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015『郵袋類』ショートショート(393文字)

 呼び鈴に応じて玄関を開けると、一匹のカンガルーが佇んでいた。彼(彼女?)は郵便局員の帽子とベストを着用しており、どこか使命感にあふれた、キリリとした表情をしていた。
「え、っと……」
 呆気にとられていると、カンガルーはお腹の袋からゴソゴソと封筒を取り出し、こちらに差し出してくる。「どうも」と反射的に受け取ると、受領のサインを求められた。手渡されたペンで書くが、緊張からかぐにゃぐにゃになってしまう。受け取ったカンガルーは丁寧に帽子を取ってお辞儀をし、ぴょんぴょんと、ちょっとびっくりするくらいの跳躍力を発揮して帰っていった。
「本当なんだ……」
 この地域に引っ越して一週間。地元の人間が言っていた、「ここではカンガルーが郵便配達に来るからね」というセリフが、冗談でもなんでもないことを思い知った。
 あっという間に小さくなっていくカンガルーの背中。
 郵袋類。
 彼らのことをそう呼ぶらしい。


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