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UAE | 石油依存を超えて多様化する中東の成長モデル【気になる世界の国々#3】


更新情報
この記事は、2024年12月26日に内容を更新しました。今後の観光に関する内容を追記しています。


UAEの基本プロフィール

UAEは、7つの首長国から成る連邦国家で、中東の経済改革や多様化の成功事例として注目されています。面積は約83,600平方キロメートル(北海道と同程度)で、人口は約980万人(2024年推定)です。その多くが外国人労働者であり、国民は全体の約10%に過ぎません。首都はアブダビで、最大の都市はドバイです。

1971年の建国以来、石油収入を基盤に急速な発展を遂げてきましたが、近年は脱石油経済に向けた多様化政策に力を入れています。観光、金融、テクノロジー、再生可能エネルギーなど、多岐にわたる分野で注目されています。

なお、時差については、日本(東京)はUAE(アブダビ、ドバイ)より5時間進んでいます。例えば、日本が午後7時の時、UAEではちょうど午後2時です。


地理的位置とその影響

UAEはペルシャ湾とオマーン湾に面し、ホルムズ海峡に近いという戦略的な位置にあります。この地理的条件により、エネルギー輸送のハブとして重要な役割を果たしています。さらに、世界中からの航空便が集まる国際的な空港を持ち、物流の拠点としても知られています。
ドバイ国際空港なんて名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。

また、砂漠地帯にありながら、人工的な島や観光地を開発するなど、自然条件を克服する取り組みが評価されています。


歴史的背景

19世紀、UAE地域は「トルーシャル・ステーツ」としてイギリスの保護領となり、自治を維持しつつ海上貿易路の安全が確保されました。しかし、真珠産業が日本の養殖真珠の普及により衰退し、経済的に苦しい時代を経験しました。1971年、UAEは独立し、石油収入を活用してインフラ、教育、医療を急速に発展させ、砂漠地帯が都市へと変貌しました。

現代のUAEはイスラム文化を基盤にしながらも、多国籍な人口の多文化共生が進み、国際ビジネスと観光の拠点として栄えています。


経済の現状と主要産業

為替

アラブ首長国連邦(UAE)の通貨であるディルハム(AED)は、2024年12月時点で1ドル=約3.67ディルハムの為替レートとなっています。この安定したレートは、ディルハムが米ドルにペッグ(固定)されているためであり、長年にわたりほぼ変動がありません。

出典:Investing.comより

GDP

UAEの経済は、石油に依存していた時代から脱却し、多様な分野で発展を遂げています。2024年のGDPは約5,000億ドル。一人当たりのGDPは約50,000ドルと高水準です。GDP成長率は4.0%。世界に占める名目GDPの割合は約0.48%、購買力平価GDPでは約0.43%です。
なお、2025年~2029年のGDP成長率は、5.1%,  5.1%,  4.7%,  4.4%, 4.3%となっています。

International Monetary Fundのデータ

インフレ率と失業率

2024年11月のインフレ率は3.01%。

出典: Trading Economicsより

2023年の失業率は2.95%。

出典: Trading Economicsより

人口動態

出典:PopulationPyramid.net

2024年時点のUAEは、経済成長を支える労働力として、外国人労働者に大きく依存しています。建設業や製造業など、体力を要する職に外国人男性労働者が多く従事しているため、男性の割合が圧倒的に高くなっています。

全体像はこちら。

出典:PopulationPyramid.net

主な輸出産業・品目

出典: Harvard Growth Lab - Atlas of Economic Complexity

図はUAEの経済活動および輸出品目を示したものです。
読み取れる内容をざっくりまとめます。

  • エネルギー産業
    原油(Petroleum oils, crude)およびガスが中心となり、UAEの輸出の核を成しています。精製石油製品も含めると、エネルギー産業が経済における非常に大きな割合を占めていることがわかります。とはいえ全体の約30%です。

  • 貴金属・宝飾品産業
    金(Gold)、ダイヤモンド、貴金属製ジュエリーは、UAEが貴金属取引のハブとしての地位を確立していることを示しています。ドバイはこの分野における中心地です。

  • 通信・電子機器分野
    通信機器(Transmission apparatus)や電気製品の輸出がUAEの新たな柱となりつつあります。再輸出を通じて、国際市場への物流拠点としての機能が強調されています。

UAEは石油輸出が依然として経済の中心を占めていますが、貴金属取引や通信機器、自動車、非鉄金属産業の輸出を通じて、経済の多角化を進めています。また、地理的な優位性を活かし、物流のハブとしての役割も果たしています。このようなバランスの取れた輸出構造は、UAEの持続的な経済成長を支える基盤となっています。


汚職と法の支配

・Corruption Perceptions Index(腐敗指数)
Rank 26/180
・Rule of Law Index(法の支配指数)

Rank 39/142

UAEは腐敗認識指数において26位と、世界的に見ても非常にクリーンな国として評価されています。中東地域の中でも、汚職対策に成功しており、政府機関や行政の透明性が比較的高いことがこの順位に反映されています。

