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016『はなでんわ』ショートショート(392文字)

 祖母のスマホが鳴っていた。しばらく放っておいたが、祖母は困ったように、「ねぇ、どこを押すんだっけ?」と聞いてきた。僕はヤレヤレと、スピーカー通話にしてテーブルの上に置いてあげた。
 電話の相手は若い女性だった。今年の春、祖母から花の種を貰っていた人だ。彼女はさめざめと泣きながら、「お父さんと話せました。本当にありがとうございます」とお礼を言っていた。
「そう。それはよかったわ」と、祖母も涙目になりながら笑った
 祖母が育てているのは、オハナシバナという花だ。縁側から見える庭にも、真夏の日差しを浴びて、ひまわりのようにすっくと立っている。
 電話を終えた祖母がオハナシバナに近づいて、何か話しかける。蓄音機のホーンに似た花から、男の声が漏れ聞こえてきた。
 遺影でしか見たことのない、祖父の声らしい。
 普段は電話の代わりくらいにしかならない花だが、お盆には、こういうこともできるんだとか。

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