ビズサイドの我々も知っておきたい プロダクトマネジメント〜ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける〜 要約
はじめまして。元エンジニアのマーケター田平です(@yoshi_tahi)。
今回は、『プロダクトマネジメント〜ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける〜』 の要約をお届けします。
プロダクトにまつわる専門的な話ばかりではなく組織論的な話も多いので、プロダクトマネージャーの方はもちろんのこと、エンジニアやマーケターなどプロダクトに関わるすべての方々におすすめの書籍です。私もマーケターですが非常に参考になりました。
そもそも本記事を書こうと思った経緯も、社内でプロダクト戦略の話が出てきた時に「プロダクトビジョンって何?」「会社全体のビジョンとの関係性は?」「そもそも開発サイドで使われている言葉が分からない」といった声が周りから聞こえてきた(ような気がした)からです。
プロダクトは顧客に価値を届ける媒体です。いわば我々と顧客の繋がりそのものです。そのプロダクトがどのようなプロセスで、どのような価値観のもと作られているのかビジネスサイドの我々も知らなければいけません。本記事がそのきっかけになれば嬉しいです。
そもそも「あんた誰やねん」と思った方は、キャリアの棚卸しに使える『Myブランド』というフレームワークと共に、自己紹介をしていますのでぜひ読んでみてください。
1. ビルドトラップの定義
ビルドトラップとは一言でいうと「組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして行き詰まっている状況」です。アウトカムとは実際に生み出された価値のことを指し、一方アウトプットは機能の開発・リリースをどれだけ行ったかを指します。プロダクト主導(アウトカム主導)の組織になることでビルドトラップを抜け出そう!というのが本書の目的です。
プロダクト主導(アウトカム主導)とはどういう状態のことを指すのか以降の章で説明していきます。
2. 価値交換システム
アウトカム主導を理解する上で欠かせないのが「価値交換システム」です。
ユーザーにとっての価値はプロダクトやサービス自体ではなく、そのプロダクトやサービスによってユーザーが抱えている問題やニーズを解決することにあります。
アウトプット主導
アウトプットは、人や機械、組織が作ったものの『かたまり』や『量』を示すものです。プロダクト開発におけるアウトプットとは、リリースしたプロダクトの機能やこなしたタスク、書いたコードの量ということになります。
アウトカム主導
アウトカムは、顧客が抱える問題の解決や行動の変容などアウトプットを受けて発生したもののことを指します。
プロダクトマネジメントで最も重要なのはアウトプットではなく、顧客が抱える問題を解決し、ビジネス的な成果、インパクトを与えること。アウトプットに偏重すると、リリース自体をゴールと捉えてしまうことが多くなるので要注意です。
「なぜ、そのプロダクト・機能を作っているのか」「どうやって顧客に価値を届けるのか」という問いこそが一番重要なのです。これがプロダクト主導(≒アウトカム主導)の組織への第一歩です。
3. プロダクト主導の組織
プロダクト主導(アウトカム主導)の組織とは何か理解するために、典型的なビルドトラップのパターンと比較してみましょう。
セールス主導
・契約時に約束しすぎてしまうことにより、過剰な個社対応に陥ってしまう
・アウトカムではなく、営業が顧客にした約束主導になってしまう
ビジョナリー主導
・会社のトップが1人でプロダクト戦略を考えて、会社がそれに向かって進む
・アウトカムではなく、ビジョナリーのプロダクト戦略主導になってしまう
テクノロジー主導
・最新のイケてるテクノロジーを軸に進む
・アウトカムではなく、テクノロジー観点での良し悪し主導になってしまう
これら3つに共通する問題は、マーケットを踏まえた価値主導の戦略の欠如です。一方でプロダクト主導の組織にはアウトカムに沿ったプロダクト戦略が存在します。
プロダクト主導(≒ アウトカム主導)
ビジネスアウトカムを軸に最適化し、プロダクト戦略を自分たちの目標(ビジョン)にあわせて調整(仮説・検証)する。
では、どうすればプロダクト主導(≒ アウトカム主導)の組織になれるのでしょうか?ビジョナリー主導型のビルドトラップからわかるように、この問いの範囲は会社全体に及びます。
以降の章では、会社のミッション・ビジョン、戦略のあるべき形について説明します。会社の戦略によってプロダクトの戦略も大きく変わります。
4. ミッション・ビジョン・戦略
アウトカム主導の組織になるためにはメンバー全員が正しい方向(顧客価値の最大化)に向かっていかなければなりません。そのために戦略が必要となります。戦略の上位概念となるミッションとビジョンから説明します。
ミッションとは
・企業の存在理由を説明するもの(目的)
ビジョンとは
・その目的に基づいてどこに向かっていくのかを説明するもの
・集中すべきところが明らかになるように焦点を当てる
ミッションとビジョンの詳細な定義については、こちらの記事を読むとより理解が進むと思います。
参考:ビジョンとは。ミッションとは。バリューとは。経営理念とは。わかりやすく解説
戦略とは
戦略とは計画ではなく、「実行可能な意思決定のフレームワーク」です。
・現在のコンテキストとの整合性を保ちながら、
・現在の能力の制約のもとで、
・望ましいアウトカムを達成するための行動を可能にするもの
戦略もあくまで仮説(検証の対象)で、「作るべき適切なものかどうか」「なぜ作るか」の問いに対する答えが出せるかが重要です。
では優れた戦略とはどういったものでしょうか?優れた企業戦略は、戦略フレームワークと運営フレームワークの2つの要素で構成されています。
5. 戦略展開
4章では戦略とは何かを説明しました。では、戦略を実行に移すにはどうすればいいのでしょうか?
