【SS】024『アンテ菜』|【逢いたい菜】#毎週ショートショートnote
手元には、彼女から届いたたくさんの葉書がある。紙ではなくて本物の葉っぱ。腐らないよう押し花にしてある。
これは「アンテ菜」という植物を介した通信方法だ。アンテ菜は接続したタイプライターからの文字情報を葉に映す。花が電波を送受信し、遠くへメッセージを送れる。
文明崩壊から百年。環境の変化によって誕生したアンテ菜で、人類は再び遠隔通信技術を手に入れていた。
崩壊後に生まれた世代でブームになっているのが、このアンテ菜を使った文通。特に彼女とはもう随分と長いことやり取りを続けている。彼女は、新たに出来た海の向こう側に住んでいる。
「そろそろ出発するぞ」
「ちょっと待って」
父が急かすが、僕は文字を打つ手を止めない。彼女に返事を出さないと。
『遠征隊に同行して海を渡れることになったんだ』
指が一瞬止まる。
ひと呼吸おいて、一気に打ち込んで送信キーまで叩いた。
『よかったら、逢いたいな』
アンテ菜がざわりと揺れて、彼女へメッセージが放たれた。
(410文字)
【菜】サイ・な
葉、茎などを食用とする草本類の総称。
だそうです。きっとアンテ菜も食える。
閲覧ありがとうございます。
今回はたらはかにさんの毎週ショートショートnoteのお題で参加させていただきました。
よければ他の作品もどうぞ。