![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/149851917/rectangle_large_type_2_1efe95d02877fe4378c1915f8d4607cf.jpeg?width=1200)
015『郵袋類』ショートショート(393文字)
呼び鈴に応じて玄関を開けると、一匹のカンガルーが佇んでいた。彼(彼女?)は郵便局員の帽子とベストを着用しており、どこか使命感にあふれた、キリリとした表情をしていた。
「え、っと……」
呆気にとられていると、カンガルーはお腹の袋からゴソゴソと封筒を取り出し、こちらに差し出してくる。「どうも」と反射的に受け取ると、受領のサインを求められた。手渡されたペンで書くが、緊張からかぐにゃぐにゃになってしまう。受け取ったカンガルーは丁寧に帽子を取ってお辞儀をし、ぴょんぴょんと、ちょっとびっくりするくらいの跳躍力を発揮して帰っていった。
「本当なんだ……」
この地域に引っ越して一週間。地元の人間が言っていた、「ここではカンガルーが郵便配達に来るからね」というセリフが、冗談でもなんでもないことを思い知った。
あっという間に小さくなっていくカンガルーの背中。
郵袋類。
彼らのことをそう呼ぶらしい。