徴と進捗状況を詳しく解説します。
NEOMプロジェクト
概要
NEOMはサウジアラビア北西部の紅海沿岸、タブーク州に位置し、総面積は約26,500平方キロメートルで、東京の約33倍に相当します。このプロジェクトは、サウジアラビアの国家ビジョン「サウジ・ビジョン2030」の一環として、石油依存からの脱却、経済の多角化、持続可能性の追求、最先端技術の導入を目指しています。プロジェクトには5,000億ドル以上の投資が見込まれています。
プロジェクトの主な構成要素
THE LINE
車も道路もない直線型の高層都市で、全長は170km、幅200m、高さ500mという驚異的な設計です。約900万人が居住可能で、居住者の生活に必要なあらゆる施設が徒歩5分圏内に配置されます。AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、再生可能エネルギーを駆使して効率的で持続可能な都市設計が進められています。TROJENA
山岳地帯を活用したリゾート地で、スキーリゾートやアウトドアアクティビティ、自然保護区などを含む複合施設として計画されています。なお、2029年に開催予定のアジア冬季競技大会の会場に選ばれています。OXAGON
世界最大の浮遊型産業都市として計画されており、主要な物流拠点や工場、研究開発施設が集積される予定です。ユニークな設計から「未来の製造業のハブ」として期待されています。
紅海プロジェクト
概要
紅海プロジェクトは、サウジアラビアの紅海沿岸に広がる観光リゾート開発計画で、総面積は約28,000平方キロメートルに及びます。このプロジェクトは、「サウジ・ビジョン2030」の一環として、石油依存型経済からの脱却を目指し、持続可能な観光業の推進を図っています。
プロジェクトには以下の要素が含まれています。
高級リゾートホテル: 世界的な観光客をターゲットにした一流ホテルやヴィラの建設が計画されています。
水上施設: 島々をつなぐ水上交通網やマリンスポーツ施設の整備が予定されています。
国際空港: 紅海地域へのアクセスを容易にするため、新たな国際空港の建設が進められています。
環境保全: 環境負荷を最小限に抑えるため、厳格なエコロジカルポリシーが導入されています。
紅海地域は世界でも有数のサンゴ礁と豊かな海洋生物が生息するエリアであり、環境保護と観光業を両立させる計画が進められています。
終わりに
サウジアラビアは、「サウジ・ビジョン2030」を通じて、石油依存からの脱却と持続可能な経済への転換を目指しています。NEOMプロジェクトと紅海プロジェクトはその象徴的な取り組みであり、未来都市や観光業の新しいモデルを提示しています。これらの計画は、地域経済の活性化だけでなく、国際社会での存在感を高める重要なステップといえます。
環境保護や社会の多様化といった課題を抱えつつも、サウジアラビアは大胆なビジョンの実現に向けて着実に進んでいます。その挑戦は、世界が直面する課題に対する新しい解決策を示すとともに、未来の発展モデルとなる可能性を秘めています。今後の成果に注目が集まります。