一方、法の支配指数では39位にランクインしており、司法制度や法執行の信頼性が一定の水準を維持しています。国家の安定性や治安の良さはUAEの経済成長や投資環境の改善にも寄与しており、国際的なビジネス拠点としての信頼性を高める要因となっています。
しかし、外国人労働者の権利保護や労働環境の改善といった課題も残されており、さらなる法の透明性と公平性が求められています。

イノベーションと平和度

Global Innovation Index(グローバルイノベーション指数)
Rank 31/125
Global Peace Index(世界平和度指数)
Rank 53/163

グローバルイノベーション指数(Global Innovation Index)で125カ国中31位にランクインしており、中東諸国の中でもトップクラスの評価を受けています。この順位は、特に再生可能エネルギーやAI(人工知能)、スマートシティ構想といった分野での技術革新やデジタル経済の発展を反映しています。また、エキスポシティ・ドバイや持続可能な観光地開発の取り組みも、イノベーション推進の象徴的な例と言えるでしょう。

一方、世界平和度指数(Global Peace Index)では163カ国中53位に位置しており、中東地域内で比較的高い安定性を誇る国と評価されています。政治的安定性や治安の良さが観光業やビジネス環境の発展に寄与しており、多くの国際観光客や投資家を惹きつけています。また、犯罪率の低さや厳格な法律の施行により、観光客や住民にとって安全な環境が整備されています。

また、政府は脱石油経済を目指し、テクノロジー、再生可能エネルギー、宇宙開発といった分野に積極的に投資を行っています。

主要な取り組みと成長分野

  1. スマートシティ構想
    ドバイでは「スマート・ドバイ」構想を掲げ、都市全体のデジタル化とAI技術の活用を推進。これにより、政府サービスの効率化や市民生活の質の向上を図っています。

  2. 宇宙開発
    UAEは2021年に火星探査機「ホープ」を成功裏に打ち上げ、宇宙開発の分野でも中東初の快挙を達成しました。これに続き、次世代の宇宙科学者育成や国際協力にも力を入れています。

  3. 再生可能エネルギー
    アブダビに位置する「Masdar City」は、持続可能な都市開発のモデルケースとして世界的に注目されています。太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの導入が進んでおり、エネルギー転換の先進国としても期待されています。


外国人労働者の権利保護等について

UAEでは、人口の約90%が外国人で構成され、その多くが労働者として建設業、サービス業、家事労働などに従事しています。しかし、これまで労働者の権利保護や労働環境に関する問題が指摘されてきました。近年、UAE政府はこうした課題に対応するため、以下のような取り組みを進めています。

主な取り組み

  1. 労働法の改正

    • 2022年に施行された新しい労働法では、外国人労働者の労働条件を改善するための規定が盛り込まれました。

    • 例えば、労働契約の柔軟化や、労働時間、休暇の規定が明確化されています。

  2. カファラ制度の見直し

    • 従来の「カファラ制度」(スポンサー制度)は、外国人労働者が雇用主に依存しすぎる状況を生み出していましたが、近年、この制度を緩和・廃止する方向で改革が進められています。

    • 労働者がより自由に雇用主を変更できるようになりました。

  3. 最低賃金と労働環境の改善

    • 労働者の最低賃金を設定し、給与の未払いを防ぐための厳格な規制が導入されています。

    • さらに、宿泊施設や福利厚生の基準を引き上げることで、生活環境の向上を図っています。

  4. 法的支援の拡充

    • 労働者が雇用主との間でトラブルが生じた場合、無料の法的サポートを受けられる仕組みが整備されています。

残る課題

  • 依然として一部の労働者に対する権利侵害や劣悪な労働環境が報告されており、特に低賃金労働者に対する保護の強化が求められています。

  • 雇用主によるパスポートの取り上げなど、カファラ制度の一部の問題が完全には解消されていないと指摘されています。


UAEが描く未来型観光のビジョン

UAEは観光分野での革新的な取り組みと大規模プロジェクトを通じ、世界中から注目を集めています。現在、ドバイやアブダビを中心に多くの観光施設が整備されていますが、今後始まる新たなプロジェクトは、UAE観光のさらなる進化をもたらす鍵となるでしょう。今からUAEの観光業がどのように発展しているのか、そしてこれからの可能性について詳しく見ていきます。

UAEの観光には何がある?