そのためには適切な方向づけをする戦略展開が必要となります。戦略展開の手前で必要となる戦略策定と共に説明します。
プロダクト組織では、4つのレベルの戦略展開が必要となります。
書籍内に出てきた具体例も載せておきます。
※マーケティング担当者のためのオンライントレーニングを提供する架空のプロダクトです
6章ではプロダクト組織における戦略展開の具体的な手法について説明します。
6. プロダクトのカタ ~プロダクトレベルでの戦略展開~
「プロダクトのカタ」とは、プロダクトレベルに戦略展開し、実行することで作るべき適切なソリューションを明らかにするためのサイクルです。
プロダクトのカタに沿って進める際に大事なのは「戦略もあくまで仮説である」と考えることです。リーン・スタートアップでいうところの「検証による学び」が必要となります(下図参照)。
実際にプロダクトのカタに沿って進めるためには、以下のように各ステップで自分たちに問いかける必要があります。この問いに答えながら進むことで「仮説→検証→学び」のループが回り、顧客が求めているものに近づきます。(アウトカム主導)
7章~9章では、さらに具体的なプロダクト(ソリューション)への落とし込みのプロセスを解説していきます。
7. 方向性の理解と成功指標の設定
アウトカム主導でプロダクトを作るには、プロダクトの健全性とビジネスの健全性を示す指標を計測し続ける必要があります。このような指標をプロダクトの指標と呼びます。プロダクトの指標を使って方向性を定めます。例えば、海賊指標(AARRRモデル)やHEARTフレームワークといったものがあります。
一方で、間違った指標を計測すると簡単に行き詰まってしまいます。このようなプロダクトチームやビジネスの意思決定(行動や優先順位の判断)に役立たない指標を虚栄の指標と呼びます。ユーザー数、PV数、ログイン回数など「ユーザーがどのようにプロダクトと関わっているか分からない指標」が当てはまります。
リリースした機能の数などアウトプット志向の指標(生産性の指標)もプロダクトの指標には向きません。
8. 問題の探索
問題の探索とは、プロダクトイニシアティブ(どんな問題を扱えばいいかの指針)から具体的な問題に落とし込む(見つける、理解する)プロセスです。そのために、実際に顧客に会ってVoC(顧客の声)を集めたりします。
このような問題を見つけることを目的とした調査を生成的調査と呼びます。問題の根本原因を特定し、その状況を理解することが含まれます。ユーザー調査、観察、アンケート、顧客フィードバックなどが該当します。
一方、ユーザーがソリューションを簡単に使えるかを確認する調査を検証的調査と呼びます。ユーザビリティテストなどが該当します。
9. ソリューションの探索と最適化
ソリューションの探索とは、「問題の探索」で見つけた問題に対する解決策(オプション)を決めるプロセスです。
ここで大事なのはスピードです。ソリューションの探索の目標は素早いフィードバックを得ることにあります。そのために、実験による学習でソリューションを検証します。MVP(学習のための最小の労力)による実験がそれに当たります。
※MVPについてはリーン・スタートアップをご参照ください。
「ソリューションの最適化」のプロセスでソリューションの磨き込みを行い、プロダクト(機能)へ落とし込んでいきます。その際に以下の2つの要素が必要となります。
②の具体的な手法として「北極星のドキュメント」と「ストーリーマッピング」というものがあります。
リリース前に成功指標を設定して、そこに到達するまでユーザーのアウトカムを計測しながらサイクルを繰り返し続けることが必要となります。
10. まとめ
ビルドトラップとは何か?それは「組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして行き詰まっている状況」です。
まず、「ビルドトラップに陥る組織の特徴は何か?」を理解するために、ビルドトラップに陥る組織とプロダクト主導の組織について説明しました。
次に、プロダクト組織で戦略を実行に移すために必要な、4つのレベルの戦略展開について説明しました。
そして、脱ビルドトラップを目指した戦略展開と実行サイクルである「プロダクトのカタ」について紹介しました。「プロダクトのカタ」を活用することでアウトカム主導≒プロダクト主導に近づきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
自分の組織がビルドトラップに陥っていないか振り返る機会になれば幸いです。そして少しでもビジネスサイドと開発サイドの距離が縮まるきっかけになれば・・・と願っております!
ちなみに、組織の振り返りに使える「プロダクトマネジメントクライテリア」というチェックリストがあります。Notionで使えるチェックリストもあるのでオススメです!
他にもプロダクトマネジメント関連の書籍の要約記事を書いていますので、良ければ読んでみてください。
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参考書籍・記事
・プロダクトマネジメント〜ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける〜
・ビジョンとは。ミッションとは。バリューとは。経営理念とは。わかりやすく解説
・リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす
・シリコンバレーの企業は、どうやってNorth Star指標を選んでいるのか?
・製品開発に欠かせない、プロダクトロードマップの5つの必須要素
・プロダクトマネジメントクライテリア - プロダクトをつくるチームのチェックリスト