UAEと聞くと、石油や高層ビルといったイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実は観光地としても多彩な魅力を備えています。少し調べるだけでも、たくさんの観光名所が見つかります。以下では、ドバイを中心とした注目の観光地やプロジェクトを紹介します。

1.ドバイ・ランドマーク群と未来の展開

  • ブルジュ・ハリファ(Burj Khalifa): ドバイ中心部にそびえる高さ829.8mの世界一高い超高層ビルで、ドバイの観光と経済発展を象徴するランドマークです。展望台は124階、125階、148階にあり、ドバイ全体を一望できる人気スポットです。また、ブルジュ・ハリファはドバイモールと直接連結しており、ショッピングと観光を組み合わせた特別な体験を楽しむことができます。

  • ザ・リング(The Ring): 都市全体を覆うようなリング状の構造を持つ未来型プロジェクトです。空中歩道や空中庭園が計画され、ブルジュ・ハリファに近いドバイ中心部に建設予定。具体的な情報はまだ少ないものの、独創的なコンセプトが注目を集めています。あまり情報は出ていないようですが、こんな構想もあるのですね。

  • アル・マクトゥーム国際空港拡張プロジェクト : ドバイが世界的な観光・物流ハブとしての地位をさらに強化するための大規模プロジェクトです。この空港は、年間2億6千万人の乗客を受け入れる能力を持つ世界最大の空港を目指しており、観光と物流の両面でUAEの発展を支える重要なインフラとなります。

2. アブダビの観光強化計画

  • ワーナー・ブラザーズ・ワールドの拡張 : 2018年に開業した、ヤス島に位置する完全屋内型テーマパークです。DCユニバースやルーニー・テューンズといった、ワーナー・ブラザースの人気キャラクターをテーマにしたアトラクションが特徴です。現在、新エリアの追加が計画されており、インタラクティブ要素を取り入れた最新技術のアトラクションが導入される予定です。

  • シーワールド・アブダビ: 2023年に開業したばかりの海洋テーマパークで、さらなる進化が期待されています。約150種以上の海洋生物を展示し、教育とエンターテイメントを融合させた施設です。来場者が海洋環境について学べるプログラムを提供しており、他のテーマパークとの差別化を図っています。

3.持続可能な観光地開発

  • エキスポシティ・ドバイ : 2020年に開催されたドバイ万博の跡地を活用した未来志向の都市型観光地です。再生可能エネルギーを活用し、カーボンニュートラルを目指す設計となっており、ドバイが「持続可能性」を重要視していることを象徴する場所でもあります。現在、住宅、オフィス、商業施設を含む複合用途の開発が進行中で、エコ志向の観光客にとって魅力的なスポットです。

  • ネイチャー・リゾート: 砂漠環境とエコロジーを融合したリゾート施設です。ラクダ乗り体験や伝統的なアラビア料理を楽しめるプログラムを通じて、アラビア文化を直接肌で感じられます。このリゾートは、ドバイを「世界で最も住みやすい都市」にすることを目指した長期的な都市開発計画「ドバイ2040アーバンマスタープラン」の一環として計画されています。

観光の未来展望

2020年のデータによると、国際観光客の支出は約487億ディルハム(約132.5億米ドル)で、国内観光客の支出約238億ディルハム(約64.8億米ドル)の約2倍に達しています。このことから、UAE観光業の主要な収益源が国外観光客であることは明らかです。空港の拡張や高級リゾートの開発といった大規模プロジェクトは、こうした国外観光客をターゲットにした戦略の一環であり、特に高所得層やビジネス旅行者を惹きつけることを目的としています。

ドバイの旅行者数(2022年:約1,436万人)とアブダビのホテル宿泊者数(2019年:約510万人)は年や指標が異なるため単純比較はできませんが、主な出身国を確認することで、どの地域からの観光客が多いかを把握できます。

2022年のドバイの国際観光客数は約1,436万人でした。

2019年のアブダビのホテル宿泊者数は約510万人でした。

これらのデータによると、アジア(インド、中国など)やヨーロッパ(イギリス、ドイツなど)がUAE観光業の主要な市場を形成していることが分かります。

今後の展望としては、アジアからの観光客において、インドや中国に加え、経済成長によって旅行需要が拡大している東南アジアの新興中間層が大きなポテンシャルを秘めていると考えられます。

UAEの観光は…

UAEの観光業を調べていると、その規模や革新性に圧倒されるばかりです。高層ビルやリゾートの開発はもちろん、空港の拡張や未来型都市設計といった取り組みは、単なる観光地の枠を超えています。観光客のためだけでなく、都市全体を観光資源として再構築するエネルギーと実行力が感じられます。これは東京ディズニーランドのようなテーマパーク型の観光とは一線を画し、まさに未来志向の観光モデルです。こうした挑戦は、UAEを単なる観光大国ではなく、未来型都市を象徴する存在へと進化させているように思えます。


終わりに

UAEは、その地理的条件と豊富な資源を活かして急速な経済発展を遂げてきましたが、現在ではその視線を脱石油経済に向けています。観光、金融、再生可能エネルギー、宇宙開発といった分野への積極的な投資を通じ、多様な経済基盤の構築に取り組んでいます。また、法の支配や透明性の向上、イノベーションの推進により、国際的な信頼を獲得するとともに、未来志向の基盤を着実に整えています。

一方で、外国人労働者の権利保護や労働環境の改善といった課題も依然として残されています。こうした課題を克服し、社会全体の調和を図りながら、持続可能な発展を追求していくことが、UAEがさらなる成長を遂げるための重要な鍵となるでしょう。

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